行き先
新しい章に入りました!
ケンフォード王国を出発してから数日が経過した。
俺が山を出てから今までは何かと騒がしく、こうしてルーエと二人で旅をする機会は意外となく、寂しい気持ちと落ち着く気持ちが共存している。
夜の暗さと焚き火の明かりが、それぞれ対応する感情を増長させているようだ。
ただ、同じ気持ちを共有しているはずのルーエの様子は予想外というかなんというか。
「やはり肉はレアに限る。ジオもそう思わないか?」
「いや……うん、確かにそうかもしれないけどね?」
とはいえ、最近はよく焼くほうが顎に良さそうで……じゃなくて。
「そろそろ目的地を決めてみても良くないかなって」
「ふむ……」
ルーエは腕を組み、重たそうな胸を持ち上げながら考え始める。
「この数日間は、やっとジオを独り占めできて幸せだったんだが……」
「もちろん俺も楽しかったよ。足りないものをどう補うかとか、山で暮らしていた頃を思い出したし」
流石に今の俺なら、大抵のことは魔術によってなんとかできてしまう。
だが、あえて手間のかかる方法を探して試すことで、思ってもみなかった発見や学びがあるのだ。
それがゆくゆくは新たな魔術のヒントになることも多かった。
ルーエとの当てのない旅も十分楽しいけど。
「でも、ずっとこのままっていうのも味気なくない?」
「それは……私的には割とありなんだが」
「ありなの……」
うんうん頷いているのを見て、会話の広げ方を間違えたかとガックリくる。
「だが、ジオがどこかへ行きたいと言うのなら合わせよう。なんだかんだ言って楽しいしな」
「そうそう! その言葉を待ってたのよ!」
途中、雲行きが怪しかったが、どうにか意図した方向に話を持っていくことができた。
「……あ、でも行きたいところがあるわけじゃないんだよ。そもそもどこに何があるのかすら知らないからさ」
マルノーチと王国の位置関係だってすでに怪しくなっているし、山に帰ることだってできないかもしれない。
テレポートの魔術を使えば戻れないこともないが、現在地からの距離感が分かっていないと、思わぬ場所に移動してしまう可能性がある。
死にはしないが、気づいたら木の中に埋まっていたなんて精神的に良くないだろう。
まだ家が恋しくはなっていないから、そんな気持ちはサラサラないが。
何が言いたいかというと、つまり俺は外の世界の地理には詳しくないし、次にどこに行くか、行けるかの知識もないわけだ。
だから迷子状態ということで、こういう時に地理に詳しい、レイセさんのような人がいれば――。
「あぁ、それならいいものを持っているぞ」
「え?」
呆けたような声を出してしまった俺を笑いながら、ルーエは懐から一冊の本を取り出す。
いや、本というには薄いな。
「これはいつだったかに誰だかから貰った雑誌でな、ここら一帯の観光地が記してあるらしい」
「…………どうして言わなかったの?」
「すっかり忘れていてな。ほら、少しよれてしまっているだろう?」
思わず顔が引き攣る。
時期やくれた人まで忘れているのもそうだが、こんなに有益そうな情報を忘れているなんて……。
「ルーエ、三日間飯抜きな」
「なぜだ!?」
抗議の声を無視しつつ、雑誌をめくってみる。
おそらく著者はしっかり者なのだろう。
マルノーチと王国の位置関係どころか、周辺の村・街・ダンジョンがしっかりと記されていた。
残念ながら俺の故郷である山についての記載はなかったが、これで十分だ。
一ページ一ページ目を通して惹かれる場所を見つけていく。
最終的に3択にまで絞ることができたが、どうにもこの先に進まない。
「なぁルーエ」
「なんだ? 晩飯OKのお達しか?」
「あれは冗談だから。あのさ、1から3までで好きな数字を教えてくれる?」
「1だな。やはり魔族の頂点に立つ私には似合うのは――」
「よし、1と……」
「聞いてくれ!?」
ということで、次に俺たちが向かうべき所が決まった。
「今から俺たちが向かうのは……カグヤノムラだ」




