土の拳
そこからは防戦一方だった。
前衛の二人はボスの攻撃を受け流すので精一杯で、後衛のトアが狙われた時には二人が盾になって攻撃を防ぐ。
崩される心配は薄いが、とにかく致命傷を与える手段がなかった。
「このままじゃ先にスタミナが切れるのはこっちだ……何か手があれば……」
ビギンは3人の中では一番冷静だが、それでもボス攻略の糸口を見つけられずにいた。
「どうする? このままだと3人ともやられてしまうぞ」
「……そうだね。少しくらいだったら助け舟を出してもいいかな?」
「あぁ。そうしてやるといい」
背後からルーエの声が聞こえ、しばし言葉を交わす。
このまま若い芽が摘まれるのは不本意だし、レイセさんもそれを予測していたから俺を同行させたのだろう。
少しくらいのヒントはあげてもバチは当たらないはずだ。
「3人とも、攻撃が通らなくても勝つ方法はあるよ」
「ジオさん! ほ、本当ですかッ!?」
息を切らせながらビギンが言葉を返す。
「あぁ、このボスは最初のダンジョンの守護者なんだろう? ここまでの道中を乗り越えてきた君たちなら、勝てないはずがない!」
「でも、僕たちの攻撃は全く効きません!」
今の彼らは気持ちでも負けている。
だからまず、勝てるイメージをしてもらうべきだろう。
「いや、よく見てみるんだ。戦いにおいて大切なのは、まず敵を観察することだよ」
「敵を……観察……」
観察眼に長けたネンテンは立ち止まる。
攻撃を避けることも忘れて、一身に目の前の強大な相手を見つめていた。
その隙をボスが狙おうとするが、トアが魔術を当てて気を逸らし、さらにその一撃をビギンが防ぐ。
「……そうだ。防具……少ない……」
「防具――そういうことか!」
ネンテンの言葉を聞き、ハッとするビギン。
「ボスはほとんど防具を纏っていない、それは守る必要がないからだ!」
そうそう傷つく心配のない皮膚を持っていれば、防具を身につける必要性は少ない。
むしろ、それを着込むことで本来の動きの妨げになってしまう可能性もある。
「……ってことは、ボスが防具を付けている部分が弱点ってこと!?」
「多分……そう! ボスの防具は……あの腰巻きだけ……だから」
3人は顔を見合わせ、頷く。
「おおぉぉぉぉぉお!」
ビギンがボスに切り掛かり、剣戟を交わす。
ダメージを与えることを考えず、ただ相手の攻撃を捌くことに全力を注ぐ。
その隙にネンテンが後ろに回り込み、追撃を加える。
だが、その攻撃はダメージにならない。
しかし、見えない部分からのそれは癪に障るのか、ボスはネンテンの方へ振り向く。
「……遅い」
しかし、振り向いた先にネンテンはいない。
二人は再度ボスの背後に回り込み、二人同時に右足に突撃した。
武器ではなく、己の肉体を駆使した、予想だにしなかった一撃。
ただ衝撃を与えるためだけに放たれたそれに、ボスはたまらず体勢を崩す。
恐るべき防御力を誇るボスにとって、人間の突進など、片膝をつくのみの恐るるに足らないもの。
ボスにとっては、勝利に繋がらない行動だった。
しかし、真意はその先にある。
「――トア、今だ!」
「呻け土塊、飛び出し爆ぜろ――アースノック!」
トアが詠唱を済ませると、片膝をつくボスの足元……というか股の下から土の腕が飛び出す。
ゴブリンに放ったそれよりも一回り大きい拳が、腰巻きの下のボスの股間を殴りつけた。
牛頭が一度大きく天に向けて振られ、続けて地に伏せる。
「まだまだ! アースノック! アースノック!」
攻撃の手を止めず、ビギンとネンテンが全力でボスを抑え付けている間にアースノックの連撃が股間を襲う。
魚が水から飛び出し、また水に入っていくような軌道で土の拳が攻撃を加える。
鈍い打撃音だけが広い部屋に響いていた。
ダンジョンの主も最初は体勢を立て直そうと暴れていたが、やがて力をなくし、両手がパタリと倒れる。
「やった、のか……?」
急所を何度も殴打されたことで耐性を得るなんていう都合の良い展開になるわけもなく、鍛えようのない部分を強打したショックからか、ボスから生命反応は消えていた。
ビギニングは無事、観察眼とコンビネーションを活かしてボスを討伐したのだ。
決め手として貢献し、両手をあげて喜んでいるトア。
腕を組み、頷いているルーエ。
俺とビギン、そしてネンテンは苦い顔をして股間を押さえていた。




