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新たな脅威

キラキラと、金銀の粒や宝石が、雨あられのように蔵の広場に降り注ぐ!

松本、静、優蛇、そして睡蓮が、その異様な光景に一瞬目を奪われた、その刹那。

松本が、修羅場をくぐり抜けてきた経験からくる直感で、事態の危険性を察知した。

「見とれている場合か!」

松本は咆哮した。

「蔵が落ちてくるぞ!」

樹の能力は、蔵そのものを木の根で支え、一つの結界として成立させていた。樹が倒れた今、その構造的な支えが失われ、荒廃した蔵の重みが、一気に崩壊を招こうとしていた。

その言葉を聞いた睡蓮は、はっとする。もはや虚ろではなくなったその両目に、務めとしての光を宿した。

「今だ!」

睡蓮は、誰の制止も待たず、地面を蹴って崩れ落ちる蔵の扉めがけて跳び上がった。

彼女の左腕から、服の袖が勢いよく弾け飛ぶ。そこに現れたのは、一刀の右腕と瓜二つの、刀司の証だった。

睡蓮の左腕の神具は、朱色と群青色に光を放ちながら、鋭く湾曲した鎌のような形をしていた。二つの神具を持つ者が、この家にもいたのだ。

「難儀のふたを閉じる!これこそ、このわたしが担う務めだ!」

睡蓮が左手の鎌を蔵の扉の複雑な封印に突き立て、最後の力を振り絞る。

それに抗うように崩壊する蔵の中から、新たな難儀の源が、禍々しい、しかし強大な力を秘めた光を放ちながら解き放たれようとしていた。

その光景と、睡蓮の左腕に現れた神具の鎌を目の当たりにし、静は驚愕で息を呑んだ。

「あなたも、刀司だったなんて……!」

静は、睡蓮を宝の番人、あるいは自分と同じ守り人としての役割を担う家長の娘だと思っていた。しかし、睡蓮が持っていたのは、自分の家が代々守ってきた結界の力ではなく、一刀と同じく難儀を斬る力を持つ刀司の証だったのだ。

その時、荒々しい足音と共に、村長が、完全に崩壊した蔵の広場へと到着した。彼らの瞳は、血走った悪意に満ちている。

「ようやく、ここまでたどり着いたか……。もうじきじゃ、愚かな睡蓮よ!」

村長は、難儀の蓋の封印解けはじめたことに、悪魔的な歓喜の声を上げた。彼の背後から、獣と鳥が合わさった悪魔が、その邪悪な姿を現した。

それは、巨大な黒山羊の頭部に、猛禽類の翼、そして筋骨隆々の人型の上半身、しかし下半身は山羊の足という、まさに異形の神を思わせる姿だった。その両手には、禍々しい炎が揺らめいている。

「バフォメット……!」

一刀は、その悪魔の正体を一瞬で看破した。

バフォメットは、村長たちの背後に立つと、冷徹な、しかし途方もない魔力に満ちた声で言った。

「さて、難儀の源が解き放たれるのであれば、あとは、それを喰らうにふさわしい器を創造するだけだ」

バフォメットは、倒れていた組の長三人の死体を一瞥した。彼らは、松本と一刀に制圧された後、すでに息絶えていた。

「役立たずの餌どもが。しかし、その肉体も『業』を宿す器だ」

バフォメットの両手から放たれた禍々しい炎が、倒れている三人の組の長の死体を包み込んだ。彼らの肉体は、地獄の業火に焼かれるようにみるみるうちに溶け出し、一つの粘液質な塊へと変貌していく。

その塊は、三人の組の長たちの怨念と肉体を凝縮したかのように、ドロドロと蠢く一つの巨大な魔物へと姿を変え始めた。

そして、バフォメットは、その巨大な粘液状の魔物を、村長の身体めがけて、容赦なく押し込んだ。

「ぐ、ぐああああああ!」

村長は、悲鳴を上げた。彼の肉体は、悪魔の力と、三人の組の長たちの怨念に食い破られ、異形の怪物へと変貌していく。それは、人の形を保ちながらも、複数の腕と顔、そして山羊の角を持つ、おぞましい合体魔物だった。

難儀の源を解き放たせ、新たな悪魔を生み出す。それが、バフォメットの真の狙いだった。

村長が、三人の組の長たちの怨念と肉体を組み込まれ、おぞましい合体魔物へと変貌し終えたのを見届けると、バフォメットは満足げに、巨大な山羊の頭をゆっくりと振った。

彼は、崩壊した蔵から解き放たれ、既に周囲の空間に充満し始めている難儀の源を一瞥した。

「どうせ、開いた地獄の口は、お前たち人間にどうすることもできまい」

バフォメットは、傲岸不遜な声で言い放った。その声には、途方もない計画の重みというものがどこか感じられた。

「私は別の地獄を開きに行く。せいぜい、目の前の怪物を前に、もがき苦しめ、ゴミども」

バフォメットは、解き放たれた難儀の源と、変貌した村長を後に、黒い翼を翻した。その翼が起こした強烈な風と共に、彼の巨体は、瞬く間に夜空の闇へと溶け込んでいく。

「待て! バフォメット! お前だけは、逃がさん!」

一刀は、満身創痍にもかかわらず、バフォメットの恐るべき目的を悟り、光の短刀を構え直した。彼は、この悪魔こそが、全ての難儀の核心であり、今逃がせば取り返しのつかない事態になると知っていたからだ。

バフォメットの消えゆく声が、虚空から響いた。

「自惚れるな、一刀。今の満身創痍のお前に、何ができる?」

その声には、深い侮蔑が込められていた。

「犬死にでもしてみるか? ゴミにはおあつらえの死に方だがな」

バフォメットは、一刀の怒りを嘲り、完全にその場から消え去った。

残されたのは、崩壊した蔵、解き放たれた『難儀の源』、そして、憎悪と複数の魂を宿した、おぞましい村長の怪物。

一刀は、バフォメットの嘲笑に怒りを燃やした。松本は変貌した村長(合体魔物)を憎々しそうに睨みつけていた。睡蓮と静、優蛇もまた、難儀の源から溢れ出す禍々しいエネルギーと、目の前のおぞましい怪物を眺めていた。

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