ある晴れた昼下がりの4
教会の中に帰ると神像の掌の上でリンゴは明滅していた。充電中に光ってお知らせする家電のようで不覚にも笑ってしまった。
人の食事からでは吸収できない栄養もあるそうなので神像や聖域などでの定期的な補給は必要不可欠らしい。そんなリンゴを横目に私は引きずってきた樽へと目をむける。
いろいろなイメージが頭に浮かぶ。風呂だ。とにかく風呂に入りたい。
「・・・いけるか」
杖を使わず樽の表面に指を這わす。指先に細く魔力を込めながら陣を描く。描かれた場所が岩で覆われるように魔法陣で内側も外側も覆っていく。イメージ通りに出来上がればここまでの旅路も報われる。あと単純に風呂に入りたい。
本来であれば拠点防衛時などの陣地作成の際に木造建築物を岩で補強するために用いられる土系統の法陣術である。そもそも法陣術は少しのミスも許されない完璧を求められる魔法である。それを対象に合わせて細かい調整をしているこの状況を他の魔法使いが見たら卒倒するか、夢かと思うだろう。
「できた」
作業すること三十分ほどで、そこには滑らかな岩に覆われた樽があった。ここにお湯を入れれば立派な風呂になる。
風呂の完成に気を良くしつつ、教会内部の椅子やベンチなどを鼻歌混じりに魔法で浮かし、壁際に移動させてなり広いスペースを確保する。
そこに床に置いていた背嚢から一人用の小型のテントや鍋などの調理器具を取り出し簡単な夕食の準備と寝床の設営を始める。夕食の材料はこの教会の中に保管されていた乾燥食料などで、作るのは冒険者の定番食であるごった煮である。
「結局栄養丸ごと取れるからなこのほうが」
そう呟きながら素材のヘタや包みを剥がしながら鍋の中に放り込んでいく。指先から飲料水を放出する魔法で鍋に水を張り、金属製の鍋の蓋の上に魔法で火をつける。こうすると屋内でも床が燃えないので調理する時に困らない。
鍋の蓋の上でゆらゆら揺れる火を見つめながら着ていた上着を脱ぎ、ブーツや身につけていた装備も外して身軽になっていく。ポケットの中に何もないかを確認し全てを裏返しにして一纏めにしておく。
出来上がったごった煮は思いの外味が無く、慌てて味噌を溶かしたあたりで豚汁じゃないかと思った。風呂樽に魔法で水を溜めながらゆっくり食事を摂る。鍋いっぱいの食事を終わらせたところでやっと人心地つくことが出来た。




