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降霊術

 降霊術に使用する道具を取り出し、一通りの準備を終えた。

 必要な道具はどれも占いの館――今は単なる彼女の住居となっているそこにある、物置スペースから持ってきた。

 どうやら引退するというのは本当らしい。もちろん冗談だとは受け止めていなかったが、あれほどの腕が隠れてしまうのは勿体無いと、改めて感じる。


「まずは、この空間を清める必要がある。お主たちは外に出ていてもらえるか」


 当然のように言い放つ老婆にルーエとエドガーは顔を見合わせ、後者は残念そうに口を尖らせながらも俺に視線を寄こし、出ていった。

 続いてルーエも「会えるといいな、母親に。本当なら私も――あぁ、ジオの方から紹介しておいてくれ」と言って部屋から出た。


「愛されておるの」


 俺が横になるための藁を床に敷きながら、老婆が揶揄うように呟く。


「私としては、もう少し放っておいてほしいものなんですけどね」

「そう言うな」


 老婆は笑った。


「男の方は、好奇心が3割で、残りはお前さんへの友情じゃろ。人間離れした女の方は、ぞっこんと見た。運良く母親に会えたら、ちゃんと紹介してやるといい」

「そ、それはちょっと……」


 元魔王が生まれ変わって俺に会いに来たという話だけでも荒唐無稽なのに、その上、深い関係を望まれていると話せば、早くも呆けてしまったのだと思われてしまう。

 老婆は困ったような笑みしか浮かべられない俺を見て「まぁ、色々事情があるみたいじゃのう」と何度も頷く。


「この藁に仰向けで寝るんじゃ」


 老婆が敷いてくれた藁は、俺の身体を上から下まで包み込んでいた。

 上下左右が内側に沿っていて卵の殻のようになっているため、本当に「包まれている」という表現が正しい。

 仰向けになった俺の視界には、焦茶色の年季のある天井と、そこから吊るされている明かり。


「手順としては、最初に場の空気を清潔にする必要がある。ここは常に余分な気を入れないようにしているから、クリアしておる」


 説明通り、館の中には澄んだ空気が漂っている。


「次に、お主を密閉空間に閉じ込め、瞑想状態に入ってもらう。密閉と言っても、本当に閉じ込めてしまえば呼吸が出来なくなるし、あくまで隔絶された空間だと認識できれば良いのじゃ」


 だから、このように藁をカーブさせているのか。

 普通にベッドで眠るよりも安心感があった。


「瞑想状態というのは?」

「すぐに入ることのできるものではない。わしが選んだ香を焚き、その煙が空間を満たすと、ゆっくりとお主は内面へと落ちていく。その間にわしが祈りを捧げることで、お主とお主の母親が出会えるようにするのじゃ」


 なるほど、と頷く。横になっていて満足に首を折ることはできないが、老婆は俺の納得を感じ取った。


「準備は良いな? それでは、目をつむり、ゆったりとした一定の間隔で鼻から呼吸をするのじゃ。この後、わしは話しかけん。次にお主が目を覚ますのは、母親と対話した後だろう」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」


 助言通り、ゆっくりと目を閉じる。

 口を緩く結び、鼻で呼吸する。

 最初は、先ほどまでと同じように汚れのない空気が流れ込んできていたが、老婆が別の言語で何かを唱え、小さなぼうっという音が聞こえると、徐々に匂いの色が変わった。

 緑の多い土地の、色鮮やかな花のような匂い。

 落ち着きの中に華やかさを秘めた香りが、緊張を孕んだ俺の精神をなだらかにしていく。

 老婆はそれから、再び言葉を紡いでいたが、その音が、遠ざかっていった。


 いつの間にか意識を失っていたようで、俺は瞑想を通り越して眠ってしまったのではないかと焦る。

 だから、再び精神統一を図ろうとしたところで、自分の足の裏に感触があることに気づいた。

 先ほどまで仰向けで寝ていた。それがいきなり、両足で身体を支えている。明らかにおかしい。

 部屋の中には俺と老婆しかいなかったし、彼女が俺を独力で立たせることは不可能だろう。

 おそらく、俺は精神世界に降り立つことに成功したのだ。

 とは言っても確信は持てず、しばらくの間は引き続き落ち着いて目を閉じていたのだが、遠くで何かが爆発したような音が聞こえてゆっくり目を開けた。

 自分の身体がどうなっているか、衣服を身につけているか、そんなことを考えるよりも前に、目の前の光景に驚愕する。


 俺の目の前には――俺が幼少期を過ごした村の景色が広がっていたのだ。

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