私、学園に着きました。
降る雪は止まることなく、吹く風は悲しい歌を歌う。
フルセウス国立魔法学園はそんな雪山の地下にある陸の孤島である。
大陸随一の生徒数、技術力、規模を誇り、その立地ゆえの安全性や教師の実力を疑うものはおらず各国がこぞって王一族や名門貴族を送り込む名門校。
そんな背景もありフルセウス学園の成績序列上位者は就職には困らない。
「アルバート家の名に恥じぬ、優秀な成績を収めて帰るのですよスカイミア?」
ぼーっと馬車の外を見ていた私の温度さえ下がっていくような母の声。
親子関係を疑うほどにはマイペースな私の声とかけ離れている。
2人きりの時はもっと優しいのに、父の目があるところではとても厳しい人なのだ。
「はい、お母様。」
「それと、縁談も持って帰ってきなさい。
この国ではあなたと釣り合わなくても、学園でよい成績を収めればより良い縁に恵まれるでしょう?」
父の前で母がこれほどまでに厳しいのには理由がある。
母の実家であるブルター王国・ルスベル伯爵家は領地経営に難があり父・アルバート子爵が経営するアルバート商会の助けがなければ爵位および領地のはく奪が起こる可能性があるからだ。
きっと母は私に父の見つける相手ではなくて学園での良縁と結ばれてほしいのだろう。
それは母ができなかったことであり、父以外から与えられる数少ない選択肢でもある。
「スカイミア?わかっているとも思うが恋愛にうつつをぬかすなよ、良縁があればいいがいざとなれば国内に関係を結びたい貴族などごまんとおる。
お前にはさっさと国の奨学金をとれるほどの成績を取って、学位を無料で取得してもらわんとな。」
「はい、十分承知していますお父様。」
父は手元にある経済学位象徴の指輪をなでながら、私の向こうにある何かを見つめているのだった。
外に積もる長年の雪のように、私の気持ちは重い。
ブルター王国の生徒の中で国からの奨学金がもらえるのは全12学科につき上位5名ずつのみ、総成績ではなく各学科なのはある一定の学問にだけ大量の人材がいる状態を危惧した国の判断だ。
もちろんそのレベルの譲歩では私がよい成績がもらえる気は一切しない。
自由時間の半分は勉学に費やすことになるだろう、それが今からおっくうで仕方がない。
悲しい風はいつしか止まり景色もほとんど変わらなくなったころ。
外から学園到着を伝える御者の声が聞こえた。
「ブルター王国!!アルバート家到着!!」
足元にあるまとめられた荷物を両手に持ち立ち上がる。
考えていても仕方がない、いいこともあるかもしれないのだ。
どんな学園生活であろうとこの私にない興味のない父の無意味な説教よりはましだといえる。
「お父様、お母様、行ってまいります。」
母は、父から見えないように手紙と何かを渡すと一瞬のぞいたいたずら心を引っ込ませるように元の冷たい顔に戻った。
「ええ」
「ああ、くれぐれも忘れるなよ」
閉まる馬車の扉、暖かい光に包まれる少し古い学園の校舎は新しい家として私を歓迎するようだった。