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【電子書籍1〜2巻発売中】ダジャレ好きのおっさん、勇者扱いされる~昔の教え子たちが慕ってくれるけど、そんなに強くないですよ?~  作者: 歩く魚
おっさんと和の村

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団子屋

無駄に団子屋をしっかり書いている気がする

 宿を確保した俺たちは、再び飲食店の多い広場に戻ってきた。

 先ほどと変わらず、多くの店は賑わっているものの、しかしやかましさはない。

 各々が落ち着いて会話をしている様子が、カグヤノムラの人々の人間性を表していた。


「なぁ、あの丸い食べ物のところにしないか?」


 隣に立って周囲を見ていたルーエ。

 彼女に提案してみると、ふっと笑いだした。


「私もあそこがいいと思っていたところだよ。やはり夫婦というのはこうでなくてはな」

「いや、まだ夫婦じゃ――」

「永く時を共にすると互いの考えが読めるようになるとは聞くが、まさかこんなに早くこの境地に到達するとは。ふむ、今日の食事は格別なものになりそうだ」

「あ、はい……」


 満足そうに胸を張って歩くルーエに続き、目当ての店に向かった。

 ガイドブックを見てみると、この店は「団子屋」であるらしい。

 団子は米の粉を練って丸めたもので、餅のような食感が楽しめると書いてある。

 そして、カグヤノムラにある団子屋は、村の中でも一際有名な老舗だとも。


「団子か……食べたことある?」

「私はないな。……いや、スライム饅頭なら一度だけ部下に貰ったことがある」


 どんな食べ物なんだスライム饅頭は……と思ったが、今は気にしないでおいた。

 団子屋は、立地的にはカグヤノムラの中心部に位置しているが、決して店構えが大きかったり派手だったりせず、むしろひっそりとしていた。

 しかし、木の香りや伝統的な装飾は美しく、温かみのある雰囲気。

 屋根には紺色の波のような建材が使われていて、これは瓦というらしい。

 たとえ屋根であっても磨いているほうが見栄えが良いと思っていたが、むしろ瓦は時代が過ぎて風化するほどに味を深めていくようだ。

 瓦の上には少しばかり苔が生えていて、この団子屋が誕生してから短くない年月が経ったということを物語っていた。

 屋根の一番盛り上がっているところ、つまり頂点。

 その両端には謎の芸術作品のようなものが置かれている。

 魚のような見た目で、尾を天高くそびえ立たせている姿からは縁起の良さのようなものを感じた。

 きっと、商売繁盛を願っているのだろう。

 その甲斐あって、店には幸運や繁栄がもたらされているような気がした。

 団子屋の入り口には、丁寧に手入れされた細い石畳が敷かれている。

 道の両側には、青や紫の花が植えられていて、どうやらこれがアジサイらしい。

 もしかしたら、季節ごとに植えられる花が変わり、風景に溶けこめるよう工夫されているのかもしれない。

 上に目を向けてみると布製の暖簾がかけられていて、それには「団子」という字が書かれていた。

 字体に親近感はないが、雅というか、腕の良さが伝わってくる。

 暖簾の向こうには店内へ続く床が見えていて、外観の木材よりも少し色が明るくなっていた。

 

「いらっしゃいませ。お二人ですか?」


 優しそうなおばあさんが出てきて、俺たちが頷くと席へと案内してくれた。

 床は途中から草を織って作ったようなものに変わっていて、正方形の紫色のクッションに腰を下ろす。

 窓から差し込む木漏れ日が、さらに格別な落ち着きを演出していた。


「すみません、団子というのを食べたことがなくて。おすすめはありますか?」


 質問すると、おばあさんはややしく微笑みながらメニューの解説をしてくれる。

 この店では「月見団子」と「抹茶団子」というのが人気らしく、俺は月見団子を、ルーエは抹茶団子を注文することにした。

 

「……お待たせしました」


 しばし待っていると、後方からにゅっと白く細長い手が伸びてきた。

 そして、俺たちの目の前に木の器を置く。


「こ、これが団子……!」


 本来なら、運んできてくれたおばあさんにお礼をするべきなのだが、初めて目にする食べ物に目を奪われてしまう。

 月見団子は、白くてふわふわとした球体のものが三角形に積み重なっていて、一番上のそれだけは黄色くなっていた。

 好奇心が抑えきれず、一つ手にとっている。

 吸い付くような感触が期待を煽り、口に運ぶ。

 触った通り食感ももちもちしていて、中には餡が入っていた。

 餡の落ち着いた甘さが口いっぱいに広がり、思わず目を閉じてしまう。

 夜に浮かぶ月が脳裏に映し出される。

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