小説
「……こうして王国の危機は去り、ジオ一行は次なる地に向けて旅立ったのだ」
開いていた両手を閉じる。
いや、閉じたのは手ではなくて、手に持って読んでいた本だ。
「どうだった? 今回は事実を濃く入れつつ、足りない部分は想像で補ってみた。もはや歴史小説だな、これは」
「いや、あの…………」
もう一度本をめくってみる。
エドガーさんと共にいた時のことは、その時の風の匂いまで鮮明に思い出せるほどに細かく描写されていた。
彼と別れていた場でさえも、想像で補ったと言いつつ、ほぼ現実に起きた出来事と相違ない。
しかし――。
「……明らかに私の戦っている描写がオーバーじゃないですか?」
そう、俺については明らかに盛られているのだ。
確かにブラッドウルフも倒したし、ナイトリッチとも戦った。
それは間違いない。
だが、ここまで圧倒的だった気はしない。
「これじゃあ勘違いする人が出てきちゃうっていうか……」
「あぁ、そう言われればそうだろうな。すまない」
エドガーさんがあまりにも素直に謝罪するので驚いてしまう。
「……本当はもっと圧倒的にだったんだろう? 俺の文才が足りないばかりに……すまない!」
「いやそうじゃないんですって!」
全く伝わっていなかった。
「だが、もう出版してしまったものは仕方がないだろう。エドワード王も喜んでいたし、ほら見ろ。帯まで書いてくれた」
「王様……」
なんでノリノリで書いてるのよ。
推薦しちゃダメだから……。
「あともうひとつ言いたいんだけど、もっと洒落をたくさん言っていましたよね?」
「そうだな」
「その半分もここに載っていないのはどういう……」
もしかして、ケンフォードの人にも理解してもらえないのだろうか。
でも、パーティの時は盛り上がっていたはずだ。
エドガーさんの好みには合わなかったのかもしれない。
「これも謝らなければならないな」
「……やっぱり私の洒落はつまらなかったですか?」
「むしろ逆だ! 面白すぎるが故に、全て書いていると俺の小説が霞んでしまう!」
「……え?」
キラキラとした彼の表情を見ていると、嘘を言っているようには思えない。
本当に俺の洒落がウケたのか?
「知らなかったか? 今、城下ではあんたの洒落が大人気らしい。立場が立場じゃなければジョーク教室の講師を頼みたいと嘆く声もあるらしい」
「そ、そうなん……ですか!?」
信じられない。
今まで誰にも――主に教え子たちだが――理解されなかった自分の一面が評価されているのだ。
「……信じられないが事実らしいぞ。人間たちが喜んで口にしていたのを聞いた」
「そうですね……。私も警備中に耳にすることが多く……その……お腹いっぱいというか……」
ルーエやシャーロットも頷いている。
おいおい、これは本当に……。
「…………嬉しい…………」
身体がカッと熱くなるのを感じる。
そして、顔のあたりがこう、ムズムズと――。
「先生、泣いているのですか!?」
「あぁ、嬉しくて……」
こうして人に認められることがどれだけ嬉しいのか知らなかった。
今後もたくさんジョークを考えて旅の先々で披露したい。
「……何を考えているかはわかるが、それはやめてくれないか?」
ダメだった。




