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方舟  作者: ガッデム
3/3

3日前

目を覚ますときはたいてい螺旋階段の真ん中を落ちる夢を見て足がズルっとなった瞬間に起きる。

社会人になって疲労がたまっているのか、ここ数か月、この悪夢が起床の原因となっている。


スマホを開き、今日が火曜日だということを確認してから1階に降りる。時刻は10時だった。

この家では8時に朝ごはんが用意されるため、この家にとって僕は、寝坊したということになる。ただ、基本朝ごはんを食べない僕にとっては寝坊でもなんでもないのだが。

小鳥「おはようございます。」

お手伝い兼彼女の小鳥さんがねぼすけを迎えてくれた。

小鳥「ごはんの準備いたしましょうか?。」

僕はいいや、と返すと、そろそろだね、と続けた。

小鳥さんはしばらく黙っていたが、真剣なまなざしでこくりとうなづいた。


リビングには母さんがテレビを観ていた。挨拶は返ってきたが、心はテレビにあるようで、こちらに目もくれなかった。テレビは政治について熱く語る政治家と嘲笑するコメンテーターでにぎわっていた。

僕はあまり政治については詳しくないし、なんならあんまり興味がないいわゆるノンポリなので、テレビのあるリビングは素通りして小鳥さんが朝ごはんを準備してくれているダイニングへと向かった。


小鳥「もうそろそろ出来上がりますのでもう少々お待ちください。」

基文「今ダイニングには二人きりなんだ。そんな堅苦しい話し方じゃなくて大丈夫だよ。」

小鳥「そうはいきません。今はまだ…。」

そうこう話していると、教祖様が書斎から出ておいでになった。


僕の父さんはとある教団の教祖様であり、父親である。僕にとって父さんは、父親である前に教祖様なのだ。

これは否定的な意味ではなく、最も尊敬しているという意味を込めてこのような考えに至っているのだ。

僕たちの入信している教団の教えは至極全うなものが多い。「人が困ることはしてはいけない」だったり「人には優しくしなければならない」だったり。至極全うというのは「普通に考えればそうだよね」というだけであり、行動に移せることが至極全うという意味ではない。「人が困ることはしてはいけない」とか「人には優しくしなければならない」とか、人によって困ることや優しいと思うことの基準が違うため、これを完璧に実行することはなかなか難しいことだと思う。

だからこそ、教えとして今一度啓蒙している教祖様は僕たちにとって光のような存在だと思い、尊敬しているわけだ。


基文「おはようございます教祖様。本日この後、5分ほどお時間いただけないでしょうか。」

教祖様のお時間を奪うというのはなかなか大それたことをしているなと思いながらも、これは教祖様にとっても重大な話であるため、お願いするしかなかった。

教祖様「よかろう。して、要件は何だ?。」

基文「僕と小鳥さんの関係についてです。」

教祖様は目を丸くした。それもそのはず。実家のお手伝いさんである小鳥さんと僕がまさか付き合っているとは予想もしていなかったのだろう。


僕と小鳥さんのお付き合いは数年前から始まった。

つまり僕が学生の頃、小鳥さんはすでに実家で働いていた。最も身近にいた血縁関係のない女性だったのだ。しかもごはんもおいしく、気も回るときた。そりゃあ、誰でも好きになってしまうというものだ。

小鳥さんの趣味は外見とは裏腹にバイクらしく(この時代、外見で趣味を決めつけるのはナンセンスだが、外見があまりにもおとなしい方なので驚いてしまった)このお屋敷でのお勤めが終わり次第、バイクを買ってツーリングに行きたいと話していた。

そのギャップに僕は胸を撃たれ、その話を聞いた直後に告白した。

小鳥さんは数秒驚いていたが、その後は微笑んでこの告白に快く応じてくれた。

女性経験は人並みにしてきた僕でも、一回り年上の方とお付き合いをするなんて経験はなかったので、いろいろ調べてプレゼントやデートのお誘いをした。


しかし厄介な問題が関係性である。

僕は雇い主の息子であり、小鳥さんはお手伝いさんである。なかなか教祖様にもお話できず、なんなら母さんにもこの話はできていない。

デートのお誘いはしたが、小鳥さんに決まったお休みはないらしく、なかなか予定が合わない。

そこで、実家へ帰る頻度を増やし、プレゼントを渡して夜な夜なおしゃべりをする。そういう関係性を続けてきた。

だが僕も社会人になり、将来のことも考え始めなければならないと思い、小鳥さんに結婚について本気の相談(小鳥さんにはプロポーズにうつったかもしれない)をした。

そこでやはり最初に超える必要がある壁として話題にあがったのが教祖様にお伝えすることだった。


結婚するからといって、お手伝いさんを辞めてほしいわけではない。ただ、定休日をもらって、その時間は二人の時間として過ごせるような状態になりたかったのだ。

恐らく教祖様も母さんも結婚には反対しないと思う。ただ、定休日が欲しいというお願いに関しては首を傾げられる可能性があるな、と思っていた。


教祖様「ふむ。なにか深い話がありそうだな。夕食前になら時間もとれるが。」

基文「ありがとうございます。それでは夕食後、お願いいたします。」


こうして、今夜僕たちの将来は決まるのだった。

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