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残酷

悪魔を討ち果たした睡蓮は、神具の鎌の光を失い、精魂尽き果てたように、その場に膝をついた。身体に突き刺さった羽根からの出血、そして力を極限まで引き出した反動が、彼女の全身を襲った。

「優蛇……やったわ……今、助け……る……」

しかし、彼女の視線が、処刑台に向けられた、その瞬間――

悪魔が消滅したにもかかわらず、獣鳥の悪魔の最後の呪い、あるいは仕掛けられた時間が尽きたためか、処刑台の歯車が、最後の、そして最も残酷な回転を始めた。

優蛇の身体に張り付いていた拘束具から、巨大な刃が作動した。

「あああ……!」

優蛇の口から、もはや悲鳴とは言えない、魂の叫びが漏れた。

睡蓮が、優蛇を救うために力を使い果たし、膝をついた、その目の前で――

優蛇の四肢が、処刑台の仕掛けによって、無残にもちぎれ飛んだ。

優蛇の命の灯は、一瞬にして消え失せた。

目の前で起きたあまりにも残酷な光景に、睡蓮の全身の血が凍りついた。優蛇の無残な姿と、処刑台の鎖から滴り落ちる血。彼女が、命を賭して悪魔を討ち果たし、勝利を掴んだ、その直後の出来事だった。

「…………ああ」

喉の奥から漏れたのは、もはや悲鳴ではない、獣のような、深く、途方もない絶叫だった。

「あああああああアアアアアアアアア!!!!」

それは、弟の死、己の無力、務めを果たせなかった絶望、全ての感情が混じり合った、この世の地獄を体現する叫びだった。

睡蓮は、優蛇のもとへ、一歩でも、半歩でも近づこうと、地面に突き刺さった鎌の神具に手を伸ばした。

「優蛇……優蛇……!」

しかし、神具の力を極限まで引き出し、身体に幾つもの傷を負った彼女の肉体は、その命令を完全に拒否した。

ガンッ!

彼女は、伸ばした手が鎖の切断に届くことなく、そのまま力尽きて、冷たい岩場に顔から倒れ込んだ。

彼女の左手の鎌の神具は、力を失い、鈍い光を放つだけに終わった。

優蛇の死体は、手を伸ばせば届く距離にある。だが、その一歩が、永遠に遠い。

睡蓮の意識は、痛みも悲しみも感じない、絶対的な虚無の闇へと沈んでいった。彼女の瞳に映るのは、ただ一つ――自分が守りたかった、全てが失われた景色だけだった。

睡蓮が獣鳥の悪魔を追って山奥へ消え、広場に残されたのは、一刀、松本、静の三人。

彼らの目の前には、三人の組の長の怨念と悪魔の力が組み合わさった、おぞましい合体魔物へと変貌した村長が、禍々しい難儀の源を背に、ゆっくりと迫ってきていた。


村長だった怪物は、山羊の角と複数の人間の顔を宿し、四本に増えた腕からは、黒い粘液が滴り落ちていた。その巨体は、憎悪と恐怖を具現化したかのように、見る者に生理的な嫌悪感を抱かせた。

「我々の富を……力となせ!」

村長から響く声は、複数の声が重なったような、異様な不協和音だった。


松本は、吐影との戦闘で疲弊し、息を切らせていたが、目の前の脅威から目を離さない。

「チッ、一刀! 奴は複数の魂を食っている。普通の攻撃じゃ効かねえぞ!」


一刀は、バフォメットの出現と睡蓮の離脱、そして優蛇の危機に心を乱されそうになりながらも、短刀を強く握りしめた。

「ああ、分かっている。鞍馬、正面の憎悪の顔を抑えろ! 静、俺の背後で霊力ちからを集中しろ! 奴を斬るには、神具の真の力が必要だ!」


一刀は、光の短刀を構えると、村長(合体魔物)の黒い粘液を吐き出す攻撃をかわし、その巨大な体に接近した。松本は、悪魔の義手の力で、怪物の四本の腕から繰り出される野蛮な打撃を、荒々しい剣術で受け流す。


松本の刀が、怪物の腕と激しく衝突する。松本の体がよろめくが、憎悪の力が彼の体を支えていた。

「この野郎、力だけは一丁前だな! いい度胸だ。その悪趣味なツラ、へし折ってやる!」

その間、静は、崩壊した蔵の瓦礫を背に、目を閉じ、優雅な舞のような所作で、霊力の集中を始めた。


彼女の守り人の務めは、戦闘ではない。刀司の力を最大限に引き出し、神具が真の力を発揮できるよう、媒介となることだ。


静の指先から、清らかな霊力が、光の糸となって一刀の背中へ流れ込み始める。一刀の光の短刀は、その霊力によって再び朱と青の炎を燃え上がらせた。

「もう少しだ、静! 奴の『業』の核を、一撃で断ち切る!」


三人は、蔵の残骸と解き放たれた難儀の源が渦巻く、この地獄のような広場で最後の賭けにでようとしていた。

松本が村長(合体魔物)の猛攻を正面から受け止める中、静は一刀の背後で霊力の集中を続けていた。しかし、彼女の視線は、満身創痍の一刀の背中から離れない。一刀の衣服は、樹との戦いで切り裂かれ、その傷口からは血が滲んでいた。


「一刀、大丈夫なの? あなたの体は、さっきの戦闘でぼろぼろじゃない!」

静の霊力は、一刀の神具を強化するが、彼の肉体的な消耗までは回復できない。彼女の声には、仲間への深い心配が滲んでいた。

一刀は、光の短刀を強く握りしめ、静の懸念を一蹴した。

「今は奴を倒すことだけ考えろ! 俺の身体なんて、どうでもいい!」


「どっちも大事に決まってるでしょ!? なんでいつもあなたはバカなの!?」

静は、一刀の自己犠牲的な姿勢に、抑えきれない怒りを爆発させた。彼女は、守り人として、刀司の命を何よりも優先しなければならない立場にある。


しかし、静はすぐに、この場での一刀の覚悟と、彼の使命感の強さを理解した。霊力を集中させる手を止めることはできない。

彼女は、溢れる涙を堪えながら、強く、しかし愛のこもった脅しをかけた。

「いい? 死んだら承知しないから! もし、生きて戻らなかったら、死んだら死ぬまではっ倒してやるから! だから、必ず戻ってきなさい!」


静の霊力は、その怒りと愛情によって、さらに清らかで強大な輝きを増し、一刀の神具へ流れ込んだ。

「ありがとう、静」

一刀は、その言葉だけを返し、神具の真の力を解放するため、合体魔物めがけて、最後の突撃を開始した。


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