表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【電子書籍1〜2巻発売中】ダジャレ好きのおっさん、勇者扱いされる~昔の教え子たちが慕ってくれるけど、そんなに強くないですよ?~  作者: 歩く魚
おっさんと和の村

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

94/154

月ノ庵

 団子を楽しみ、カグヤノムラを散策した後、夕方近くになって宿に帰ることにした。

 名前は「ツキノアン」といって、村の中心部から5分ほど歩いた場所にある。

 冊子にはいくつかの候補が掲示されていたが、ツキノアンは「古き良き風情が漂う宿」と書かれていたので、ほぼ即決に近い形で決めることにした。

 幸いにも二人部屋の空きがあり、こうして俺たちは寝床を手に入れたのだ。

 予約の際に、すでに一度通っている道のりであったが、改めて観察してみる。

 街の中心部から風情のある石畳の道が続いていて、その途中途中に美しい庭園や、築100年はくだらないのではないかという古民家が立ち並んでいる。

 時の流れが可視化されているとしたら、ここだけはゆっくりと流れる小川のようになっているのだろう。

 小さな橋を渡ろうとして、その下を流れる透き通った水の流れを眺める。

 

「私が魚になった時にはこの川を永住の地にしようと思う」

「その日は来るの?」

「来ると思うか?」


 人を魚に変身させる魔術を生み出そうと思ったが、そんな軽い怒りなどすぐにかき消されてしまう。

 きっと、カグヤノムラに住まう人々は諍いとは無縁の生活を送っているのだろう。

 多少のことであれば、美しい自然を前にすればちっぽけなことだったと思い直せる。

 少し歩くと、ツキノアンが視界に現れてくる。

 この村は木造建築を主としているのだが、本当に同じ建材を使っているのかと疑問になるくらい、それぞれの建物に特徴が滲んでいた。

 宿は、一見すると地味な外観となっている。

 しかし、目を凝らすと梁や柱には見事な彫刻が施されていて、景観を崩さないように、しかし一種の高級感というか、宿泊する者の心を昂らせるような工夫がしてあった。

 重厚な木の扉には「月ノ庵」という看板が取り付けられている。

 月の神を信仰しているのだし、そこから名前を取っているのだ。

 おそらく「ノ」はその通りだと思うから、月が「ツキ」、庵が「アン」なのだろう。

 一部の街や村ではこういった言語が使われていると冊子で読んだ。

 俺たちが使っているものよりも、手を動かすという一点では不便なように感じるが、形が独特で魅力的だ。

 いつか機会があれば勉強してみよう。

 木の扉を開けると、中には広々とした中庭が広がっていた。

 屋内なのに外と見紛うほどの、注意深く見れば広くもない空間なのだが、どうしてか開放感に溢れている。

 二度目にもかかわらず感動を覚えながら、宿の受付をしていた男性に話しかける。

 彼は「お帰りなさいませ」と優しく礼をし、俺たちを部屋へと案内してくれた。


「どんな部屋なんだろうな」

「団子も素晴らしかったし、きっと情緒のある一室なのだろうよ」


 小さい声で言葉を交わす。

 実は、宿を取った時には荷物を渡して、そのまま出て行ってしまった。

 つまり、部屋はまだ見ていないのだ。

 滑らかな木の床を、ぺたぺたと歩いていく。

 階段を二階層ほど登る。

 一体どんな内装になっているのかと考えを巡らせているうちに、男が足を止めた。


「……ここが『松』のお部屋になります。それでは、幸せな時間をお過ごしください」


 一礼して男が去っていく。

 横に開く扉を開けると、まず目に入ったのは草を織ったもの……畳だった。

 団子屋の時にも敷かれていたが、こちらの方が頻繁に手入れされているような新しさを感じる。

 壁には物珍しい絵画、そ文字を書いたものがかけられていた。

 そして、奥にある横開きの扉、とてつもなく薄い紙が貼り付けてあるそれを開くと――。


「おお……これは……」


 気付かなかったが、もう一つ庭があったのだ。

 水で動く木の装置や石でできた小さい塔。

 植えられている植物は、どれもが緑色なのに、のっぺりとせず深い奥行きを感じさせる。

 この植物たちの根元には小人の国が広がっているのではないかと、そう感じた。

 


もうすぐ新キャラ出てきます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ