表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/10

第6話

抗戦都市への道


村を出てから、三日が経った。


道は、まだ“道”と呼べる形を保っていた。

だが、それは人が通っているからではない。

通らざるを得なかった痕跡が、残っているだけだ。


折れた荷車。

乾いた血。

埋めきれなかった土。


レイン・グレイブは、それらを一つ一つ見ていた。


目を逸らさない。

覚えるために。



隊列は、小さくなっていた。


夜の移動。

体力の限界。

途中で立ち止まった者。


誰も責めない。

責める意味がない。


「……この辺りから、増える」


ガルド・ヴァルムが言った。


「何が?」


「死体だ」


淡々と。



最初に見つけたのは、剣士だった。


装備は、まだ新しい。

胸を、鋭く貫かれている。


「……戦った形跡、少ない」


ガルドが屈み、そう判断した。


「奇襲だ」


「……勝てなかった?」


「勝つ前に、殺された」


それだけだった。



フィア・ルミナは、何も言わず、俯いていた。


魔法使いの感覚が、

空気の違和感を拾っている。


「……魔力、残ってる」


「魔族?」


「……うん。新しい」


つまり、

今も、近い。



昼過ぎ。


道の脇に、小さな集落跡があった。


家は崩れ、

井戸は埋まり、

火の跡だけが残っている。


「……寄らない」


ガルドが即座に言った。


「罠の可能性がある」


誰も反論しなかった。



夕方。


丘を越えた先で、

別の隊列と合流した。


十人ほど。

武装も、年齢も、ばらばら。


共通しているのは――

疲れ切った顔だけだ。


「どこから来た?」


「南の端だ」


「……ああ」


それだけで、話は通じた。



夜。


焚き火は、小さく。

煙が立たないよう、注意する。


話題は、抗戦都市だった。


「……本当に、守られてるのか?」


「守られてはいる」


「じゃあ、安全か?」


答えた男は、首を横に振った。


「安全な場所なんて、もうない」



レインは、剣を手入れしながら聞いていた。


抗戦都市は、

魔族の侵攻を押し返している唯一の場所。


だが。


「……毎日、戦ってる」


「守れてる分、狙われる」


「人が集まるほど、魔族も集まる」


希望であると同時に、

戦場の中心。



フィアが、レインの袖を引いた。


「……私、役に立てるかな」


「……立てる」


「根拠は?」


「……魔法、静かだ」


それだけだった。


フィアは、少しだけ笑った。



深夜。


遠くで、獣の声がした。


一つではない。

複数。


ガルドが、盾を握る。


「……隊列、詰める」


「戦う?」


「……逃げる準備だ」


戦うのは、最後だ。



音が近づく。


枝が折れる。

足音。


だが――

途中で止まった。


代わりに聞こえたのは、

別方向からの爆音。


「……魔法?」


誰かが言う。


丘の向こうが、淡く光った。


「……抗戦都市の外郭部隊だ」


ガルドが、息を吐く。


「……助かった?」


「いや」


盾を背負い直しながら。


「巻き込まれなかっただけだ」



夜明け。


遠くに、壁が見えた。


高い。

分厚い。


その上を、光が走る。


防衛魔法陣。


「あれが……」


誰かが呟いた。


抗戦都市。



レインは、立ち止まった。


思っていたより、近い。

思っていたより、遠い。


ここからが、

本当の戦場だ。



ガルドが、静かに言った。


「……ここまで来たら、戻れん」


「……うん」


「選ばれるぞ」


「……何を」


「戦うか、

 戦えないか」



レインは、剣を握り直した。


フィアは、指先を見つめる。


二人とも、まだ子供だ。


それでも。


ここまで来た。



抗戦都市は、

救いの場所ではない。


だが。


立ち止まる理由も、もうない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ