第三話 ハンニン
「「「うわああああああああああ!」」」
「どうしたの!媛ちゃーーーーん!?」
四人の叫ぶ声が山に響き、緊張が走った。
「でたああああああああ!」
僕の顔を見るなりそう叫んだ男はアロハシャツを着ており、腰を抜かしている。
その隣にはもう一人男がいた。
「でた!?嘘でしょ!ヤダヤダ!!」
「媛ちゃん!落ち着いて!大丈夫だよ人間だから!」
僕は隣にいる葉月に抱きつきながら、ゆっくりと目の前にいる二人の男性を観察する。
よ、よかった人間だ。ま、まぁわかっていたけどね。暑さにやられただけだからっ!
「すみませんいきなり大声あげて」
「媛ちゃんがいきなり走るからだよ」
僕は一言謝罪し、ハンカチで汗を拭った。
「いいよ、俺たちも叫んじゃったし」
「あぁやばほんとに出たと思ったー」
ジジジジジジッ
名前のわからない虫の鳴き声が聞こえ、僕たちは顔を見合わせる。
「「「「………………」」」」
突然の沈黙に若干の気まずい空気が流れる。
日は沈み、辺りはすっかり暗く生暖かい風が僕らを包んだ。
き、気まずい。
これが僕達の出会いだった。
◇◆◇◆◇
山奥。辺りに人はいない。心霊スポット。見知らぬ男性二人。
僕と葉月は不安と緊張もあったが、意外と気さくに話しかけてくれる男性二人に空気は和み、次第と会話は弾むようになり、
同年代ということもあってか打ち解けるのは早く、僕達は四人で心霊スポット巡りをすることになった。
「あーさっきはほんと寿命が縮まったなー」
「ホラー好きの超絶ビビりって救えないな」
「栄一郎さんはビビりなんだね」
「僕はホラー好きって所に恐怖を覚えるよ」
冗談を言いながら、四人で山道を歩く。
徐々に近づいてくる『宮良山ホテル』に僕の心臓の鼓動は少しずつ早くなり、その距離に比例するかのように僕の歩く速度は遅くなる。
あーあ心霊スポットに行くなんて言わなければよかった。
僕は心の中で軽く愚痴をもらすと同時に、前を歩いている男性二人を見て安心する。
葉月と二人だったら無理だっただろうなぁ。良い人達みたいだし四人でよかった。
「みんな見えたぞ。お待ちかねの宮良山ホテルだ」
薫くんの声に反応して全員が前を向く。
「おおぉ雰囲気あるなー」
「媛ちゃんやばいね思ってたよりも大きいホテルだよ」
「う、うん……サクッと回って帰ろうか」
「チッチッチ。何言ってんだ媛ちゃん葉月ちゃん。ここで知り合ったのも何かの縁!俺達が心霊スポット巡りの極意を教えてやろう」
左手を腰に当て、右手の人差し指の腹を僕に向け左右に振って見せる薫くん。
なんでこの人こんなに笑顔なんだろう。
「「極意その一ッ!!」」
薫くんと栄一郎くんが声を揃えて叫んだ。
「「雰囲気大事にッ!!」」
「「そのニッ!…………………………」」
「「いや雰囲気だけなのっ!?」」
極意なんて大層なこと言うから、ちょっと期待した僕が馬鹿だった。
安全対策や、除霊道具なんかを見れると思ったのに。
膨れっ面の僕を見て、葉月はニコニコと笑っていた。むぅ、なんだよぉ。
「ま、まぁ雰囲気は大事なんだよほんと。なっ!栄一郎?」
「大事大事ー。俺達心霊体験なんて一回も経験したことなくてさー。その所為もあってか、雰囲気作りだけは大事にしてるんだよ」
「雰囲気作りって具体的にどうするの?もしかしてここで怖い話でもするとか?」
なんだか葉月が恐ろしいことを言っている。
僕としては早く行って帰りたかったが、葉月は興味があるらしく二人にあれこれと質問している。
「怖い話はしないよ。ここがどういう場所かっていうのを頭に入れて置くんだよ」
薫くんはゆっくりと話し始めた。
「今から三十年ぐらい前かな、ここのホテルのオーナーが殺人事件を起こしたんだ。それも結構な胸糞な事件」
ん?殺人事件?な、何それ聞いてないよ。葉月?
僕の視線に気づくことなく葉月は薫くんに質問を投げかける。
「私は心霊サイトの一部しか見てなくてわかんないんだけど、胸糞な事件って?」
「ホテルの食事に人間の肉を提供していたんだよ」
「ッ…………んッ!」
誰かが息を呑んだ音がした。
汗が流れ落ちる。夏の夜はとても静かで、耳を澄ませば心臓の鼓動を感じる。
僕は恐怖を誤魔化すためか、無意識に口を開く。
「人間………………?」
「そう……それも
四歳の実の息子の肉をね」
犯人は未だ逃走中。
犯人はまだツカマッテいない。
犯人は――――
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