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第六話 肉はウェルダンで

 犯人は僕らを見ていた?

 それとも運良くあの場にはいなかった?

 葉月の言っていることが全部勘違いの可能性だってある。いや、その方が断然いいに決まっている。


 思考をぐるぐる巡らせていると、僕の隣にいる葉月が沈黙を破った。


「媛ちゃん?黙り込んでどうしたの」

「なんでもないよ。薫くんと栄一郎くんに連絡してみよう!霊に詳しい二人だからもしかしたら僕達の勘違いの可能性もあるし」

「そうだね!勘違いかもしれないよね……」


 お互いに言葉で誤魔化すが、葉月も内心は“勘違い”の可能性は捨てているのだろう。

 浮かない表情のまま僕の腕を掴む力はギュッと強くなる。


「こんな時間に迷惑かもしれないけど、電話してみるね」

「うん、お願い」


 スマホをひらき連絡先から薫くんを探す―――

 


 コツッ。

 


 近くで音が聞こえた気がした。

 

 ―――スマホをスライドする指が止まる。

 僕らはベッドの上に二人並んで座っており、眼前に見えるのはカーテンに覆われた窓で、その先にあるのはベランダだ。

 二人きりの空間に隣の部屋の生活音じゃないのは確かで、僕達のどちらかが発した音でもない。


 葉月の息遣いが聞こえる。

 僕の心臓の音が聞こえる。

 ザザッと地面を擦るような音が聞こえる。


 窓の外から、誰かの足音。


「え……媛ちゃ―――」

「静かにっ――」


 葉月の口を押さえゆっくりと立ち上がり、葉月の手を引きながらドアに向かうため窓に背を向ける。

 助けを求めなきゃ、ドアを開けて誰でもいいんだ、とにかくバレずに誰かに―――


 コンコンっ―――


 背を向けた窓から叩く音がした。


 えっ……。


 コンコンコンコンっ―――


 葉月の目を見ると困惑の表情が見られ、助けを求めるかのように僕の目を見つめ返す。

 窓を叩く音は止まずに次第にノック音は数を増していく。


 コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンっ―――


 一歩も動けない。どうすればいいのかわからずに脚だけが震える。


「いるんだろぉ?開けてくれよぉ。なぁ」


 窓の鍵を開けるよう促す声が聞こえ、困惑は更に増す。


「早く開けなきゃ殺すぞぉ、助けを求めて叫んでも必ずお前達を殺すぅ。どっちかは必ず殺すちゃうぞぁ。いいなぁ女の子は殺しやすいんだ。早く開けてくれぇ。十秒以内に開けなきゃ殺すぞぉ」


 当然のように殺すと連呼するソイツはカウントダウンを始める。


 十―――


 どうしようっ逃げなきゃ!助けを呼べばきっと!


 九―――


 いやだめだっ!助けを呼んでも殺すって!ほんとに殺されるの?


 八―――


 黙って逃げればいいんじゃないのか?でももし捕まればきっと。


 七―――


 二手に分けれて逃げるのは?いやそんなのダメだ!もしどちらかが捕まったら。


 六―――


 どうしよう。


 五―――


 どうすれば。


 四―――


 葉月が僕の腕を振り解いた。

 あっ。

 窓に向かって走る葉月の背中が見える。

 

 三―――


 葉月っ!

 まってよ開けちゃだめだよ。


 二―――


 祈る。

 何も起こらないことを。

 できることはそれだけ。


 一―――


「開けます!今開けますからっ!」


 勢いよくカーテンを開き、窓の鍵を下ろす葉月を茫然と眺める僕。窓に反射した僕の顔はマヌケな顔をしていて、同時に男の顔が見えた。

 僕は葉月に駆け寄り、二人で身を寄せ合う。

 殺されるのか、何をされるのかわからないまま、ただ祈るだけ。


「いいこだねぇ。あともうちょっとで殺すところだったよぉ。いいこだねぇ。煩い子は嫌いなんだぁ」

「ごっ……ごめんねぇ媛ちゃん……私勝手に……」

「……いいんだよ葉月……大丈夫……だから……」


 震える肩を抱き寄せ、男は土足で部屋に入ってくる。

 視界に入ったのは、男が右手に持っている大きな鉈。酷く伸びた髪と髭が顔を覆っており、鼻が曲がるほどに獣臭かった。


 獣の匂い。

 宮良山ホテルで嗅いだ匂い。


「お前達、死にたいかぁ?」

「え、……し、死にたくないです!」

「いっいえ……死にたくないです」

「そうだよなぁ。殺しても勿体無いよなぁ。ちょうど処理したばかりだしなぁ。おっそうだ!たまには趣向を変えて、お客様を呼ぶのも悪くない」

「お客……?」

「俺のホテルに行くぞぉ。初めての招待だぁ」


 鉈を持つ手が揺れる度に視線はそこに吸い込まれ、男の発する言葉の意味を必死に噛み砕く。

 処理したばかり?……お客?……ホテルに行くって、宮良山ホテルのこと……だよね。

 人目につかない場所に連れて行って殺されるのだろうか、逆らえるわけがなく僕達は従うしかなかった。


「楽しみだなぁ……くひっ」




 ◇◆◇◆◇




 時刻は深夜、僕達は寝巻きのまま外を歩いている。一か八か逃げるかなんて思考は持ち合わせておらず、男の言葉に従う。

 助けて―――

 誰でもいいから―――

 お父さん、お母さん―――

 薫くん、栄一郎くん―――


「は、はぁ……はぁ」

「大丈夫?葉月……」

「はぁ……うんっ……大丈夫だよ媛ちゃん」


 歩き疲れて息を切らしているわけではなく、恐怖と不安によるせいか葉月の呼吸は荒い。

 僕達の後ろには男が歩いており、見張っているのか周囲を警戒しているのか、男は何も言わずに後ろを歩いている。

 不幸か周囲に人はおらず、月に照らされた道は僕達を死に誘っているかのように思えた。


「ふっ……っ……はぁ」

「あともう少しだよ……葉月。きっと大丈夫だから」

「う、うん。大丈夫だよね……きっと」


 もう少しで宮良山ホテルに辿り着く。

 何があるのか何をされるのか、不安で堪らない。


「よぉし着いたなぁ。歩き疲れただろぉ?座れ座れ」


 男の行動一つ一つに心臓は飛び跳ね、椅子に座らされる。

 顔は見えないが声色は上機嫌だ。


「歩いて腹が減っただろう?俺が振る舞ってやるよぉ。いい肉が入ったんだぁ。誰かに食べさせるのはいつぶりかなぁ」


 振る舞う?料理を?()()()っていうのは、一体……。

 そう言って男は厨房に入って行き、姿が見えなくなった。


 拘束すらされずに、僕達を置いて。


 …………今じゃないか?逃げるのは……今が絶好のチャンスなんじゃ―――


「媛ちゃん……い、今なら逃げられるんじゃ……」


 同じことを葉月も考えていたようで、僕は少しの希望が見えた。


「あっ……待っ、でっでも脚が震えて、私」

「葉月大丈夫だよ……大丈夫だから。置いていったりなんか絶対にしないよ」

「ご、ごめんね媛ちゃん……私こんな……」


 全力で走れない、その時点で逃げる案は消え着々と時間は過ぎていく。

 一人で逃げようだなんて思わない。葉月はたった一人の親友で見捨てることなんて絶対にない。

 何か、何か助かる方法はないのか。


 男が入って行った厨房に目を向け耳を澄ませると、何かを焼いているのかフライパンとコンロが触れる金属音に、油の跳ねるパチパチ音が聞こえる。

 ガスが通っていたのかなんてどうでもいいことが頭をよぎる。

 僕達に一体何を振る舞うのか、なぜこんなことを。


 調理音は聞こえなくなり、男が厨房から出てきた。二つの皿を手に持ちながら上機嫌に笑っている。


「できたぞぉ。たくさん食べろよぉ」


 丁寧にナイフとフォークが準備され、目の前に置かれた料理に目をやる。

 白い丸皿の端には山菜が飾られ、厚さ5cmほどの肉の塊が強い存在感を放っている。

 これはステーキ?そんなわけがない。

 違う。絶対に絶対に違う。

 食べちゃいけないと身体が警告を鳴らしている。


 写真に写っていた女性と男性の死体を思い出した。

 処理をしたと言っていた。

 努めて振る舞いたくなるもの、大きな鉈を手に持つ異常者。

 ただの料理なわけがない。


 これは―――

 この肉は―――

 人の―――


「残さず食べろよぉ」


 食べられるわけがない、この肉を食べたら人ではなくなる、この肉を食べなければ僕は殺される、この肉を食べれば………………生きられる。


 ナイフとフォークを手に取り肉をカットしていく。

 葉月も僕の後に続くように肉をカットし、薄暗い室内にカチャカチャとナイフとフォークの音が響く。

 脂身が少ないのか、少しナイフを持つ手に力が入る。

 中は赤紫色に輝き、焼き加減はレア。


 右手のフォークで一刺しする。


 口を開き肉を運ぶ―――













 


 ああ、あぁ……僕はウェルダンで食べるのが好みなんだよなぁ……なんて…………ね。

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