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Sランク魔法使い

 人々の声かけられるはどんどん大きくなっていき、俺たちも気になって外に出てみることにした。


「本物のキャス様だ!」

「こんなに美しいなんて……私、どうにかなっちゃいそう!」

「天は二物を与えるんだなぁ……」


 ギルドの建物内にいても歓声の内容が耳に届く。

 こんなに讃えられるなんて、さぞ偉大な人なんだろうな。

 外に出ると、あたりは人でいっぱいだった。

 先ほど、マルノーチに到着した時に更新した「一度に見た人の数」の項目を早くも更新してしまうほどの賑わい。

 ボスリーさんは、人の波で視界が遮られている中を縫って歩いていく。

 後に続くと、だんだんと有名人の全貌が明らかになっていった。

 どうやら女性のようだったが、人の間からだとよく見えない。


「これはこれは、誰かと思えばキャス殿ではないですか!」


 いち早く取り巻きから抜け出したボスリーさんの声が聞こえた。

 

「ボスリーさん、お久しぶりです」


 これはキャスと呼ばれた人物の声だろう。

 優しく、しなやかだが芯のある声だった。

 

「少し見ないうちにまた一段と磨きがかかりましたな。もちろん魔法、美貌共にです」

「相変わらず言葉がお上手ですね。でも、私には強さだけで十分です」

 

 流石はギルド長というところだろう。

 群衆が近づけず、綺麗な輪を作ることしかできないキャスという人物に対して、物怖じしないどころかフレンドリーに接している。


「それで、今回はどのような依頼でこの街に?」

「いや、今日は個人的な用事で来たんです。どうやら私が長年探していた人が見つかったようで、居ても立っても居られず……」


 あまり聞こえないが、どうやら盛り上がっているようだった。


「る、ルビンディのギルド長はキャス様と顔見知りなのか」

「あの人も昔は有名な冒険者だったらしいぞ」

「な、なぁ……あのキャスって人は何がそんなに凄いんだ?」

「お前、キャス様を知らないなんて相当な田舎者だな……。あの方はSランク冒険者で、この世界で三本の指に入る強力な魔術師なのさ」

「へぇ……魔法使いってことか……」

「魔術を自分の手足のように使う、まさに魔法使いさ。ボスリーさんも昔はAランクの冒険者だったし、強者にしかわからないものがあるんだろうな」


 感嘆したり疑問をぶつけたり、各々自由に会話をしている。

 ちなみに最後の質問は俺がしたものだ。

 キャスは魔法を極めた人物らしい。

 聞き込みをした結果、ギルドにはいくつかの階級があるらしい。

 DだかEランクだかが最低クラスの駆け出し冒険者で、そこからC、Bと上がっていき、Aランクにもなれば人間の最高峰。人々の憧れの的だそうだ。

 しかし、それをさらに超えた先、人間を超越したもののみがSランクに至れるらしい。

 昇格基準はよくわかっていないが、キャスが魔法を極めている、世界で三本の指に入る実力者だというのなら、不足はないのだろう。

 きっと、俺みたいな田舎者には理解できない高等魔術が使えるはずだ。

 街に来るにあたって、俺は自分にかかっている全ての魔法の効果を解くとともに、他人の魔力や闘気を「視ない」ようにしていた。

 たとえ自分が強かろうが弱かろうが、そんなのバレないに越したことはないし、殺気さえ感じ取れればそれで良い。

 歳をとってきたし、目を酷使するのは良くないしな。

 だが、世界最高峰の魔術師の魔力の色を見てみたい衝動に駆られてしまい、少しばかり感知の精度を上げてみた。


「ほう……?」


 人の隙間から微かに見える姿を捉えた。

 書物で読んだ「宝石」のような澄んだ緑色。

 ところどころ火花のように煌めいている。

 俺は自分の魔力の量を知らない。

 他人と比べられなかったし、比べる必要もないからだ。

 あまり魔力を消費しない魔術を好んでいたのもあるが、自分の生活、戦いに事足りる量であれば問題ない。

 だから彼女の魔力量が最高峰なのかは測りようがなかったが、少なくとも自分の身体に流れている汚らしい灰色の魔力と比べて、遥かに洗練されているように感じた。


「…………ん?」


 ふっと目を休めた瞬間、何らかの力が働いたかのように、突然目の前の人混みが割れた。

 遮るものはないのに関わらず、唯一動いていなかった俺とキャスだけが、世界に取り残されたかのように感じられた。

 振り向いた彼女が俺を視界に入れた。

 そして、そのまま一歩一歩、ゆっくりと向かってくる。


「も、もしかして……バレたか?」


 一流の魔術師は「誰が何処で何をしているか」というのが少ない情報から読み取れるらしい。

 つまり、自分が「視られた」ことに気付いたのだ。

 田舎暮らしゆえに知らなかっただけで、俺が彼女の魔力を視たのは無礼だったのかも。

 もしかして、他人の魔力を視るのは下着を見るようなものだったのか?

 思考が混乱する中、キャスは腰まで届く長い黒髪を揺らし、鋭い目をさらに厳しくさせながら歩みを止めない。

 やばいやばい、めちゃくちゃ怒ってるよこれ。口なんてきゅっと結ばれている。

 見た目と中身は似るっていうし、綺麗だけどきっと厳格な人なのだ。

 よし、彼女が目の前に来たら謝ろう。

 めちゃくちゃ強いみたいだし、そういう人間はきっと精神的に余裕がある。

 誠心誠意謝れば寛大な心で許してくれるはずだ。

 身構えている間にも二人の距離は縮まっていき、目と鼻の先に彼女がいた。


「………………」

 

 ……近くない?

 どうして黙り込んでいるの?

 いや、これはきっと「早く謝れば許してやる」と暗に言ってくれているのだ。

 お前から言葉を発しろという合図だ。

 ならばお言葉に甘えて、村で培った全力の謝罪を披露してみせよう。


「あの、この度は本当に申し訳ござ――」

「――ジオ!」


 キャスの身体が俺に重なる。

 

 ――あ、死んだわ。

 

 俺を許すつもりはなく、容赦なく殺そうとしていると今さら気付く。

 感知を切っていたことが自分の首を絞めたと、それとも殺気のない一撃でも俺を殺せるのかと、一瞬のうちに後悔が脳内を駆け巡る。


「…………?」


 だが、いくら待てども痛みや意識が遠のく感覚はなく、ただ身体が優しく締め付けられていた。


「ずっと……ずっと会いたかった……!」

「…………人違いじゃないですか?」


 多分、他の人より「関わり」というのが少ない人生を送ってきた。

 だから、一度でも会ったことのある人の顔は忘れていない自信がある。

 ……けれども、俺の胸に顔を埋め、なんならちょっと匂いも嗅いでいるこの女性の記憶はなかった。

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