第二話 飛び出してきたのは
『続いてのニュースです。宮良町◯◯市で立て続けに行方不明者が続出しているとのことです。行方不明者は――』
「マジかよ、こんな田舎の町で行方不明とか」
チーンっ!と聞き慣れた音に意識を奪われ、こんがりと焼き上がったトーストを手に取り、苺ジャムをたっぷりと塗ったトーストを一口齧る。
ラジオ感覚で聴いていたニュースの内容は、右から左へと流れていった。
「夏休みなのに薫が早起きなんて珍しいね」
声のする方へ顔を向けると、寝癖で髪を爆発させている妹がいた。
朝っぱらから小生意気なことを言うこいつは中学二年生の妹の京海だ。一度も俺のことをお兄ちゃんと呼んでくれたことがない我が妹だが、お世辞抜きで世界で一番可愛いと思っている。
「京海。俺のことはお兄ちゃんと呼べと後何万回言えばわかるんだ」
「後何万回言えばわかるの?呼ばないってこと」
低血糖な京海のことだ少し機嫌が悪いのだろう。兄として今日は譲ってあげようと思う。
「ちなみに、早起きなのは友達と遊ぶ約束をしてるからだぞ」
「ふーん。友達いたんだっ」
後半は聞き取れなかったが、きっと寂しがっているのだろう。帰ってきたらたくさん遊んでやろう。
「じゃ京海は二度寝するから、おやすみー」
「おう」
残り二口ほどのトーストをざくざくっと口に詰め込み、出掛ける準備を始める。
今日は心霊スポット巡りをする予定なので、午前中は計画を立てるため友人を誘っておいた。
よし行くかっ。
◇◆◇◆◇
何もせずただベンチに座っているだけなのに汗がダラダラと流れ、ついさっき自動販売機で買ったお茶は残りわずかとなっていた。
ったくあいつめ時間に遅れるなら、連絡くらいよこせっつの。
暑さに苛立ちながらも待つこと数分。紺の短パンに青色のアロハシャツを着た男が走ってくるのが見えた。
「よっ!わりぃわりぃ。遅れちった」
「遅刻だぞ」
汗だくになりながら平謝りする彼を見て溜飲は少し下がり、買っておいたお茶を彼に手渡し、ベンチに座るよう促す。
「おっさんきゅ!遅れてきたのに悪いなっ!」
人懐っこい笑顔を見せながらごくごくとお茶を飲むこいつは、仲宗根栄一郎。
短髪に小麦色に日焼けした肌。沖縄県出身でアロハにこだわりを持っているらしい。
栄一郎とは中学一年の時に出会った。
沖縄から転校してきた初日に、席が近かったこともあり自然と話すようになった。話しているうちに共通の趣味があることがわかり意気投合。それから自然とつるむようになった。
共通の趣味というのは今日の予定にある心霊スポット巡りのことだ。
俺たち二人はこれまで数十の心霊スポットを巡ってきたが、一度も心霊体験をしたことがない。霊感がまったくないのだ。霊体験をしたいがあまりやってはいけない遊びもたくさんしてきた。
『こっくりさん』
『一人かくれんぼ』
『合わせ鏡』
『さとるくん』
そのどれもが何一つ問題なんて起こるはずもなくことを終えた。
霊感がまったくないことに嫌気がさしたのか、栄一郎は怪異や宇宙人にまで幅広く手を伸ばしているらしく、かくいう俺もその内の一人だった。
「そういえば薫、今朝のニュース見たか?行方不明のやつ!」
「ん?……ああ全部は見てないけどちらっとな」
「この町で起きたってのが気にならないかっ!?」
栄一郎はついに事件にまで首を突っ込むようになったのか鼻息を荒くしながら俺に詰め寄ってくる。
わからんでもないが俺の頭の中は、今日の心霊スポットのことでいっぱいなのだ。
なんといってもこの町最後の心霊スポット。
『宮良山ホテル』
今まで小さいところから潰していき、遂に大本命の廃ホテルに行くのだ。あそこのホテルは、この町では知らない人はいない殺人事件が起きているのだから。
「まぁそのニュースも気になるが、今日のメインは宮良山ホテルなんだぞ」
「たしかにそうだな。って言っても夜までめっちゃ時間あるけどなんでこんな朝に集合したんだよ?」
「あぁそれは―――」
「まさか霊感力をあげるマル秘情報を手に入れ、その準備に時間がかかるとかっっ!?」
「いや、普通に遊ぼうと思って」
「…………」
ジジジジジジッ
ミンミンミンミンミン
遠くで蝉の鳴き声聞こえ、俺たちの夏が始まった。
気がした。
◇◆◇◆◇
「あぁぁ〜肩いって〜でも楽しかったな」
そう言い腕をぐるぐると回しながら、機嫌の良さそうな顔で俺に同意を求めてくる。
楽しかったよ。途中までなっ!まさか栄一郎にボウリングで負けるとは。
俺たちはアミューズメント施設でひとしきり遊んだ後、宮良山に向かう山道を登っていた。
「もうそろそろ着くのか薫?」
「おう。ここを抜けたら黄色のテープで囲われた、廃ホテルが見えるよ」
時刻は20時を回る頃。徐々に日は落ち始めあたりは薄暗くなり、木に囲まれているせいか風はあまりなく、じっとりとした空気が張り詰めていた。
慣れない山道を歩いたことによって脚に乳酸が溜まってきたのか、ふくらはぎがジンジンと少し痛んだ。
俺たち二人は遊び疲れたせいか、会話はあまりなく登ることに集中し、誰かが走ってくる人影に気づかずにいた。
タッタッタッタッタッタ
がさがさがさがさがさがさがさっ
「「なっなんだ!」」
がさがさがさがさがさがさ
近づいてくる。
何かが。
額や背中に一気に汗が吹き出した。暑さによるものじゃないことは明確で、心臓の鼓動は速くなる。
がさがさがさがさがさっ!
「「「うわああああああああああ!!!!!」」」
飛び出してきたのは美少年?
いや違う。
中性的な容姿をした美少女だった。
う、うん。とある一部分がとても大きかったから、なんていうのは心に留めて置くことにした。
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メインの四人が揃いました。