表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/38

分散

全員の意識が前方の脅威に集中していた、その時。

優蛇の、代々受け継いだ守り人としての野生の勘が、背後の気の異変を捉えた。


優蛇は、肌が粟立つのを感じた。それは、村長とは異なる、冷たく、飢えた獣の気配。

「静さん、避けろ!」

優蛇は、警告するよりも早く、自分の隣にいた静を渾身の力で突き飛ばした。静は、地面に転がり、何が起こったのか理解する間もなかった。


優蛇の背後から滑り寄っていたのは、寄合の場に現れた獣と鳥が合わさった悪魔だった。バフォメットが去った後も、この飢えた悪魔は、獲物を求めて、暗がりに潜んでいたのだ。

悪魔の猛禽類の鋭い爪が、優蛇の背中を深々と抉った。

「ぐっ……がああッ!」

優蛇は、耐えがたい激痛と共に呻き、血飛沫を上げた。彼の体は、爪の衝撃で前方へ吹き飛ばされ、静が突き飛ばされた場所のすぐそばで、力なく地面に崩れ落ちた。

「優蛇!」

その悲鳴は、睡蓮から発せられた。弟が、自分の目の前で深手を負わされた。彼女の顔は、悲しみと、弟への責任からくる、激しい怒りに歪んだ。

「よくも……私の弟を!」

睡蓮は、崩れ落ちた優蛇を庇うように、悪魔の前に立ち塞がった。彼女の左腕の鎌が、朱色と群青色の禍々しい光を放ち、殺意を込めた武器としてその姿を際立たせた。

獣鳥の悪魔は、優蛇を餌にするつもりが、新たな獲物が現れたことに、喜悦の唸り声を上げた。

「ほう。二つ目の神具を持つ女か。そのごう、実に美味そうだ」

「黙れ、悪魔の屑!」

睡蓮は、鎌の神具を横一閃に振り抜き、全身の力を込めて、獣鳥の悪魔へと応戦した。

一刀と松本は、目の前の村長と、背後で始まった睡蓮の戦闘の、二つの脅威に挟まれ、最大の試練を迎えることになった。

睡蓮の鎌の神具が放つ朱と群青の光が、獣鳥の悪魔めがけて斬りかかった。

「弟を傷つけた報いだ!」

睡蓮の攻撃は鋭く、弟を想う激しい業が乗っていたが、獣鳥の悪魔はそれを巧みにかわした。悪魔の目的は、一刀たちを分断すること、そして睡蓮と優蛇を血祭りにあげることだった。

悪魔は、睡蓮の攻撃を避けるとその巨体を翻し、地面に倒れ伏している優蛇めがけて、素早く滑り寄った。

「そいつは、お前を絶望させるための生贄だ。裏切り者どもはどうなるか――」

悪魔は、深手を負い、もはや抵抗できない優蛇の身体を、鋭い爪を持つ足で鷲掴みにした。

「姉貴……!」

優蛇は呻き声を上げ、姉に助けを求めようとするが、悪魔は容赦なく翼を広げ、崩壊した蔵の広場から飛び立とうとした。

「優蛇!待て!」

睡蓮は、鎌を悪魔めがけて投げつけようとしたが、その鎌の軌道では弟の身体をも傷つけてしまう。彼女は一瞬、ためらった。

その一瞬の躊躇が、決定的だった。

獣鳥の悪魔は、空へと舞い上がりながら、勝ち誇ったように叫んだ。

「そこの愚か者どもは、お前たちが相手をしろ! この愚かな守り人は、別の場所で、ゆっくりと絶望を味わってもらう!」

悪魔は、優蛇を掴んだまま、木々の間を縫うように、一気に山奥へと飛び去っていった。

「待て!私の弟を、優蛇を返せ!」

睡蓮は、もはや蔵の宝も務めも頭になかった。彼女を突き動かしているのは、唯一残された家族である弟を奪われた怒りと恐怖だけだった。

睡蓮は、一刀や松本に言葉を残す間もなく、左腕の鎌の神具を閃かせながら、悪魔が飛び去った山奥めがけて、ただひたすらに走り出した。


広場に残されたのは、一刀、松本、静の三人。

彼らの目の前には、三人の組の長の怨念と悪魔の力で、複数の腕と顔を持つおぞましい合体魔物へと変貌した村長が、禍々しい難儀の源を背に、ゆっくりと、しかし確かな殺意を持って迫ってきていた。

一刀は、深手を負い、松本は疲弊しているそして、仲間と、この土地の守り人を一度に失った。

「くそっ、 戦力を分散させやがって!」

松本は、目の前の巨大な怪物と、遠ざかる睡蓮の背中を交互に見て、悪態をついた。

一刀は、光の短刀を地面に突き立てて立ち上がり、目の前の村長(合体魔物)を見据えた。

「行くぞ、鞍馬、静。これ以上、誰も失うわけにはいかない」

二人は一刀の呼びかけに応じた。

一方、睡蓮は、獣鳥の悪魔が弟の優蛇を掴んで飛び去った山奥へと、左手の鎌の神具を頼りに、ただひたすらに走り続けた。崩壊した蔵の前で繰り広げられている一刀たちの戦闘も、彼女の意識からは完全に消え失せていた。

「優蛇……! 待っていろ! 私が必ず、お前を助けだす!」

深い山は、既に難儀の気に満たされ、足元はぬかるみ、視界は悪い。睡蓮は、悪魔に誘導されるまま、人里離れた、古びた岩場へと誘い込まれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ