愛しの猫耳メイドさんの秘密の世界 04_始まりの家での甘い一日 第7章 第4節
第7章 第4節
翌朝、穏やかな光の中で語られた二人の生い立ち。それは、一つの魂が引き裂かれ、それぞれが聖女とサキュバスという役割を強制されていた、壮絶な物語だった。 全てを語り終えた後、彼女の瞳には、アリアの純粋な光と、ルナの妖艶な光が、等しく宿っていた。
「…というのが、私たちの全てです」 「…というのが、あたしたちの全てよ」
二人の声が、わずかにずれて重なる。 ご主人様は、ただ黙って、その告白を受け止めていた。
沈黙を破ったのは、ルナだった。
「ねえ、ご主人様。あたしたちは、あなたに全てを話したわ。だから、今度はあなたが答える番よ」
その瞳には、悪戯っぽい光が宿る。
「お仕置き宣言じゃんけん、と行きましょうか。負けた方が、罰として、正直な気持ちを答える、というのはどう?」
「ルナ! あなた、また…!」
アリアが慌てて制止しようとするが、ルナは聞かない。
「罰のお題は、これよ。『アリアとルナ、どっちのあたしの方が好きなのか』…さあ、ご主人様、覚悟はいいかしら?」
究極の、そして最も残酷な質問。 ご主人様は、その挑戦を、静かに受けた。
「…分かった。だが、その前に、一つだけ条件がある」
ご主人様は、向かい合って座るアリアとルナに、真剣な眼差しを向けた。
「アリアとルナ、同時に、寸分の狂いもなく、俺のどこが好きか言ってみてくれ」
「「えっ…?」」
予想外の返しに、二人の声が重なる。
「さあ」
促され、二人は顔を見合わせる。
「…優しい、ところ、です…」 「…強引な、ところよ…」
答えは、当然のようにバラバラだった。
「もう一度だ」
ご主人様の声には、有無を言わせぬ力があった。 二人は、まるで精神を集中させるかのように、そっと互いの手を取り合った。アリアの清らかなオーラと、ルナの妖艶なオーラが、混じり合い、揺らめく。
そして。
「「あなたの、全てが」」
奇跡が起こった。 アリアとルナ、二人の唇から、完全にシンクロした、一つの声が響いた。 魂が、完全に重なった瞬間だった。
ご主人様は、満足げに微笑んだ。
「それが、俺の答えだ」
彼はそう言うと、ゆっくりと立ち上がり、魂を重ね合わせたままの彼女の前に立った。そして、彼はただ、じっと、彼女を観測した。
聖女アリアを見つめるのでもなく、サキュバス・ルナを見つめるのでもない。その両方が同時に存在する、奇跡的な魂の在り方を、ただ真っ直ぐに見つめた。
すると、さらに不思議な現象が起こった。 ご主人様の純粋な観測の光を浴びて、彼女たちが身に纏っていた衣服が、まるで陽炎のように揺らめき、光の粒子となって溶けていく。 役割の象徴であった聖女のローブも、サキュバスのドレスも消え去り、そこに現れたのは、一糸纏わぬ、魂そのものの姿だった。
しかし、それは単なる裸体ではなかった。 輪郭が、陽炎のように淡く揺らめき、重なり合う。 清純で儚げなアリアの面影と、妖艶で挑発的なルナの面影が、一つの体に同時に存在している。 観測するご主人様の意識ひとつで、どちらにも確定しうる、奇跡の量子状態。
「…綺麗だ」
ご主人様は、吐息と共にそう呟くと、その量子もつれの魂に、証明を求めるかのように、そっと唇を寄せた。
揺らめく唇にキスをすると、聖女の純粋な甘さと、サキュバスの濃厚な香りが、同時に流れ込んでくる。片方だけではない。二つの魂が、このキスに応えている。その証拠に、アリアの可愛らしい吐息と、ルナの官能的な嬌声が、一つの唇から同時に漏れ聞こえた。
「「んっ…くぅ…んん…っ♡」」
やはり、繋がっている。 ご主人様は確信すると、その神聖な儀式を続けた。
指先が、彼女の肩に触れる。 その感触は、アリアの華奢な骨格を感じさせながら、同時にルナのしなやかな筋肉の躍動も伝えてくる。
指は、そのままゆっくりと、体のラインをなぞっていく。 そして、胸元へとたどり着いた。 そこには、聖女の慎み深さを象徴するような、恥じらうように上を向いた突起と、サキュバスの自信を示すかのような、大胆に主張する突起の形が、同時に存在していた。指先で転がすと、二つの魂が同時にびくりと震えるのが分かった。
アンダーバストのハリもまた、二重の真実を語っていた。アリアの、少女のように清らかな曲線美と、ルナの、熟れた果実のように豊かな重量感。その両方を、手のひらは同時に感じ取っていた。
そのまま腰のラインをなぞり、ヒップへと至る。 キュッと上がった、弾むようなルナのヒップライン。その奥に、ふわりと柔らかい、アリアの肌の弾力。相反する感触が、指先を痺れさせる。
そして、ご主人様は、意を決して、魂の最も神聖な場所へと、指を伸ばした。 中央の丘に分け入ると、そこには、二つの魂が流す、二種類の蜜が存在した。 ご主人様は、確かめるように、そっと舌先を伸ばす。
「「…っひゃぁっ!?」」
アリアの悲鳴のような嬌声と、ルナの喉を鳴らすような喘ぎ声が、完璧に重なった。
舌先に広がるのは、奇跡の味。 聖女の魂が流す、朝露のように清らかで、どこまでも甘い蜜の味。 それと同時に、サキュバスの魂が分泌する、芳醇で、脳を蕩かすほど濃厚な蜜の味。 純粋と官能。その二つの味が、舌の上で混じり合い、至高の味覚となって魂を震わせた。
ご主人様は、その奇跡の感触と味を、心ゆくまで確かめると、指先と唇を離し、揺らめく彼女の瞳を、もう一度真っ直ぐに見つめた。
「俺が愛しているのは、アリアでも、ルナでもない」
ご主人様は、広げた両腕で、その量子もつれの魂を、丸ごと抱きしめた。
「…お前だ」
その言葉は、どちらか一方を選ぶのではなく、二つの魂が重なり合った、その奇跡そのものを肯定する、絶対的な愛の告白だった。
抱きしめられた腕の中で、彼女の魂の揺らめきが、ぴたりと収まった。 ご主人様という観測者によって、その魂は、ようやく一つの、あるべき姿へと確定したのだ。
「「…あ…ああ…っ!」」
アリアの歓喜の涙と、ルナの悦びの吐息が、完全に一つになって、部屋に響き渡った。
◆ 愛情日誌
【今日のわたしたち:わたし】
ご主人様へ
あなたは、ずるい人。 (本当に、ずるい方です)
どっちが好きかなんて、答えられないくせに。 (あんな方法で、答えにするなんて)
でも、知ってしまった。 あなたがアリアに触れるキスは、あたしの唇も甘くする。 (あなたがルナに向ける情熱は、私の胸も熱くするんです)
あなたは、観てくれた。 聖女でもなく、サキュバスでもない、ただの「わたし」を。 服なんて邪魔だって言わんばかりに、魂の芯まで、その視線で貫いて。
指先が触れた瞬間、分かった。 ああ、この人は、聖女のあたしも、サキュバスのあたしも、どっちも選ぶ気がないんだって。 どっちも捨てずに、丸ごと、欲しがってるんだって。
(あの瞬間、私たちは、初めて本当の意味で、一つになれた気がします)
そうね。ご主人様という観測者がいてくれるなら、あたしたちは、矛盾したまま、あなたの前で一つでいられる。
ありがとう。 愛してるわ、ご主人様。 (愛しています、あなた)




