第7話 台所の恨み
「夕飯の下ごしらえをしてみたんだけど…」
あぁ、涼が台所に入ったんだな。そして、何かをしでかした。
「で?何をした?」杏が尋ねた。
「すいませんでした。軽くボヤ騒ぎを起こしてしまいました」
「はぁ、いつものこととはいえとりあえず涼が無事で何よりだ。怪我人いるのか?」
「火傷の軽傷の方がいます」
「謝っておくこと!」
「はい」
「それから!台所は私の城なの!料理なら私が教えるから無理しないで。わかった?」
「はい」
――杏は姉なのか?
「ゴメンなさい、光輝さん。組員さんにも怪我させちゃったみたいで」
「軽傷みたいだし、俺も涼が無事で良かったと思うよ」
――問われる涼の女子力。というか、台所への破壊力
「これは…台所も片づけなきゃだし、夕飯も作らなきゃダナー」
「杏、店屋物にするか?それなら片付けだけでいいだろ?」
「何を言うの!人数多いのに、店屋物なんてお店が大変だろう?運ぶのも!断固として私は夕飯を作る!」
――あぁ、こういう時の杏は頑固なんだよなぁ…
「夕飯は何にしようかなぁ~♪」
――ポジティブだな、杏よ…
「あぁ!私が大事に育ててたぬか床が…‼…涼ー‼道場に行くよ、組手!」
「涙目でぬか床を心配するとか、女子力半端ないね。でも、私は杏よりずっと弱いよ?」
「私が直々に鍛える!」
「マジでー?」
「お尻ペンペンだ!成人バージョンのな」
――夕飯は?成人バージョンってなんかエロいかキツイかのどっちかだよな。まぁ後者だろうけど
@道場
「ちゃんと来たな、涼。昔は逃げたりしてたもんね」
「昔の話でしょ!」
声を荒げて涼は言う。
「さて、かかってこい。涼」
それから、技をかわしては尻を叩きを繰り返した。
「参ったって涼が言うまで続くからな。尻がどんどん痛くなるよ。ちなみに叩くのもどんどん力を入れていくからね」
――杏よ…どんだけ台所が好きなんだ?そしてそのSっ気は普段と全然違うぞ?さらに言えば夕飯は?
「痛いー。杏ー、手加減してよー」
「だめ。涼は私の大事な台所をぐちゃぐちゃにしたんだから、お尻ペンペンでしょう?」
――恐ろしい姉妹だな…
「涼、いい加減降参して謝罪だ。尻が腫れてるぞ」
「負けず嫌いなの!」
「私の方が絶対強いのに…」
そう言い、杏は涼の尻を叩く。
「尻が腫れるというのは病院どこだ?何科だろう?一歩間違えるとDVだよなぁ」
でも杏は容赦をしない。台所の恨みは強いようだ。
「言いにくいんだが暴力団、俺たちな?は看ませんって病院もあるから結構大変だ」
「そうなんだー、風邪とかでも大変だなぁ?ありがとう光輝さん」
――カタギには基本的に手は出さないんだけどなぁ。チンピラじゃあるまいし
「杏、参った。夕飯の支度にとりかかってよー」
――そう思うよな
「まずは台所を片づけるところから!涼は立ち入り禁止!」
杏はプクっと頬を膨らませて抗議した。
――可愛いー
そして台所に戻ると…
「「姐さん!俺らでできる限り片づけました!姐さんの大事な城は姐さんにしか直せませんが、床の汚れとかは自分らで掃除しておきました。至らない点は多くあると思いますが…」」
「ありがとうございます!!どうしよう?めっちゃ嬉しい。もう勢いに任せて何でも作っちゃうってくらい」
「よくやったな」
「「二代目からそのようなお言葉をありがとうございます」」
「今日の夕飯はクリームシチューをパスタにかけよう!炭水化物食べないと腹持ち悪いよね」
「「ウッス」」
その後、台所を杏仕様にカスタマイズして見事に夕飯を作り上げた。
「姐さんは短時間で超うまいっス」
「俺、ここの組で良かったー」
――おい、それはちょっと聞き捨てならん発言だぞ?
「ほら、涼も食べなさい。尻が治らないよ?」
組員の目線が一様に涼の尻に移動する。
「杏!デリカシーがないの?」
「あ、悪い。家のノリだった。涼、クリームシチュー好きだよね?私が作ったやつ」
「杏が作ったのは美味しいからね」
「パスタの茹で加減難しいんだけど、皆さんどうですか?」
「「最高っス」」
「よかった。喜んでもらえて。私はこんなことでしか台所片づけてくれたお礼できないから」
「何を言ってるんですか!姐さんは料理もそうだけど、屋敷の掃除だって完璧じゃないですか!」
――組員の絆を一つにまとめたって実績もあるな。本人無自覚だけど
翌朝
――ん?今朝も味噌汁のいい匂いがする。よな?
「うーんと私も考えた。涼、あんたはだしの素を使いなさい。平和的解決」
そう言いながら、昆布・鰹節・煮干しでだしをてきぱきと取っていく。
――涼に料理を教えているのか。っていうか組員が試食するのか?
「包丁は研いでおいた。よく切れるから気をつけなよ。朝だし、ワカメと豆腐の味噌汁にしよっか」
「ワカメはだいたい塩漬けされて売ってるから塩抜きをすること!ただボールに水はって漬けとくだけ。人数多いからこんくらいかな?」
「少なくない?」
「増えるの」
「増えるワカメじゃなくて、生ワカメだよ」
ちょっと杏をバカにしたように涼は言った。
「生も増えるんだ。覚えておくように素人」
「で、水を取り替えながらワカメを洗って…軽くしぼる。その後まな板にのせる。切るんだけど、力制御しなよ。私が研いだ包丁を信じて!小さな力で切れるの」
杏はだんだんイライラしてきた。
「あー、時間ないからあとは一人でやる。ゴメンね、涼!」
――まともな朝食を食べたいデス
今朝は、鍋だった。
「杏。この鍋はなに鍋だ?」
「うーん、冷蔵庫の残りを入れたからなぁ。一歩間違えると闇鍋だけど多分うまくできてるはず!」
――多分…