プロローグ ねぇあけてよ
ヒロイン 吉本 媛 よしもと えん
ボーイッシュで可愛いボクっ娘が好きなので自分で書くしかねぇ!ということで執筆していきます
パッと見ただけでも築数十年はあるだろう、歴史を感じる木造アパートの二階建て。階段を上り角部屋のドアの前に立ち尽くしてから、かれこれ一時間程経っている。家の鍵を無くした訳でもないし、友人が留守にしている訳でもない。
このアパートに来たのも初めてだ。
木造のドアの前。古いドアの、前に、僕はいる。
僕はあの日を思い出した。
彼に出会い、そこから劇的に変わった日常。
あの日感じた憤りを、殺意を感じているらしい。明確に「 」に対する殺意を。
わからない。解らない。判らない。ワカラナイ。わかラない。僕はどうすれば―――
とにかく立ち去らなければ、此処に居てはいけない。思考とは裏腹に僕の足は動かない。きっと最初から動くつもりなんてなかったのだろう。
身をかがめ地面に膝をつく。およそ縦幅5cm横幅25cmの細長い長方形が見える。そこにそっと両手の人差し指を押し込み中の様子を見る。
廊下の先には6畳程の和室が見え、部屋の中央にある小さいテーブルを囲むように座る男女の姿が見えた。
とても楽しそうに話している。何を言っているのかまったく聞こえないけど、笑っている彼女の顔が、笑っている彼の顔がとてもよく見える。
気持ち悪い。気持ちが悪い。胃から込み上げてくるものグッと抑え、涙が頬を伝ってくる。視界は滲む、けれど瞬きは決してしなかった。
「それでさぁ、あの時―――」
「ふふっ!そんなことがあったんだね―――」
笑い声が聞こえる。嫌に耳に残る声だ。不快。不快。不快。
僕は見る。観る。視る。覧る。じっと見る。見渡し見つめ眺め一挙手一投足を見逃さない。
どうして?どうしてどうしてどうして。
どうしてこんな事になったのだろうか。僕がもっと早くキミに気持ちを伝えていたら、こんな結果にはならなかったのではないか。
僕がもっと早くキミを見つけていたら、僕がもっと早くキミを捕まえていれば、僕がもっと早く………
あぁ。また殺さなきゃ。
いいよね?
仕方ないよね?
「 」が奪ったんだから。
僕の「 」を。
あの日の記憶がフラッシュバックする―――
男の肩から鎖骨にかけ鉈を振り下ろし、肉を断つ感触を思い出した。
確か、命の火が燃え尽きていくその様を見て、ひっくり返る虫みたいだなぁなんて思ったっけ。
「 」を殺した時僕は何を思うだろう。
何を感じるのだろう。
待っててね、「 」。
僕はそっとドアノブに手を伸ばす。
ガチャ、グッ。
当然ドアの鍵は掛かっている。
がちゃッ!ガチャん!ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ!!!!!
無意識に木製のドアを叩く。
ばんっ!バンっ!バンッ!バンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッ!!!!!!
「ねぇ……あけてよ」
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