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再会

 静寂な街の夜に響いた叫び声。

 駆けつけたギョタールが目にしたのは、恐怖に塗れた顔で空を見上げる男と、青白く透き通った霊だった。

 自分に気が付いているのか、いないのか。どの程度の強さなのか。

 ギョタールが思考したわずかな時間。

 それが、反対に霊に存在を伝えることになる。


「……ん? あぁ、またあんたか。俺の人生ってのはどうにも、良いところで邪魔が入るらしい。別に、毎日毎日、些細なことにも邪魔が入るならいい。心構えができるからな。でも、どうやら本当に望んだことを、あと一歩で達成できるって時に限って上手くいかない」


 霊はほとんど人の形をしていた。

 その顔には鼻や口はなく、目元だけが微かにゆらめいていて、かなりの力を蓄えているのだと、ギョタールはそう理解する。


「俺の身体を見て、どれだけ生気を集めたのか考えてるんだろ? もちろん命までは奪っちゃいねぇよ。まぁ、それで見逃してくれるとは思ってねぇが……」


 頬をかくような、生者と見紛うような仕草に、自分が相対しているのは生者なのか死者なのか分からなくなりそうだった。


「再び生気を奪おうとしているようだが、今回は逃げられないぞ」


 背中にかけていた幅広の剣を片手に持ち、握りながら答える。

 

「なんだよ、随分急いでるみたいだな」

「あぁ。他に相手にしなければならない霊がいるからな」


 もしかすると、この霊こそが、直近の魔族型の霊の親玉かと勘繰ったが、どうにも違うように思える。

 そもそもエネルギーの質が別物で、直接的な被害が大きいのは前者だが、後者の方が禍々しい気を放っていた。


「他に相手にしなければ……って、大変みてえだな」


 どうやら、ギョタールの推測は当たっていたらしい。

 いま、カルティアでは2種類の霊が、各々別の目的で動いているのだ。

 頭の痛い話だ――ギョタールはため息をつく。

 いつ、また魔族型の霊が現れるかわからない。

 人々を守るのは自分の役目で、運命なのだ。

 目の前の霊の狙いはわからないが、ここで叩いておかねばならない。


「だから、お前に構っている暇はない。全力でいかせてもらうぞ」


 ギョタールは勢いよく地面を蹴り、体勢を整える前の霊に突っ込む。


「くそっ! 気が立ってやがる!」


 霊は両手で剣での一撃を防御しようとするが、すぐさま滑るようにその足元を抜けていったギョタールを見失う。

 まだ形を成していない霊であれば、視界は360度全てに確保されている。

 大気と一体化しているような、あやふやな存在だからだ。

 しかし、これが人型になると固定されていき、力や思考能力が上昇する代わりに、視界が狭まる。

 ギョタールはその特徴を利用し、霊の背後に回ることで攻撃が当たる可能性をあげた。

 素早く横なぎに振るわれた刃が霊の背中を捉える。


「――ぐあああ!」


 傷は浅いものだが、霊はのたうち回って苦しんでいる。


「この剣には霊の力を削ぎ落とす加護がかけられている。傷は浅いが……数割の力がなくなったのがわかるだろう」

「クソがッ! 俺がどれだけ頑張ったと思ってやがる!」


 霊の輪郭が先ほどまでよりもボヤけていて、放っていた威圧感も薄まっていた。


「……なぁ、処刑人さんよ。ちょっと待ってはもらえねぇか」


 常に荒い言動が目立った霊の、初めての懇願。


「待つ……とはどういうことだ?」


 その態度に面食らったギョタールは、ついつい聞き返してしまう。


「俺にもやりたことがあるんだよ。そのために、このおっさんが必要なんだ」


 そこにいる中年男性が必要。霊の言葉の意図をつかめないでいる。


「まぁ、今あんたにやられちまったから、また生気を集め直さなきゃならねぇが……それでも殺しはしねぇ。だから、見逃してはもらえねぇか?」

「愚問だな。街の人々に危害を加える以上、見逃すことはできない」

「そうだよなァ……」


 もちろん、そのまま見逃してもらえるとは霊も思っていなかった。

 処刑人とは悪霊を許さないものだし。人を守ることを義務付けられているからだ。

 逆に、懇願に対して質問が返ってきたことに驚いていた。

 向こうに対話の意思があり、理解を得られる可能性の提示に他ならない。

 そしてもう一つ――少しでも時間を稼ぐことができた。


「なぁ、気付いてたか? 俺の身体が少しずつ消えているって」

「――しまった!」


 ギョタールが急いで剣を振り下ろすが、もう遅い。

 少しずつ、自分の身体を霧散させていた霊は、影も形もなくなってしまう。


「……また、逃してしまったか」


 祓わねばならない相手との会話に意識を削がれて逃げられるなど、断罪者としてあるまじき行為。

 自らの未熟さに辟易しながらも、ギョタールは襲われていた男に手を差し出した。


「ありがとうございます。おかげで助かりました。なんでもあの霊は、私に取り憑こうとしていたようなのです」

「取り憑こうと?」


 生気を奪うわけではなかったのかと、疑問を抱く。


「えぇ。このまま意識を奪われていたら、どんな悪行をしでかす羽目になったものやら……本当にありがとうございます」

「え、えぇ……」


 通常、霊が人に乗り移るのは「そうしないと自分の存在を保っていられない」からだ。

 強力な霊が人に取り憑くことで、その人間の技能が使えるようになったり、身体能力の底上げがなされる。

 しかし、その場合は人間に与えられたダメージが例に霊にも100%伝わってしまうというデメリットがある。

 それならば、基本的に物理攻撃の効かない霊体のままでいる方がいい。

 それなのに、どうしてあの霊は男に取り憑こうとしていたのか?

 ギョタールは男に職業を尋ねる。


「あぁ、私ですか?」


 自分の意識がはっきりしているか、そういうテストだと思ったのだろうか。

 男は喉を一度鳴らすと、口を開く。


「私は医者をしております」

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