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勇者様は虫退治がお得意

作者: 伊織ライ

「あなた、これ物置から出て来たのだけど……」

「……ん? ああ! ちょうどそれ、探していたんだよ」

「探してたって……あなたもうその足じゃ、振れないでしょう?」

「はっは、まあそうさな。あの討伐の旅が二十歳の頃だったから……もう五十年も前になるか」

「そんなに経つのね……出立のパレードであなたが正装した凛々しい姿は昨日のことのように思い出せますのに」

「それを言ったら聖女の白い法衣を纏ったおまえもたいそう衆目を集めていたぞ? シンプルなくせに身体にピッタリ沿うラインが妙に妖艶でな……」

「……そういえばいつもあなた、足元のスリットのところ見てましたわね」

「うっ、気付いてたのか? ……ありゃ健全な男ならみんな見ずにはおれんだろうさ。不可抗力だ」

「ふふっ、そんなこと言って。他の男性が私に声でもかけようものなら、勇者の力を使ってまで牽制していたくせに」

「気付いてたのか──っ? そっ、そりゃ聖女に男ができたってんじゃ討伐どころじゃなくなるからでな……」

「まあっ、素直じゃないのは昔から変わりませんね。私はさっさと告白してくれないかしらと思ってずっとずぅーっと待ってましたのに」

「……そうだったのか? てっきりお前はあの頃、騎士のあやつを好いていたのかと……」

「あら、そんなこと思ってましたの? 私の気持ちなんてあなた以外みーんな気付いてたのに、どうしてそんな勘違いしたのかしら」

「……くそ、あいつ俺を揶揄ってたのか……」

「王命だから逃げられないなんて言って、聖女との結婚を褒賞に選んだのは他でもないあなた本人だって、上奏の場に控えていた騎士から聞いていたわよ」

「な──! 口止め料にわざわざ高い酒まで振舞ったのにあいつら……!」

「いいじゃないの、五十年も前の話よ。それに事情を聞いていたからこそ私も思い悩むことなく、あなたを心置きなく愛することが出来たんだもの。無駄にすれ違って白い結婚にならなかったこと、感謝してもいいくらいでしょう」

「そ、それはまあ……礼を言っても良いかもと、思わなくはないが……」

「おかげで子供たちも立派に育ってくれて、孫たちだってとってもいい子ばかりだわ。知ってる? ジョシュアのところのアンナったら、あの勇者の物語が未だに大好きなのよ。小さなころから木の棒を振り回しては、聖剣ごっこしてましたわね」

「アンナは小さく生まれたのに剣術の才能があったからなぁ……ジョシュアは全く剣に興味を示さなかったというのに、難儀なものだ」

「うふふ、私がおじい様の跡を継いで次の勇者になるんだって、どんなに諭しても諦めませんでしたからね。あの子はあなたに似て芯が通っているし、とっても強いわ。どんなことがあっても、きっと乗り越えていけるでしょう」

「まあ、うん。そうだな」

「それにね、もうアンナにはあの子を絶対に守ってくれる騎士様もいるのよ。だからこれからはきっと彼が守ってくれると思うわ」

「なに……! うちの大事な孫娘に手を出すとは、どこの馬の骨だ……!」

「あら、そういえば彼、あの騎士様のおうちの出身だったかしら。縁続きになったらまた交流が出来て、とっても楽しそうね~!」

「くそ、あいつ……絶対に許さん。お前がいつまでもヘタれているようなら俺が貰うぞなどと、あれは確実に冗談の目じゃないと思ったんだ……。こうしちゃおれん、膝の痛みを言い訳にせずまた鍛えねばならんようだな」

「まあ、懐かしい練習着だこと。そんなものを着ると、本当に昔に戻ったみたいね。──そういえば、この聖剣も探していたとさっきおっしゃっていたけれど」

「ああそうだったそうだった、まずはそちらから済ませようか」

「一体何がありましたの?」

「うん、さっき庭に毒虫が飛んでいたんだよ。お前に変な虫がつくと困るから、聖剣の雷撃で落としてやろうかと思ってな。あれなら距離があっても当たるからの」

「まあっ! そんなことで聖剣の力を使うなんて、あなたったら五十年前と本当に何も変わらないのね。どうしましょう、くだらないことに使うなって私が神様に叱られたりしないかしら」

「……なにもそれほど笑うことはないだろう。お前を守るためにこの力を使うのだと、この聖剣を授かった時誓ったのだ。それでも勇者の任を解かれなかったのだから、神様とて俺の気持ちははなからご存じのはずさ」

「そんなに前から……あなた、本当に私のことが好きだったのね。いいわ、私も聖女としてこの力を勇者の為に使うと誓ったのだもの、任せて頂戴。絞り出せばきっとまだ……多分ほら、いける…………せいっ! あっ、どう? 少し光った気がするわ!」

「お、おお……、おお……! 膝の痛みが、消えた……!」

「そうでしょう、そうでしょう! その調子でまだまだこの先もずっと、私を守って下さいね。勇者様!」

「仰せの通りに。聖女様」

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