表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【電子書籍1〜2巻発売中】ダジャレ好きのおっさん、勇者扱いされる~昔の教え子たちが慕ってくれるけど、そんなに強くないですよ?~  作者: 歩く魚
おっさんと戦い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/154

魔人

 自分の意思ではなく使役された魔物。

 ブラッドウルフの姿は忽然と消え去っていた。

 それと同じように、ジオと相対していた長髪の紳士の姿もなくなった……が、彼がいた場所には全く別の生物が佇んでいた。

 筋骨隆々の身体つきをした、二メートルほどの真っ赤な身体。

 オーガのような顔が、大きな口が豊かに感情表現をする。

 およそ負の感情しか持たない魔物とは違うと告げていた。


「魔物と……融合したのか?」


 信じられないものを目にしたというジオを見て、ナイトリッチは身振り手振りを加えて言葉を吐く。


「これがあの牧師……名前は忘れてしまったが、彼の家系に代々伝わっていた禁断の術でね。魔物と人間を融合させ、二者の力を掛け合わせた生物を作るというものなのだよ」


 そんなものは聞いたことがない、とジオは思う。

 自分が持っている魔術書にも記されていない、あるいは記すことを許されなかったものだということだ。

 貴族とはいえ一つの家が生み出した魔術とは思えないが、今考えるべきはそこではない。


「……つまり、お前はブラッドウルフの力を持っているっていうのか?」

「使うことはできる。とはいえ、あんな低俗な技に頼るほど私は弱くないがね」


 魔人は笑う。


「この魔術がなぜ禁断と言われているかわかるかね? 本来であれば、人間の理性が消えて無くなってしまうからだよ。だが、私はそうではない」


 理性は人間が持つ特徴的な武器である。

 魔物にも理性を持つ種はいるが、基本的に本能が思考の大部分を占めている。

 同じように、人間にも本能は組み込まれている。

 生物として生まれ落ちる瞬間に、否応無しに渡される性質。

 つまり、理性と本能は少なくとも同じ割合で構成されているのだ。

 であれば、本能が強い魔物と融合すれば、それの割合が理性を超え、ただ力を振るうだけの獣へと堕ちてしまうのが通常。

 ナイトリッチは、そんな激流のような本能を押し留めて力をコントロールしていた。


「……だが、ブラッドウルフの瞬発力は私にはないものだ。これを手に入れられたのは――」


 ジオの眼前からナイトリッチの姿が消えた。

 彼はブラッドウルフをゆうに上回る速度でジオの背後に回り込み、その背中に蹴りを喰らわせた。

 凄まじい衝撃を受けたジオは、そのまま壁面に叩きつけられる。

 よく磨かれ、装飾された壁は簡単に破壊された。


「……大変ありがたいことだ。書の守護者も反応できない速度なのだから」


 壁の残骸に埋まっていてジオが身体を引き抜く。

 表情から受けた痛みを推し量ることはできず、魔人は少しばかり顔をしかめたが、先制攻撃が完全に決まったことに自分の優位を確信していた。


「ふむ。魔王を倒した男を凌駕したとなると、もはやここで時間を無駄にする必要もない。すぐに終わらせるとしよう」


 魔人は一本ずつ指を鳴らして威嚇する。

 そして、再び姿がかき消えたと思うと、ジオの目の前に現れて顔面を殴りつける。


「ははは! 書の守護者ともいえど敵ではない!」


 右の拳、左の拳、右の拳、左の拳――。

 容赦ない拳の雨が男に降り注ぐ。


「一度の反撃もできないのでは張り合いがない! もはや私に勝てるものなど――」


 その時、ナイトリッチは背筋が冷えるのを感じた。

 交差した両者の視線。

 ただ殴られた続けていたジオの瞳が、恐ろしく冷たかったからだ。


「――――ッ!?」


 なぜ自分が膝をついているのか。

 どうして視界が歪んでいるのか。

 魔人は一瞬にして状態を理解したが、状況を理解することができなかった。

 これまで攻撃を受け続けてきたジオが、一度だけ魔人の顔面を殴った。

 そのたった一撃で、ナイトリッチは大きく体勢を崩したのだ。


「……言いたいことはいろいろある。でも、とりあえずそれはあんたをボコボコにしてから言うことにするよ」


 膝を折っているからではない。

 自分より数十センチも小さい人間の男が、ひどく大きく見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ