別れ
「それじゃあ、俺たちはもう行くよ」
ひとしきり話した後、俺とルーエはフォックスデンを出発することにした。
エドガーさんやシャーロット、ロジャーたちが見送りに来てくれるので、一人一人に声をかけることにした。
「エドガーさん、描写はさておき自分が小説の登場人物になれるなんて夢みたいでした。ありがとうございます」
「礼を言うのは俺のほうさ。騎士団長に粛清されかけた時もありがとうよ」
小説では、どうしてかシャーロットが俺に恋をしているという設定になっていた。
おそらく第三者から見れば、お堅い騎士団長に想い人がいるというのは面白いのだろうが、当の本人は良い迷惑ということで激怒していた。
顔どころか耳まで真っ赤にして槍を取り出す姿は可愛くもあり、申し訳なくもある。
それでまあ、一応エドガーさんの無事のために彼女を止めたのだ。
「……とはいえ、あんたがいなくなればボコボコにされるのは目に見えてるし、俺も次のネタ探しのために外に出てみようと思ってな」
「へぇ、それはいいですね」
「だろう? 旅先で武勇伝を耳にしたら、また作品にさせてもらうよ」
「それは……お手柔らかにお願いしますね」
オーバーな描写を増されたら流石に困る。
「ロジャーは良く持ち堪えてくれたね。今後も村のために頑張ってね」
「はい、もちろんです。その……私がこうして牧師になることができたのもジオ先生のお陰なので、失望させないように努力します」
フォックスデンの先代の牧師であったトマスは既に亡くなっていたらしく、本来であれば時期牧師は別の家の貴族の長男が継ぐはずだった。
だが、今回の一件で権力の増したエドワード王の、また、彼の活躍を見ていたフォックスデンの村人たちの推薦の結果、ロジャーが牧師へ昇進したのだ。
「次来る頃にはフォックスデンはもっと栄えているかもね」
「今までの慣習を大切にしつつ、柔軟に変えられるところは変えていこうと思います。そうすれば興味を持ってくれる人もいるだろうし、何よりジオさんとルーエさんの像を建てますからね」
「ふむ。ドレスの質感には気を遣ってもらおう。それと、ジオが私を見つめるような構図で頼む」
勝手に像やら何やらが制作されることになっているが、くれぐれも盛りすぎないようにお願いしたい。
「……そしてシャーロット。本当に成長したね。エドワード王が無事だったのも君のおかげだよ」
「先生……。ありがとうございます!」
両手を握りしめ、シャーロットは熱っぽい視線で俺を見る。
「そ、それでですね、先生。実は私の方からも言いたいことがありまして……」
「言いたいこと?」
「あの小説のことなのですが……」
あぁ、と納得がいく。
「それなら気にしなくていいよ。俺はちゃんとわかってるからさ」
文字として読んで初めてわかったが、確かにシャーロットの行動は俺に恋をしているように見えるかもしれない。
だが、実際には彼女の胸の中にあるのは尊敬である。
こんな立派に成長した教え子に尊敬されていると自分で考えるのも照れ臭いが、名誉なことだ。
「いえ、あの、そうではなくてですね……」
バツが悪そうにしているが、間違ったことを言ってしまったのか?
「どれだけ言っても伝わらないぞ、小娘。どれ、今回は私が力を貸してやろう。いつか子供たちを競わせる武闘会を開きたいものだ……なっ!」
「ひゃっ?!」
そう言って、ルーエはシャーロットの背中を押す。
それは、押すというより勢いをつけさせるような手つきであり、彼女は顔を茹蛸のように真っ赤にしながら俺の胸にぶつか――。
「…………えっ?」
衝撃が来るかと思いきや、シャーロットは俺に当たる直前で推進力を上に向け、その顔を俺のそれに近づけた。
目と目が合い、鼻が触れ、唇が重なる。
キリッとした普段の表情からは想像できないほど柔らかな感触。
また会いたいですと言いつつ、それからシャーロットは俺と目を合わせてくれなかった。
今回で王国編は終わりです!
お付き合いいただきありがとうございました!
次章はバトルというよりほのぼのした雰囲気にしたいなぁと考えておりますので、引き続きよろしくお願いいたします!




