回復
俺を受け止めてくれた魔物、以前戦ったことのある八岐大蛇が、今は人々を救おうとしている。
8つの顔は変わらず鋭い眼光を放っていたが、その口からは、威嚇音ではなく男の声が発されていた。
「もしかしてハナオカさんですか!?」
「おぉ、ようやく気付いてくれたか……って、もしかして忘れられてたか!?」
「あ……はい……」
なにしろ、現在の時間軸に戻ってきてから急いでいたもので、ハナオカのことは脳内にあったが、ダンジョン攻略は後回しでもいいと思ってしまったのだ。
彼が箱を開けなければ再び時間が進むことはないが、俺たちが知らないだけで、他にも人間の精神に働きかける効果がある可能性がある。
そもそも箱を出現させないことが重要……な気がしていたのだが、どうやら彼は自力でダンジョンを脱出したようだ。
「聞いてくれよ、俺って本当に魔物だったんだなぁ! 目が覚めて驚いたよ」
「……その首ってどうやって動かしてるんですか?」
「それはお前、感覚だよ感覚! 河童が手伝ってくれてな、家族全員で俺の首によじ登って、動かす練習したんだよ」
「あっしも何か役に立てないかと思って、頑張りましたよ!」
関わった河童は一人だけだったが、彼は前々から家族がいると言っていた。
正直なところ半信半疑だったが、まさか二世帯分とは……。
「おい、あれを見てくれ!」
「まさか、妖怪か!?」
「現代にも存在してたとは……しかも河童だぞ!」
「俺のじいちゃんが河童と相撲したって言ってたっけか……」
大蛇の首に掴まる河童たちを見て、村人が興奮している。
やはり彼らはカグヤノムラでは知られているのだ。
敵意を抱いていないし、悪き存在だとは思われていないようだ。
「さぁみんな、河童の底力……見せる時がきたぞぉぉぉお!」
河童は尖った口の中から矢のように水を発射し、正確な射撃で破片を打ち砕いていく。
大きなものは大蛇が、小さなものは河童が破壊する。
特訓の結果なのか、意気のあったコンビネーション。
彼らの活躍を見ていると、だんだんと体力が回復しているのを感じた。
ゆっくりと身体を起こす。よし、腰はまだ大丈夫だな。
ハナオカが衝撃を吸収してくれたからだ。
「ハナオカさん、河童さん、ありがとうございます! 私もそろそろ復帰します!」
「大丈夫なのかぁ? 遠くから見てたけど、あんた、おっさんとは思えないほど頑張ってたじゃないか」
「そうですよ、もう少し休んでいた方が……」
首を横に振って答える。
「いえ、何が起こるかわかりませんから。行ってきます!」
大蛇の身体から飛び降り、地面に着地する。
「おお、ジオじゃないか。よくもまぁあれを破壊したものだ」
「思ったより破片が多かったみたいで、苦労させたね」
「大丈夫ですよお館様。ミヤたちも負けていられませんから」
手を忙しなく動かし、黒球や英傑に指示を出しながらも、二人が声をかけてくれた。
頼もしい助っ人のお陰で、このまま二人に任せていても村は救われそうだったが、一人でも手は多い方がよいはず。
「二人とも、魔力はまだ残ってる?」
「あと4割と言ったところだな」
「左に同じです」
「なら、少し魔力をもらってもいいかな。最後に掃除してくるよ」
二人が頷くのを確認して、それぞれの肩に手を置く。
植物の根が土の中から栄養を吸い上げるように、ルーエとミヤの魔力を拝借する。
カラカラに枯渇していた身体に魔力が染み渡る。
ルーエのものは、熱く燃え盛る炎のような、攻撃的な魔力だった。
反対に、ミヤのそれは、彼女の性格を表すように、氷のように冷たい……と思っていたが、前者と同じか、それ以上に猛々しい熱さ。
人は見かけによらないと言うことか?
なんにせよ、少しばかりだが、まだ動くことができる。