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豪商 三浦雪舟

一刀、松本、静、睡蓮の一行は、豪商・三浦雪舟の壮麗な屋敷へと赴いた。彼らは、難儀の蓋が悪魔の手に渡るのを防ぐため、雪舟と対面し、事情を説明して蓋の回収を試みるためだ。

雪舟は、趣味の悪いほど豪華な調度品に囲まれ、自信に満ちた態度で彼らを迎え入れた。

静は、一刀の刀司としての立場と、彼らが悪魔の難儀を追っていることを丁寧に説明した。

「三浦様、お持ちの舶来の珍宝は、実は恐ろしい呪物、難儀の蓋かもしれません。どうか、それを私たちにお預けください」

しかし、雪舟は、その異様な話を聞いても、微塵も頓着する様子がなかった。

「はっはっは! 難儀だの、悪魔だの……面白いですな。まるでおとぎ話のようだ。私の宝物が呪物などと。もしや、皆様も、その宝物を狙う泥棒の一味ではありませぬかな?近頃、私の蒐集品を手を変え品を変え騙し取ろうとする輩が後を絶ちません。時には月夜に乗じて押し込もうなどという不埒な者たちも物騒な世の中でございます」

雪舟は、急に鋭い目になり、静たちを帰るようにと命じた。

「これ以上の無礼は許しませぬ。さあ、大人しくお帰りなさい」

一刀は、雪舟の頑なな態度と、背後に控える用心棒たちの殺気を察した。この場で戦闘になれば、睡蓮の体力が完全に回復していないこと、そして優蛇の死という精神的な傷を抱え抱えていることを考慮すると、得策ではない。

一刀は、静に視線を送り、今は引くという意図を伝えた。

「分かりました、三浦様。本日は、ご無礼いたしました」

静も、一刀の判断に頷き、無駄な衝突を避けるため、四人は雪舟の屋敷を後にした。雪舟は、彼らのあっけない引き際を、嘲笑とともに見送った。

静たちが屋敷を完全に離れた後、雪舟は部屋の奥へと戻った。

「くだらぬ連中だ。あの女は呪物などと言っていたが、どうせ本物の価値を知り、奪おうと企んだのだろう」

雪舟は、後ろに控えていた腕利きの用心棒たちに、低くドスの効いた声で命令を下した。

「四人の泥棒を追跡し、宝物のことを嗅ぎ回る前に、始末してこい。屋敷の外で、痕跡を残さぬようにな」

用心棒たちは、雪舟の命令に無言で頷き、影のように屋敷を飛び出し、静たちが去った方向へと追撃を開始した。

三浦雪舟の屋敷を後にした一刀たちは、町の外れにある河原へと移動し、今後の次善策を練っていた。

「チッ、あの豪商、話の通じる相手じゃねえな。無理やり突入するしかねえか?」

「駄目よ、用心棒が強すぎる。それに、私たちは難儀の蓋を回収するのが目的で、無益な殺し合いをしたいわけじゃない」

睡蓮は、静かに河の流れを見つめていた。

「妙案が浮かばないな……。夜になるのを待って、潜入を試みるしかないか。だが、そのためには、まず宿屋を見つけ、体力を回復させなければならない」


一刀が頭を掻く。一行は、結論が出ないまま、とりあえず町へ戻り、宿屋を探すことに決めた。


町へと続く橋を渡っていると、彼らは一人の旅人とすれ違った。


その人物は、背の高い、美しい女性のような男性だった。流れるような長い黒髪に、洗練された着物姿。彼は、もじゃもじゃ頭の青年――つまり、兵藤時雨の特徴を尋ねた。

「その青年は、遠い村から、ある方の頼みを受けてこの町へ来たはずなのですが、行ったきり、一向に帰ってきませんで。私もその方から、捜してくるように頼まれて、こうして追ってきた次第なのです」

一刀は、その優雅な男性が、時雨の村長の仲間ではないかと疑いながらも、嘘をつくことは得策ではないと判断した。

「ああ、その青年なら、つい先ほどこの橋の上で倒れているのを見かけました。空腹で動けない様子でしたが、今はもう立ち去ったようです」

一刀の素直な告白に、男性は心底安堵したような表情を見せた。

「おお、それは良かった。ご親切に感謝いたします」

男性は、着物のたもとから、小さな革袋を取り出し、一刀に差し出した。

「これはお礼です。旅の路銀にでもお使いください」

袋の口が開き、中に収められた一つの宝石が、ランプの光を浴びて怪しく輝いた。それは、透明な朱色をしており、内部に複雑な渦を巻いている。

(これは……!)

一刀は、その宝石を見て、激しい衝撃を受けた。その朱色の輝き、そして渦を巻くような異様な質感は、彼が悪魔を倒した際に、悪魔の肉体から現れるもの、すなわち難儀の源の凝縮された残骸と酷似していたからだ。

この男性は、悪魔の残骸を「お礼の品」として持ち歩いている。この事実は、彼が時雨の村の背後にある難儀と深く関わっていることを示していた。

一刀は、真意を悟られぬよう、強い警戒心を胸の奥に隠しながら、丁重にその宝石を辞退した。

「お気遣い痛み入ります。ですが、困っている人を助けるのは当然のこと。お代は結構です」

男性は、一刀の堅実な態度に少し驚いたようだったが、すぐに表情を戻した。

「左様で。誠に清廉なお方だ。それでは、失礼いたします」

男性は、宝石の袋を再びしまい、時雨が去った方向へと優雅な足取りで歩き去った。

一刀たちは、その背中が見えなくなるまで見送り、沈黙の中で深刻な顔を見合わせた。






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