第6話
抗戦都市への道
村を出てから、三日が経った。
道は、まだ“道”と呼べる形を保っていた。
だが、それは人が通っているからではない。
通らざるを得なかった痕跡が、残っているだけだ。
折れた荷車。
乾いた血。
埋めきれなかった土。
レイン・グレイブは、それらを一つ一つ見ていた。
目を逸らさない。
覚えるために。
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隊列は、小さくなっていた。
夜の移動。
体力の限界。
途中で立ち止まった者。
誰も責めない。
責める意味がない。
「……この辺りから、増える」
ガルド・ヴァルムが言った。
「何が?」
「死体だ」
淡々と。
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最初に見つけたのは、剣士だった。
装備は、まだ新しい。
胸を、鋭く貫かれている。
「……戦った形跡、少ない」
ガルドが屈み、そう判断した。
「奇襲だ」
「……勝てなかった?」
「勝つ前に、殺された」
それだけだった。
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フィア・ルミナは、何も言わず、俯いていた。
魔法使いの感覚が、
空気の違和感を拾っている。
「……魔力、残ってる」
「魔族?」
「……うん。新しい」
つまり、
今も、近い。
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昼過ぎ。
道の脇に、小さな集落跡があった。
家は崩れ、
井戸は埋まり、
火の跡だけが残っている。
「……寄らない」
ガルドが即座に言った。
「罠の可能性がある」
誰も反論しなかった。
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夕方。
丘を越えた先で、
別の隊列と合流した。
十人ほど。
武装も、年齢も、ばらばら。
共通しているのは――
疲れ切った顔だけだ。
「どこから来た?」
「南の端だ」
「……ああ」
それだけで、話は通じた。
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夜。
焚き火は、小さく。
煙が立たないよう、注意する。
話題は、抗戦都市だった。
「……本当に、守られてるのか?」
「守られてはいる」
「じゃあ、安全か?」
答えた男は、首を横に振った。
「安全な場所なんて、もうない」
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レインは、剣を手入れしながら聞いていた。
抗戦都市は、
魔族の侵攻を押し返している唯一の場所。
だが。
「……毎日、戦ってる」
「守れてる分、狙われる」
「人が集まるほど、魔族も集まる」
希望であると同時に、
戦場の中心。
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フィアが、レインの袖を引いた。
「……私、役に立てるかな」
「……立てる」
「根拠は?」
「……魔法、静かだ」
それだけだった。
フィアは、少しだけ笑った。
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深夜。
遠くで、獣の声がした。
一つではない。
複数。
ガルドが、盾を握る。
「……隊列、詰める」
「戦う?」
「……逃げる準備だ」
戦うのは、最後だ。
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音が近づく。
枝が折れる。
足音。
だが――
途中で止まった。
代わりに聞こえたのは、
別方向からの爆音。
「……魔法?」
誰かが言う。
丘の向こうが、淡く光った。
「……抗戦都市の外郭部隊だ」
ガルドが、息を吐く。
「……助かった?」
「いや」
盾を背負い直しながら。
「巻き込まれなかっただけだ」
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夜明け。
遠くに、壁が見えた。
高い。
分厚い。
その上を、光が走る。
防衛魔法陣。
「あれが……」
誰かが呟いた。
抗戦都市。
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レインは、立ち止まった。
思っていたより、近い。
思っていたより、遠い。
ここからが、
本当の戦場だ。
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ガルドが、静かに言った。
「……ここまで来たら、戻れん」
「……うん」
「選ばれるぞ」
「……何を」
「戦うか、
戦えないか」
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レインは、剣を握り直した。
フィアは、指先を見つめる。
二人とも、まだ子供だ。
それでも。
ここまで来た。
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抗戦都市は、
救いの場所ではない。
だが。
立ち止まる理由も、もうない。




