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回想2

 翌日。

 月に一度の祭りである「月神祭」は3日後ということで、しばし時間がある。

 誰かに呼ばれてカグヤノムラに訪れたわけでもないので、今日は観光でもしようかと思ったのだが、ルーエはミヤに借りたらしい本に熱中していて外に出たくないと言われてしまった。

 ということで、何故か昨日から部屋に潜り込んでいるミヤに案内してもらうことにする。


「こうして二人で歩くのはいつ以来でしょうか」


 一晩明けても変わりないどころか、さらに深みを増しているような村の風景を眺めながら歩いていると、ゆったりとした声が耳に入った。

 あまり感情の起伏が感じられないミヤだが、俺たちと過ごした山での日々を懐かしんでくれているのだろうか。


「一番印象に残ってるのはあの日だな。ほら、人型のキノコの……」

「もちろん覚えています。あの日、ミヤはお館様の寛大なお心を理解したのですから」

「……え、そんな話だったっけ?」


 記憶の中ではなんでもない一日だったのだが、忘れている部分があるのかもしれない。

 年々弱まりつつある記憶を引き上げる網を、どうにかして持ち上げる。

 確か……あまりミヤに構ってやれない日があったんだ。

 それで、機嫌を悪くした彼女が家を飛び出して――。


 ・


「もういいです。お館様はミヤより他の女をとるんですね」

「いやいや、他の女って、俺にとってはみんな我が子みたいなもので――」


 珍しく、ほんの少しだけ語気を強めるミヤを宥めようとしたジオだったが、その怒りは治まりそうにない。

 むしろ、「我が子」という言葉が琴線に触れたようだった。


「まだ私が一人の女だとお認めになってくれないんですね。でしたらいいです。今からそれを認めさせてみますから」


 引き止めようと反射的に手を伸ばすも、猫のようにするりと避けて家を出て行ってしまった。

 年頃の子が機嫌を損ねた場合、そのまま放っておくのが良いのか、はたまた追いかけるのがいいのか。

 数分ほど考え込んだジオだったが、意を決して、あまり早く追いつかない程度に追いかけることにした。


 ・


「まったく、お館様はたまに意地悪です……」


 どこからか取り出した札を、自分の足取りを誤魔化す効力のあるそれを地面に撒きながら、ミヤは山の奥へ進んで行った。

 ジオと共に暮らすようになってから五年は経過していて、既に家事のスキルや手際は彼以上となっていたが、それでも自分を異性として認めてくれない。

 もちろん、ジオが子供たちに邪な感情を一切持っていないことも、あくまで自分と同じような境遇にならないように育ててくれていることも理解している。

 しかし、自分にとっては命の恩人であり、最も頼りになる存在。

 山よりも高く、海よりも深い尊敬が愛に変わるのは当然だった。

 だからこそ、ミヤは自分の価値を示そうとしていた。

 髪の色など、容姿こそ他の子供達と違うものの整った顔立ち。

 生活力もずば抜けている。

 では、後は何を証明すればいい?

 そんな時、彼女が思いついたのが「強さ」だった。

 絶対的な強さ。

 いくら顔が美しくても、それは圧倒的な力の前では意味をなさない。

 いくら手際が良くても、それは暴力的な世界では淘汰されてしまう。

 全てを統べるのは強さなのだ。

 そして、美しさや知能は強さの付属品である。

 敗北しない人間が、さらに自らに箔をつけるために示すものが美貌や知性だった。

 真実はどうであれ、怒りでそのような思考に至ったミヤは、あとは強さを証明すればジオが自分に振り向いてくれるのではないかと思い、獲物を探していた。

 追跡を妨害する札の効力は、障害物の多い山中では絶大な効果を発揮するが、それでもジオには数分で見破られてしまうだろう。

 だから、その前に強そうな魔物を倒して、その様を見せつける。

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