春愁
教室の窓際、春の風に髪をなびかせて笑う彼女を、俺はずっと見ていた。
ナナは明るくて、天然で、誰にでも優しい。
クラスの中心ってわけじゃないけど、気づけば人が集まった。
「好きだ」と言葉にした瞬間、壊れそうな気がして、何も言えないまま刻々と時間は過ぎていった。
そして残り数少ない昼休みがやってきた。教室の後ろのほうで、ナナが誰かと話しながら笑っている。彼女の声は、なんだか耳に残る特別な高さがある。
目を合わせない様にしていたけど、突然、ナナがこっちを向いて手を振ってきた。
目が合うと、すぐに近くの席にやってきて、笑いながら言う。
「ユウくん、また体育サボってたでしょ〜」
ナナが俺の机にプリントを置いてきた。
笑ってるけど、たぶんほんとに怒ってるわけでもない。
「いや、サボってない。自主休養ってやつ」
「はいはい、自己管理ね。将来大物だね〜」
そういえばいつかは忘れたけど、ナナは笑顔で「ユウ、私ってどんな感じに見えてる?」と言われた。その時は適当に流していた。「まぁ、明るい人だなーって見えたかも」それに対して「そっかー。」とだけ言って、別れた。結局何が言いたかったのだろう。「気の抜けたやりとり」そういうのがずっと続くはず。と思っていた。
俺はナナが好きで、たぶん、それなりに近い所にいて、けど“それ以上”になる勇気はなかった。
別れてベットに飛び込む。ふと彼女とのなれそめを思い出した。
あれは確か1年のころの文化祭だ。自分たちのクラスでは喫茶店を開く事にした。運営委員会に選ばれて張り切っていたけれど、うまくまとめられずにいた。途方に暮れながら作業していると、「私も手伝うよ!」と後ろから声がした。ナナだ。「いいの?」「もちろん!!」「それじゃあ、ポスター作りお願いしてもいい?」「まかせといて!絵描くの好きだから!」
どんどん人が帰っていく中、ナナだけはずっと残って作業してくれた。時刻は17:00をとっくに過ぎている。申し訳なくなって彼女の大好きなカフェオレをおごった。その瞬間の彼女の笑顔はまるで宝石みたいに輝いていた。
「俺の“好き”を曖昧にさせた。」彼女を表す一文として最もふさわしい文だと思う。きっと、俺は親友ポジションが心地よかったんだ。
“恋人になれないなら、せめて一番近くにいたい”なんて、ズルい気持ちで。
でも、ある日”それ”は崩れた。
「ナナって、A組の先輩と付き合ってるらしいよ」
そんな噂が教室に流れたとき、俺は何も聞いてなかった事にショックを受けた。
本来なら祝福するべきなのかもしれない。
「もう“それ以上”の関係にはなれないのか、、」
そんな悲しさと少しの絶望の感情が真っ先に頭をよぎった。それでもナナはいつも通り笑っていた。
けど俺はその日を境に少しずつ、目を逸らすようになってしまった。
「ねえユウ、最近そっけなくない?」
ナナのその一言が、やけに遠く聞こえた。
それでも言えなかった。
“他の誰かじゃなくて、俺を見てほしい”なんて。
そして卒業式の前日。
ナナは学校に来なかった。
朝のHRで担任の先生から、「転校が決まったらしい」と聞いた。
その時、教室が一瞬静まり返った。そのあとは転校の話してもちきりになった。「転校って、もっとちゃんとお別れがあるんじゃないか。」そんな言葉は周りの声にかき消されていった。
そして迎えてしまった卒業式。淡々と式は挙行されていく。最後の一人の名前が呼ばれ、卒業証書授与が終わった。その後の校長先生の話は正直、ちゃんときいていなかった。そして卒業式が終わり、みんなは校庭で写真を撮ったり、遊具で遊んだりしてはしゃいでいる。
「楽しかったなー、」と高校生活に思いをはせていると突然、通知が届いた。俺は慌ててみんなの輪から少し離れた。
ナナからのLINEだった。
________________________________________
「なんで気づいてくれないの、って思ってた時もあったよ。でもさ、もし気づかれてたら…たぶん逃げてたと思う」
「勝手だよね。自分でもよくわかんないや笑」
「ほんとは最後くらい、抱きつきたかったのにな」
「……なんかもう、全部遅いね。ごめん。ありがとう。大好きだったよ」
________________________________________
画面を見つめながら、返す言葉を考えた。
「俺も、好きだったよ」なんて、いまさら言ってどうなるっていうんだ。
いなくなったあとも、俺はまだ君の事を想っている。
きっとこれからも。でもそれでいい。
君の幸せを願えるほどに、『君が本気で好きだった。』
スマホをポケットにしまい、空を見上げた。
まだ寒さが残る春の風が涙をゆっくり、ゆっくり、乾かしていった。
読んでくれてありがとうございます。なかなか文を書くことになれないので不自然さはあるかもしれません。ぜひ改善点などを書いてくれると嬉しいです。