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【電子書籍1〜2巻発売中】ダジャレ好きのおっさん、勇者扱いされる~昔の教え子たちが慕ってくれるけど、そんなに強くないですよ?~  作者: 歩く魚
おっさん、村へ行く

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修行

 ジオとロジャーの特訓は翌日から始まった。

 副牧師としての仕事の合間、トマスには秘密で村の空き地を使っての訓練だ。


「やっぱりロジャーさんは光系の魔術が得意なんですか?」

「そうですね。信仰心があるからか、すっと身体に馴染むようにして使えるんです。それと、私へ敬語はお使いにならなくて結構ですよ。先生なのですし、生徒として扱ってください」

「……わかった。そうさせてもらうよ、ロジャー」


 一般的に、魔術には素養というものがある。

 全ての魔術を扱うことのできる術師など伝説上の存在であり、多くても三種類くらいの適性を持っていることがほとんど。

 ロジャーは自己申告の結果、光の魔術を鍛えることとなった。

 エドガーは二人のやりとりを観察しながら、簡易的な机と椅子を組み立てて執筆作業に取り組んでいる。


「私としては、魔物といえど命を奪うことは望んでいません。手傷を耐えて撤退してもらうというのを目指したいです」

「確かに、傷や負わせれば二度と村へ来ない可能性が高いし、その考え方は良いと思うよ。だったら……」


 ジオは手のひらに白い短剣を出現させた。

 その刃は驚くほど滑らかで、かつとても薄い。


「これは?」

「この短剣……特に魔術名は付けていないんだけど、相手に傷をつけることに特化しているんだ。鋭さと薄さに特化しているから致命傷を与えるのは難しいけど、大抵の表皮なら裂くことができる」

「つまり、出血による撤退を狙うということですね」

「そうそう。とりあえずはこの魔術を習得してもらおうと思う」

「はい!」


 相手の皮膚を切り裂くことができるというのは、多少戦い慣れていなくとも触れるだけで良いことを意味している。

 懐に潜り込んで命を狙うのにはリスクがあり、相手が強ければ強いほど返り討ちにされる可能性も高い。

 それに比べて、最初から相手の撤退が目的であれば、攻撃を避けながら細かい攻撃を積み重ねることで達成できる。

 しかし、エドガーはジオの言葉を聞きながら苦笑いを浮かべていた。

 魔術名を付けていない……すなわち彼のオリジナルの魔術。

 現代で使われている魔術は、そのほとんどが過去の人物から伝えられたものだ。

 魔術師への弟子入りや魔術書によって身につけるものである。

 自分で魔術を生み出すことがどれだけ難しいかというのは言うまでもないことだと思うが、ジオは肉体の強さだけではなく、魔術面にも長けていた。


「まずは純度の高い光の玉を作ってみよう。身体に巡っている魔力を手のひらにまとめて、そしてぎゅっと固めるみたいに」


 アドバイスを聞いてロジャーは目を瞑る。

 手のひらに集中すると、まずは淡い卵ほどの大きさの光の玉が現れた。

 それはだんだんと実態を持っていき、遠くからでも質量が増しているのが理解できる。


「筋がいいね。次は刃の部分を作っていくよ」

「持ち手は良いのですか?」

「剣を持つ時に持ち手が必要だというのは、人間の思考に刻み込まれているからね。人間は常識にとらわれる生き物だけど、それを逆に利用すれば無意識で持ち手を作れるのさ」

「そ、そういうことでしたか……」


 ジオのいう通り、持ち手の部分はすぐに形成される。


「刃の部分は、少しずつ玉を引き伸ばしていくイメージをするんだ。刃は薄く、鋭く尖っていく」

「薄く、鋭く……」


 刃の色が徐々に薄くなっていき、反対に輝きは強くなる。

 瞑想しているときのような落ち着いた呼吸。

 しかし、一瞬の乱れの結果、刃はパキンと音を立てて割れてしまった。


「あぁ……!」

「惜しかったね。でも、やり方は合ってるからこのまま頑張ろう」

「ありがとうございます!」


 それから2日ほど二人の特訓は続き、ロジャーは刃の生成と並行して身体の使い方を学んでいった。


 ・


 ロジャーが教会を抜けている間。


「……はい、いよいよ手に入りました。これで作戦も……大丈夫です。ロジャーは最近、どこかへ通っているようでして。大方女でもできたのでしょう」


 トマスは教会の地下室で独り言を言っていた。

 否、それは独り言のように見えるが、机の上に置いた水晶を通じて遠方の誰かと会話しているのだ。


「城下の方でもそろそろ準備ができるそうで、決行は一週間後でいかがでしょう?」


 特殊な術式が用いられているのか、相手の声はトマスの耳にしか届いていないようだった。


「……わかりました。それでは、私たちの時代のために……」


 水晶の淡い光が消え、トマスはそれを棚に置いた。

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