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向いている方向

赤目は、人気のない路地へと一行を導いた後、優雅に身を翻した。

「失礼した。私の名は赤目あかめ。実は、私は忍びの里にいる刀司、赤目八目党の頭を務めている」

その衝撃的な告白に、松本は目を見開き、一刀もまた驚きを隠せなかった。忍びの里の刀司など、これまで会ったこともない存在だったからだ。

「よもや、刀司の名を、このような町中で聞こうとはな。そちらも、やはり三浦雪舟の噂を聞きつけてのことか?」

赤目の問いかけに、一刀は素直に答えた。

「いや、偶然耳にしただけだ」

一刀は、彼らの旅の真の目的を、隠さずに伝えた。

「俺たちはこの静がもつ難儀の蓋を閉じたことから始まり、全ての難儀を壊すことを目的に旅をしている。今、二つ目までを終え、ここに来た」

一刀は、共通の使命を持つ者として、赤目から何らかの情報を引き出そうと考えた。赤目もまた刀司であるならば、この町の難儀の蓋について知っているはずだ。

赤目は、一刀の壮大な旅の目的を聞いても、その表情を大きく変えることはなかった。

「そうか」

赤目は、静かに頷いた。

「お前たちの実力が如何ほどかは解らぬが、我々の邪魔立てだけは致すな。そして、素性については互いに明かさぬよう配慮願う」

赤目は、そう言い放つと、会話を打ち切るように一礼した。


「さらば」

赤目の一方的な態度に、睡蓮が鋭く声を上げた。

「待て! 共闘しないつもりか?」

静も、強い口調で食い下がった。

「そうよ、目的が同じなら協力しあうのが刀司の務めなのではございませんか? なぜ、ことさらに素性を隠す必要があるのですか?」

赤目の冷淡な姿勢は、人の絆を何よりも重んじる静の『守り人』としての信念に反するものだった。

赤目は、二人の問いかけに、冷ややかな瞳で応じた。

「今日昨日会ったばかりの、どこの馬の骨とも知らん奴らと、なぜ馴れ合わねばならぬ?」

赤目の言葉は、冷徹な現実主義に基づいていた。

「仮に、我々が馴れ合って失敗すれば、この日の本は、二度と朝日の昇らぬ国になってしまう。その責めを負う義理は、我々にはない」

そして、赤目は決定的な警告を発した。

「邪魔立てするなら、ここでお前たちを始末するのみ。――互いにムダな労力となるがな。それこそ悪魔の思う壺」

赤目は、彼らと同じ刀司でありながら、一刀たちを信用せず、自身の組織の使命を最優先するという確かな意思表示を示した。

「しかし……」

一刀は、赤目の非情な現実主義に対して、なおも反論しようとした。


しかし、それを遮るように、松本が割って配る。

「わかったよ。そっちはそっちでやりな」

松本は、一刀の肩を掴んで冷静になるよう促し、赤目に問いかけた。

「それより、あんたが探してたあのもじゃもじゃ頭(時雨)を見つけたら、どうすりゃいい?」

松本は、時雨が赤目の任務に関わっていることを理解していた。

赤目は、一瞬の沈黙の後、規律めいた言葉で指示を伝えた。

「『規律通りに』、と言えば、馳せ参じる」

その言葉が、時雨の村の背後にある秘密と、赤目の組織の厳しさを示唆していた。

赤目は、それ以上何も語らず、一刀たちに冷たい視線を一瞥すると、優雅な足取りで闇の中へと立ち去った。


赤目が闇の中に消えると、一刀たちは静かに息を吐いた。場の空気を最初に破ったのは、睡蓮だった。

「いい奴だと思っていたが、とんだ連中のようだな」

睡蓮の言葉には、明らかな失望が滲んでいた。

松本は、腕を組みながら、赤目の判断に理解を示した。

「俺は最適解だと思うぜ。少なくとも俺も、素性の知れない奴とは組めねえ」


静は、複雑な思いを抱きながらも、すぐに守り人として次の行動を整理した。


「私たちのやることは、二つ。これは変わらないわ」

静は、指を折って確認した。

「一つ、三浦雪舟から難儀の蓋を取り返すこと。そして二つ、時雨くんに赤目の伝言を伝えること」

彼女は、最悪の可能性についても言及した。

「先にあの赤目と時雨くんが接触していたら、その時は雪舟の難儀の蓋のみが、私たちがなすべき事になる」

「よし! そうと決まったら宿屋を探すぞ。腹も減ったしな」

松本は、重い使命と新たな敵の存在を一度脇に置き、人間としての自然なる欲求を優先する事に決めた。静も疲労の色を浮かべ、「そうね」と同意した。

一刀たちは、町の賑やかな大通りへと戻り、手近な宿屋を見つけた。旅の者としては、まず体を休める場所が必要だった。

しかし、宿屋の女将は、一刀たちの顔を品定めするようにじろじろと見つめた後、慇懃無礼に断ってきた。

「申し訳ございませんね、お客様。あいにく本日は満室でして。他を当たっていただけますでしょうか」

「満室? 今はまだ昼日中だろ」松本が訝しむ。

女将は愛想笑いを浮かべるだけで、それ以上応じようとしなかった。

一刀たちは、不審に思いながらも別の宿屋を探した。しかし、どの宿屋に行っても、返ってくる言葉は同じだった。

「満室で」「急な団体様の予約が入りまして」「申し訳ありませんが、本日はご遠慮いただいております」

三軒、四軒と回るうちに、一刀たちの顔に苛立ちと困惑の色が濃くなっていった。この町には、明らかに異常な空気が流れていた。

「おい、なんだこりゃ。まるで町中の宿屋に締め出されてるみたいじゃねえか」

「こんなに大きな町で、全ての宿屋が満室なんて……あり得ないわ」静の顔にも徒労が見える。

一刀は、事態を瞬時に察した。

「三浦雪舟の仕業だ」

一刀の言葉に、一同はハッとした。自分たちが屋敷を後にした後、雪舟は用心棒による追撃だけでなく、あらゆる手段を使って彼らを町から締め出そうとしていたのだ。豪商の持つ財力と影響力は、想像以上に大きかった。

彼らは、休む場所さえ奪われ、三浦雪舟の監視下に置かれていることを悟った。




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