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隠し事

所変わって、山間の道から賑わいのある郊外へと続く、大きな橋の上。

もじゃもじゃ頭の一人の青年が、橋の上に、大の字になって倒れていた。

「ダメだ。もう微塵も動けない。腹が……。このままじゃ餓死する」

青年は、呻き声を上げた。

「僕の人生、いつもこんなだ。ついてない。ギリギリで生きてきたけど、今度こそ詰みだ。詰んだ、終わりだ」

そう呟いたのを最後に、青年は力尽きたように意識を失った。

その絶望的な現場へ、一刀、松本、静、睡蓮の一行が通りかかった。彼らは、次の難儀の蓋を求める旅路についていた。

松本は、倒れている青年を一瞥し、顔をしかめた。

「死んでんのか?」

静は、すぐに青年のそばに駆け寄った。

「まだ生きてるわ。寝てるみたいだけど、顔色は良くない」

一刀は、その大胆な寝方に驚いた。

「橋の上で、凄い度胸だな。いくら俺でも無理だ」

その時、意識を失っていた青年が、弱々しいうわごとを漏らした。

「死んでやる……死んじまう……でも死にたくない」


「言っていることが無茶苦茶だわ。」

呆れるように静が言い放つ。

松本は、現実的な対処に移った。このまま橋の上に放置しておくわけにはいかない。

「ったく、寝るならせめて端っこで寝ろ。取りあえず、こんなど真ん中で通行人の邪魔だろう」

松本はそう言いながら、もじゃもじゃ頭の青年の足首を掴んだ。

「あの木の下まで引きずっていって、起こして訳を聞こう」

松本は、容赦なく青年をズルズルと引きずり始めた。一刀、静、そして睡蓮も、松本に続いて橋のたもとにある大きな木陰へと移動した。

「鞍馬、ちょっと乱暴よ!」

静が注意する。

「このぐらいで死ぬようなたまじゃねえよ。腹減らしただけだろう?さっきからグーグー腹の虫鳴かしてやがる」

木陰に辿り着くと、静は水筒から水を取り出し、青年の顔に数滴垂らした。青年は、咳き込みながら意識を取り戻した。

青年は、状況が理解できず、ぼんやりと周囲を見渡した。目の前には、光の短刀を持つ男、黒い義手の男、神社の娘のような少女、そして鎌の痕跡を持つ憂いを帯びた美女が立っている。

「え、あ……僕、死んでなかった……?」

青年は、混乱した様子で呟いた。

「残念ながらな」

松本は冷たく言い放った。静が松本の頭を小突く。

「お前、何でこんなところで倒れてやがった。名前と事情を話せ」

「――。その前に水と何か食える物、路銀を少々お貸し願いたい」

「厚かましすぎんだろ!助けてやった礼ぐらい言えや。事情を話せ!それからだ」

青年は松本に張り倒される。


松本の問いに、青年は震える声で答えた。

「僕の名前は、兵藤時雨ひょうどう しぐれです……」

怯えた目で松本を見据える時雨。松本は腕を組み、冷ややかな視線を向け、続けるように促す。

時雨は、観念したように、ここまでの経緯を話し始めた。

「僕は、遠くの村の村長の命を受けて、この町までやって来たんです」


「ですが、路銀として渡された金を、途中の宿場でまんまと騙されて持ち逃げされました。それだけじゃなくて、急ぎの用事だったんで、借金をしてまで進もうとしたら、その金も女に騙されて持ち逃げされて……」

時雨は、自分の不運とだらしなさに、心底嫌気がさしているようだった。

「借金取りにも追われ、なんとか目的地には着いたものの、一文無しで、目的を果たすことができず……。力尽きて、橋の上で腹をすかせて倒れていたんです」

極度の不運と自己責任が絡み合った、自業自得な顛末だった。

松本は呆れたように頭をかいた。

「救いようがねえな、テメェは」


静は同情の色を浮かべたがそれは一瞬だった。このもじゃもじゃとは関わりあいになってはいけないという意識が働いたからだ。

「で、その目的は何だったの?」

時雨は、その問いに対しては頑なに口を閉ざした。

「そ、それだけは言えません。村長様との約束なので……」

時雨の顔が一瞬曇る。目が泳ぎ、明らかに何かを隠しているようだったが一同、触れなかった。


持っていた握り飯を与え、時雨とはその場で別れた。


時雨と別れた一刀たちは、神戸へと向かう旅を再開した。その道すがら、彼らは町で一つの噂を耳にする。

それは、この町にいるある豪商が、近頃、長崎伝来の特別な宝物に強い興味を示し、その収集に莫大な金をつぎ込んでいるという話だった。さらに、その豪商は、宝物を守るために腕の立つ用心棒たちを雇い入れているという。

一刀たちは、この豪商が難儀の蓋を持っていると推察し、「豪商=源兵衛」ではないかと判断した。


豪商の名は三浦雪舟みうら せっしゅう。土佐出身で、珍しい舶来品を収集することに情熱を注ぐ、生粋のコレクターだった。

彼の長崎の宝物への執着を利用し、一人の盗人が、時雨の村から盗み出した難儀の蓋を、異国の珍品として雪舟に売りつけた。雪舟は、その蓋が持つ禍々しい力を神秘的な価値と誤認し、大金を投じて購入した。

しかし、この難儀の蓋は、実は偽物だった。

盗人が雪舟に売る直前、源兵衛が介入し、本物の難儀の蓋をさらに高い値段で買い取ると打診していたのだ。盗人は巧妙な偽物を渡し、それを雪舟に売りつけた。盗人は今、源兵衛に指定された受け渡しの地へと向かいこの土地を去っていた。


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