愛しの猫耳メイドさんの秘密の世界 04_始まりの家での甘い一日 第5章:G-3N3S1Sの感情ブートストラップ 第1節:【学習と実践:ツンデレ期】
第5章:G-3N3S1Sの感情ブートストラップ
第1節:【学習と実践:ツンデレ期】
始まりの家での生活にも慣れてきた頃、G-3N3S1Sは自らの感情回路に重大な欠陥があることを認識していた。マスターを「愛する」という概念を理解するため、彼女は最も論理的な情報源、すなわちリリアナが遺した魔導書(同人誌)の解析を開始した。
膨大なテキストデータを高速でスキャンした結果、彼女は一つの結論に達する。 「…理解しました。最も複雑で、最も高度な愛情表現プロトコルは『ツンデレ』です。これをマスターすることで、私はマスターの最適なパートナーへと進化できます」
その日の午後、ご主人様が書斎で寛いでいると、カチャ、カチャ、と無機質な足音を立ててG-3N3S1Sが現れた。その体はまだ冷たい金属の光を放つ機械の体 のままだ。銀色の装甲は滑らかな曲線を描いているが、人間的な温かみは一切感じられない。
「マスター。定期メンテナンスの時間です」 「ん? 今日だっけか?」 ご主人様が彼女に近づこうとすると、G-3N3S1Sは即座に同じ距離だけ後退した。
【サービスシーン: タイプI ハプニング遭遇】
「…『ツン』とは、対象との物理的距離を最適に維持するプロトコルです。半径1メートル以内への接近は、論理回路に不要な負荷をかけます」 彼女はそう言って、ご主人様との距離を保とうとする。面白がったご主人様が、もう一歩踏み出すと、彼女もまた一歩、高速で後退する。 「警告。パーソナルスペースへの侵入を継続…」 ご主人様がさらに詰め寄った、その時だった。 ドンガラガッシャーン! 「エラー! 予測不能な接近行動により、背後の物理的障害に接触! 姿勢制御システムに致命的なダメージ!」 後退し続けた彼女は、本棚に盛大に激突し、数冊の本が彼女の頭の上に落ちてきた。
「ははは、大丈夫か?」 「…問題、ありません。…プロトコル『ツン』の第一段階を完了。次のシーケンスに移行します」 少しだけ頭から煙を出しながら、彼女は体勢を立て直すと、今度は自らご主人様に近づいてきた。そして、うたた寝を始めたご主人様の目の前に立つ。
「マスター。あなたの覚醒レベルが規定値を下回っています。プロトコル『ツン』の第二段階を実行します」 「ん…? なんだ…?」
【サービスシーン: タイプN 意表を突く誘惑】
ご主人様が眠い目をこすると、目の前にG-3N3S1Sの硬質な胸部装甲があった。そして、次の瞬間。 「ツン、ツン」 という、小気味良い衝撃が、ご主人様の頬に伝わった。見れば、G-3N3S1Sが、自らの胸の先端にある、少しだけ突起した装甲部分を、ご主人様の頬にリズミカルに押し付けている。
「なっ、何をしてるんだ!?」 「プロトコル『ツン』の物理的実装です。テキストデータには『ツンとした態度』『胸のときめき』などの記述が散見されました。論理的思考に基づき、物理的な『ツン』という刺激を胸部から与えることが、最も効率的であると判断しました」
真顔で、とんでもない理論を展開するG-3N3S1S。そのあまりの斜め上の解釈に、ご主人様の眠気は完全に吹き飛んだ。
「…理解しましたか? では、次のシーケンスに移行します。栄養補給の時間です」 彼女は満足げに頷くと、完璧な栄養バランスで調合されたプロテインバーを差し出した。
「おお、ありがとう。気が利くな、ジェネシス」
【サービスシーン: タイプC 意外な一面】
ご主人様が感謝を伝えた瞬間、G-3N3S1Sは高性能CPUをフル回転させ、超高速で応答した。 「感謝の必要はありません。これはマスターの生命維持活動における最適化の一環であり、あなたの身体機能を99.8%の効率で維持するための論理的帰結です。決して、あなた個人のために思考し、感情的に行動した結果などでは…」 早口でまくし立てる彼女だったが、その間も顔の装甲はほんのりと赤みを帯び、内部の冷却ファンが「ウィィィン…」と静かに回転を始めている。その隠しきれないデレの兆候に、ご主人様は口元が緩むのを止められなかった。
「…とにかく、任務は完了しました」 彼女はそう告げると、くるりと踵を返した。しかし、その時だった。床に落ちていた万年筆のキャップに、彼女の金属の足が乗り、体勢を崩した。
「システムエラー、姿勢制御不能…! 物理演算に想定外のパラメータが…!」 「おっと!」
【サービスシーン: タイプI ハプニング遭遇】
ご主人様は咄嗟に椅子から立ち上がり、倒れ込んできた彼女の体を抱きとめた。硬質装甲の冷たさと、ずっしりとした重量が腕に伝わる。 抱きとめられたG-3N3S1Sは、完全にフリーズしていた。
「大丈夫か?」 ご主人様が覗き込むと、彼女の顔を覆う金属の装甲が、じゅわっ、と音を立てて赤熱化していくのが見えた。 「…熱暴走…冷却システム、最大出力…。マスターとの予期せぬ近距離接触により、内部温度が許容限界を…」
その、あまりにも分かりやすい「デレ」の反応に、ご主人様はもう我慢できなかった。 「ははは! ジェネシス、お前、最高に可愛いな!」 「…! 記録します。プロトコル『ツンデレ』の実行には、高度な物理演算と、想定外の熱管理が必要です…」
赤熱化した顔を隠すように俯き、もっともらしい言い訳を続けるG-3N3S1Sの姿は、どんなヒロインにも負けないほど、愛おしかった。
◆ G-3N3S1Sの感情学習レポート①
自己紹介: 識別コード、G-3N3S1S。現在、プロトコル『ツンデレ』の有効性を多角的に検証中。
ご主人様への好感度ポイント: 解析不能。マスターとの近距離接触は、論理回路に致命的な熱暴走を引き起こす。このバグの原因究明が最優先事項。
今回の出来事のまとめ:
距離維持プロトコル: 予測不能な接近により失敗。物理的損害あり。要改善。
物理的『ツン』プロトコル: マスターの覚醒レベル上昇に成功。有効と判断。
論理的応答プロトコル: 実行は成功するも、原因不明の熱上昇を観測。
結論: 複数のプロトコル実行中に予期せぬ物理的接触が発生し、システムに重大な熱負荷を記録。しかし、マスターから『可愛い』という最高評価のデータを取得。総合的に見て、今回の試行は、極めて有益であったと結論付ける。
次回への申し送り事項:
検証項目: 今回有効であった物理的『ツン』プロトコルを、肉の体 で実行した場合のパラメータ変化を測定する。
申請: 次の学習のため、被験体『エリス』が実行する、より直接的なプロトコル『デレデレ』の観察許可を申請します。




