プロローグ
お待たせしました。
今回は短いですが、新章スタートです。
人の一生は短い。
星にとっては瞬きにも満たない時間。
誰がなにをしたところで、我々が根を張る地、そのものもを破壊することはできない。
環境が変化することはあれど、それは人類が群れを成して引き起こす事象であり、個人の力ではないのだ。
この世界にとっては、人生など灰が少しばかり積もるだけの時間。
特段、偉業を成すわけでもなく、少しずつ成長し、長い間停滞し、少しずつ老いていくだけの空虚な一生。
だが、人々はそんな己を慰めるように、人生に意味を持たせようとする。
それでは、私にとっては?
当事者たる自分には、どんな価値が生み出せるのだろう。
考えたが、答えは「無」だ。
私の人生に意味などなく、灰を払うほどの眩さもない。
……それでも、そんな生命でも、他の人間が手のひらから溢してしまったものではある。
自ら生命に終止符を打つわけではなく、罪によって終点を作られる存在。
しかし、それは彼らが存在してはいけない理由にはならない。
大抵の場合、罪人にも想ってくれる家族や友人がいて、その存在が消えてしまえば、嘆き悲しむからだ。
だからこそ、私は去ってしまった者の意思を継ぎ、喜び、怒り、哀しみ、笑わねばならない。
本当に?
この手に伝わるのは、私を否応なく「継がせる」ための刃物。
血の滲むような努力をして身につけたわけではなく、ただ、才能があってしまったから技術を振るうことになった。
そんな人生で、どうやって他人に憂う?
罪を定めるのは私ではない。私は罪人を裁くのではない。
真っ白な人間の最期を看取るのが私なのだ。
だが、どうしても、目の前の存在の笑顔を想像できない。
人生に感情移入できないし、残された人々の悲しみを再現できない。
私にこの仕事を務める資格はあるのだろうか。
考えるが、一度たりとも答えが肯定になったことはなかった。
分かっていながら、今日も感情を押し込んで刃物を振るう。
思考せず振るう。
答えが見つからず、同じように何者かに看取られる日まで。




