愛しの猫耳メイドさんの秘密の世界線 シーズン02 第10章6節:愛しい我が家と、夜毎の儀式
#本編 #シーズン2 #最終章
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第10章6節:愛しい我が家と、夜毎の儀式
ご主人様は、再会した仲間たち全員を、ミミが待つ「始まりの我が家」へと、連れて帰った。
扉を開けた瞬間、そこに立っていたミミは、三人の姿を認めるなり、わっと泣き崩れた。 「うわああああん! エリス様、リリアナ様、ソフィア様! おかえりなさいですにゃあああ!」 「ただいま、ミミ」 「ええ、ただいま戻りましたわ」 「ふふっ、泣かないで、ミミさん」 四人のヒロインが、涙と笑顔で抱き合う。その光景を、ご主人様は、愛おしそうに、目を細めて見つめていた。 ついに、全員が揃ったのだ。 この、永遠に失われることのない、愛しい我が家に。 賑やかで、温かくて、少しだけ騒がしい、本当の日常が、今、始まった。
その夜、再会を祝う、ささやかな、しかし、最高に幸せな晩餐が開かれた。 食事が終わり、暖炉の前に置かれた、大きなソファに、五人は身を寄せ合って座っていた。暖炉の炎が、それぞれの幸せそうな横顔を、優しく照らし出している。
「…しかし、本当に、夢のようだ。また、こうして、みんなで、ご主人様のそばにいられるなんてな」 エリスが、感慨深げに呟く。 「ええ。ですが、これは、夢では、ありませんわ。私たちが、自らの意志で、掴み取った、現実です」 リリアナが、ご主人様の腕に、そっと、自分の腕を絡ませる。 「はい。もう、二度と、離れることのない、永遠の、日常…。本当に、幸せです…」 ソフィアが、うっとりとした表情で、ご主人様の肩に、こてん、と頭を預けた。
その、甘い雰囲気の中、エリスが、パン!と威勢良く手を叩いた。 「そうだ! この、永遠の幸せを、確かなものにするために、何か、この家の『ルール』を決めないか? 私たちの、絆の証になるような、特別なルールを!」 「まあ、ルールですって? それは、素敵な、提案ですわね」 リリアナが、悪戯っぽく微笑む。 「でしたら、あの儀式は、いかがでしょう? 私たちの魂の絆を、毎夜、確かめ合うのです。…そう、『公開お仕置き宣言じゃんけん』 を」
その言葉に、エリスとソフィアの顔が、ぽっと赤らんだ。 しかし、その瞳は、期待に、爛々と輝いている。 ご主人様は、呆れたように、しかし、最高に楽しそうに笑った。 「ははは、君たちは、本当に、それが好きだな。いいだろう、やろうじゃないか。俺たちの、愛しい、夜毎の儀式を」
「では、最初の、栄誉ある、挑戦者は、誰が…」 リリアナが、言いかけた、その時。 エリスと、ソフィア、そして、リリアナ自身も、まるで、示し合わせたかのように、一人の少女に、視線を向けた。 ご主人様も、優しく、その子の、名前を呼ぶ。
「ミミ」
「は、はいにゃ!?」 突然、話を振られ、ミミの尻尾が、ぴん!と跳ね上がった。
「この、奇跡の、再会が、あるのは、元はと言えば、お前の、計り知れないほどの、愛の、おかげだ。だから、この、新しい、日常の、最初の儀式は、お前が、飾るべきだ」 「そ、そんな…! ミミには、もったいないですにゃ…!」 「いいや、ミミ。お前しかいない」 「ミミさん、お願いできますか?」 「そうですわ。あなたの、覚悟、私たちに、見せてくださいな」 三人の仲間たちからの、熱い、視線。 ミミは、顔を真っ赤にしながらも、やがて、意を決したように、こくり、と強く、頷いた。
「…わかり、ましたにゃ。ミミ、やりますにゃ…!」
ミミは、ご主人様の前に、ちょこん、と正座した。 その後ろで、三人のヒロインたちが、固唾を飲んで、その様子を見守っている。 それは、もはや、単なる、覗き見ではない。 自分たちの、愛の、到達点を、遥かに、超えていくであろう、一人の、メイドの、愛の形を、その目に、焼き付けるための、神聖な、観覧だった。
(ミミ…。あいつ、どんな宣言をする気だ…? 私や、リリアナ、ソフィアとは、全く違う…。あいつだけの、愛の形を、見せてくれるはずだ…! 頼むぞ…!) エリスは、拳を、強く、握りしめた。
(…論理的には、理解不能。彼女の、自己犠牲と、独占欲は、本来、相容れない、概念のはず。ですが、彼女は、それを、いとも容易く、両立させてしまう。…見せていただきましょう。愛という名の、究極の、パラドックスを) リリアナは、記録用の、魔導書を、開いた。
(ああ…ミミさん…。あなたの、その、どこまでも、純粋で、ひたむきな、愛が、今、どのような、形で、示されるのでしょう。きっと、それは、聖母の愛とも、違う…。ただ、一人の、ご主人様のためだけに、世界そのものに、なろうとする、尊い、愛の形…) ソフィアは、祈るように、そっと、両手を組んだ。
ミミは、一度、ぎゅっと目をつむると、夢見るような表情で、そして、どこまでも、真剣な、瞳で、宣言を始めた。 その声は、静かだったが、その場にいる、全ての者の、魂を、震わせた。
「ミミが、お願いするお仕置きは…『ご主人様の、影になる罰』 ですにゃ」
「…影に?」
「はいですにゃ。お仕置きとして、明日、日が昇ってから、沈むまで、ミミは、ご主人様の『影』になります。ご主人様が、歩く時、止まる時、誰かと、話す時、ミミは、常に、その、影の中に、いなければなりません。誰にも、その存在を、気づかれては、いけません。ただ、ひたすらに、ご主人様の、足元に、寄り添い続けます。ご主人様の、温もりだけを、感じながら…」
それは、奉仕のようでいて、究極のストーキング。独占欲の、新しい形だった。
「次に、ご褒美ですにゃ。『魂の、味見』 を、させてくださいにゃ」
「…味見?」
「はいですにゃ。ご主人様が、エリス様、リリアナ様、ソフィア様と、交わした、あの、再会の、キスの、記憶。その、魂の、味を、ミミにも、お裾分けして、ほしいのですにゃ。ご主人様の、唇に残る、リリアナ様の、知性の味。エリス様の、情熱の味。ソフィア様の、慈愛の味…。その全てを、最後に、ミミが、綺麗に、味わい尽くして、『ご主人様は、ミミだけのもの』だと、上書きさせて、いただきますにゃ」
それは、仲間への、敬意のようでいて、究極の独占宣言。嫉妬と、愛情の、狂おしい、マリアージュだった。
「そして、最後に、スペシャルパワーですにゃ。この勝負、ミミが、勝っても、負けても、あいこでも、発動します」 「『二人だけの、おやすみの儀式』。今夜、ご主人様が、眠りにつく時、この家の、全ての、音を、ミミが、引き受けますにゃ。ご主人様が、安らかに、眠れるように、暖炉の、薪が、はぜる音、窓を、揺らす、風の音、そして、隣の部屋から聞こえてくる、愛しい、仲間たちの、寝息…。その、全ての、音を、ミミの、この耳が、一晩中、代わりに、聞き続けます。ご主人様は、ミミが、創り出す、絶対の、静寂の中で、安らかな、夢を、ご覧くださいにゃ」
それは、自己犠牲のようでいて、ご主人様の世界の、全てを、支配するという、あまりにも、壮大な、愛の、告白だった。
宣言が、終わった時。 リビングは、静寂に、包まれていた。 エリスも、リリアナも、ソフィアも、言葉を、失っていた。 ただ、その瞳には、同じ色の、光が、宿っていた。 ――完敗だ、と。
(なんだ、あいつは…! 奉仕のようでいて、究極の独占欲じゃないか…! 私が、女王として、国を、支配するのとは、訳が違う…。あいつは、ご主人様の、世界の、全てを、支配するつもりだ…! 敵わん…!)
(…理解、不能。自己犠牲と、独占欲が、矛盾なく、完全に、融合している…。いいえ、そもそも、彼女の中では、それは、矛盾ですらない。ご主人様のため、という、ただ、一点において、全てが、調和している。…あれは、愛の、一つの、完成形…。この、魔導書に、記録するには、私の、語彙が、あまりにも、貧弱すぎる…!)
(ああ…聖母の愛とも、違う…。ただ、一人のためだけに、世界そのものに、なろうとする、純粋な、愛…。ミミさん、あなたは、なんて、尊いのでしょう…。そして、なんて、恐ろしい、方…)
三者三様の、感服と、尊敬と、そして、ほんの少しの、畏怖。 その、視線を、一身に、浴びながら、ミミは、静かに、そして、完璧に、じゃんけんに、負けた。
ご主人様は、宣言通り、ミミに、ご褒美を与えた。 全員が、見守る中、ご主人様が、ミミの、その小さな、唇に、そっと、自らの、唇を、重ねる。 それは、他のヒロインたちの、愛の記憶を、ミミに、分け与える、神聖な、儀式。 ミミの、瞳から、一筋の、涙が、こぼれ落ちた。それは、長年の、夢が、全て、叶った、歓喜の、涙だった。
暖炉の、炎が、ぱちぱちと、音を立てる。 ソファの上で、寄り添う、五つの、影。 この、永遠に続くかのような、完璧な、平和と、幸福。 誰もが、そう、信じていた。
その、完璧な、幸福の、絶頂の、瞬間。
コン、コン。
突如として、静寂を破り、この家の、重厚な、扉を、ノックする音が、響き渡った。
全員の、動きが、止まる。 顔を、見合わせる、ヒロインたち。 こんな、夜更けに、誰が? この「始まりの家」の、場所を、知る者は、ここにいる、者たち以外、いないはずだった。
緊張が、走る。 ご主人様は、ヒロインたちを、背中に、かばうように、ゆっくりと、立ち上がると、扉へと、向かった。 ぎぃ、と、重い音を立てて、扉が、開かれる。
そこに、立っていたのは、一人の、美しい、少女だった。 月光を、反射して、鈍く輝く、銀色の、髪。 だが、その体は、所々が、機械の、ように、なっており、美しい、顔の、半分も、無機質な、金属で、覆われていた。 感情の、色を、一切、映さない、ガラス玉のような、瞳が、まっすぐに、ご主人様を、捉える。 その、壊れかけた、体は、幾多の、激しい、戦いを、潜り抜けてきたことを、物語っていた。
少女が、感情のない、合成音声のような、声で、告げる。
「――識別コード『G-3N3S1S』。あなた方を、特異点『アーク』と認定しました」 「私の、マスターが、そして、私の、世界が、あなた方の、その、未知の、エネルギー…『愛』の力を、必要としています」 「…どうか、私たちを、助けてください」
ご主人様と、ヒロインたちの、驚きと、そして、新たな、冒険への、期待に満ちた、決意の、表情。 その、顔の、アップで、物語は、静かに、幕を、閉じる。
【シーズン2 完】 #シーズン2 #本編




