第8話
抗戦都市の洗礼
連れて行かれた先は、地下だった。
石段を下りるたび、
空気が重くなる。
血と鉄の匂いが、濃くなる。
「……ここで?」
レイン・グレイブが尋ねると、
黒外套の兵は頷いた。
「模擬戦じゃない」
「実戦だ」
⸻
通路の先に、柵があった。
向こう側で、
何かが動いている。
低い唸り声。
爪が石を削る音。
「……捕縛した斥候だ」
兵は淡々と言う。
「殺せとは言わない」
「止めろ」
⸻
柵が、上がった。
魔族が、飛び出す。
小柄。
だが、動きが速い。
(……速い)
レインは、即座に距離を取った。
剣を抜く。
足が、自然と後ろへ下がる。
――逃げるな。
ガルドの声が、
頭の奥で響いた。
⸻
魔族が、踏み込む。
レインは、斬った。
浅い。
刃が、弾かれる。
(……硬い)
次の瞬間、
爪が迫る。
間一髪で、身を捻る。
頬が、熱を持つ。
(……近接だけじゃ、足りない)
⸻
一瞬、呼吸を整える。
頭の奥が、静かになる。
――魔力。
ほんの少し。
出しすぎない。
(……付与)
剣に、熱が走る。
派手な炎は出ない。
ただ、刃が、通りやすくなる。
次の斬撃。
今度は、入った。
魔族が、後退する。
⸻
観察していた兵が、低く呟く。
「……切り替えが早い」
「同時じゃない。だが……」
評価は、まだ途中だ。
⸻
魔族が、声を上げる。
魔力が、膨れた。
(……来る)
レインは、
地面を蹴った。
正面ではない。
横。
斬る。
避ける。
一歩ずつ、
距離を削る。
⸻
最後は、
足を狙った。
体勢が崩れる。
魔族が、倒れる。
剣を、喉元に突きつける。
止まった。
⸻
「……十分だ」
兵の声で、
柵が降りる。
魔族は、拘束された。
レインは、その場に座り込んだ。
息が、荒い。
腕が、震える。
⸻
「殺さなかったな」
兵が言う。
「……命令だった」
「それだけか?」
レインは、少し考えた。
「……殺せなかった」
それも、事実だった。
⸻
しばらくして、
別の人物が現れた。
剣を背負った、女。
装備は簡素だが、
動きに無駄がない。
――強い。
一目で、分かる。
「これが、噂の“厄介な型”?」
女は、レインを見る。
「……子供だな」
「……はい」
「正直だ」
少しだけ、口角が上がった。
「私は前線の剣士だ」
「名前は、また今度でいい」
⸻
女は、兵に向き直る。
「この子、私の部隊に回せ」
「正気か?」
「使い捨てにするには、惜しい」
同じ言葉。
だが、今度は――
少しだけ、違って聞こえた。
⸻
レインは、立ち上がる。
足は、まだ震えている。
それでも。
ここで、
折れるわけにはいかない。
⸻
抗戦都市は、
優しくない。
だが。
試す価値がある者には、
ちゃんと試練を与える。
それが、洗礼だった。




