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006・未来のために

「いってきま~す」


 その日、僕ら7人は、いつものように孤児院を出発した。


 院長先生も「いってらっしゃい、気をつけてね」と微笑みながら、木の実を集めに森に向かう僕らを見送ってくれる。


 ドキドキ


 嘘をついている自分に、ちょっと緊張する。


 いつもの『木の実集め』だと院長先生は思っているけど、実は違った。


 院長先生には内緒だけど、今日の僕らは、森の深い所まで行って『ホーンラビットをやっつける』つもりなんだ。


 魔物の素材は、高く売れる。


 3ヶ月前に手に入れた『ホーンラビットの角』も、とっても高く行商人に売れたんだ。


 木の実を売ったりするのとは、桁が違う。


 でも、それは、それだけ危険だから。


 だからか、一緒に歩くアイネたちも、ちょっと緊張した顔だった。


「…………」


 僕は、自分の右手を見る。


 キシッ


 この『白い木の右腕』だけが頼り。


(うん)


 枝の5本指を握り締める。


 ふと見上げた空は、いつものように青くて、広くて、でも、今の僕には何だかいつもとどこか違って見えたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 森の中を歩いていく。


 いつもは楽しくお喋りしながら歩くのに、今日は、みんな無口だった。


「……怖いよね」


 ふとアイネが言った。


 みんなが彼女を見る。


「私も怖いよ。でも、これからの将来を考えたら、ここでがんばらないといけないって思ってるの」


 将来……?


 歩くアイネの背中で、長い赤毛の髪が揺れている。


 彼女は前を見ながら、


「私、冒険者になりたいの」


 と言った。


(そうなの?)


 僕らはびっくりした。


「私はもう11歳だから。いつまでも孤児院にはいられないでしょ? でも、孤児ができる仕事なんて限られてる。大変な未来しか見えてこないの」

「…………」

「…………」

「…………」


 みんな、黙り込んでしまった。


 今の生活は、凄く幸せ。


 でも、それは時間制限付きで、いつかはみんな孤児院から巣立っていかなきゃいけないんだ。


 ……わかってても、あまり真剣に考えてなかった。


 でも、アイネは考えてたみたい。


「だから、私は冒険者になりたい。冒険者なら、がんばったら、私だって他の人に負けないぐらいの生活ができるようになると思うから」


 そう言ったアイネの瞳には、強い光があった。


 思わず、その輝きに吸い込まれる。


「でも、そのためにはお金がいるの。装備とか道具とか買わないといけないし、それ以外にもきっと必要」

「…………」

「それは、みんなも同じ」


 アイネが僕たちを振り返った。


 赤毛の髪が踊る。


「孤児院を出たあと、みんながどんな仕事をしたいかはわからないけど、その時にも、きっとまとまったお金が必要になるわ。少なくとも当面の生活費はいるもの」

「…………」

「…………」

「…………」


 確かにそうかもしれない。


 でも、孤児院には、そんな蓄えなんてない。


 今だって、木の実を集めて、なんとか日々の食事を用意しているような感じなんだ。


(そっか)


 アイネの言葉の意味が沁み込んでくる。


 他のみんなも、僕と同じ顔だった。


 アイネは、そんな僕らを見つめて、


「だから、みんなの未来のために、怖くてもがんばろうよ!」


 と言った。


(うん)


 僕らは頷いた。


 自分たちの未来のために。


 そう思いを込めて、僕らは、森の奥へと向かって歩いていったんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 いつも来ないほど、森の深い場所まで入ってきた。


(…………)


 なんだろう?


 いつもの森と風景は変わらないのに、どこか暗いような、空気の重いような感じがする。


 みんなも硬い顔だ。


 ここには、魔物が生息している。


 魔物と野生動物との一番の違いは、人間に気づいた時の反応なんだって。


 野生動物は逃げる。


 でも、魔物は襲ってくる。


 魔物は邪悪な生き物だから、神様に愛される人間は嫌いなんだって、昔、お父さんが言っていた。


 そして、


(魔物はとっても強い)


 だから、出会わないようにしないといけないんだよって教えられたんだ。


「こ、この辺にしましょ」


 アイネが言って、僕らは立ち止まった。


 僕らに気づいたら、きっと魔物の方から寄ってきてくれるはずだから、もしもの時にすぐ逃げられるように、あまり深く入り過ぎないようにしようってなったんだ。


 ドキドキ


 僕らは地面に座り、周囲を見回しながら待った。


 風に揺れる木々の葉の音。


 鳥の鳴き声。


 草木の中を移動する、小さな動物の気配。


 静かな森の中だけど、たくさんの音や気配に満ちている。


「…………」


 ホーンラビット、出てくるかな?


 ふと見たら、アイネは解体用に持ってきた小さなナイフを、胸の前でギュッと握り締めている。


 不安なのか、隣と手を繋いでいる子もいた。


 …………。


 そうして、30分ぐらい待った。


 体感的には、3時間ぐらいに感じられたけど、その時、


『ピギッ』


 聞き覚えのある小さな鳴き声が聞こえたんだ。


(!)


 みんな、ハッとした。


 僕も慌てて立ち上がる。


 みんなで1つに集まって、そんなみんなを守るように僕は前に出た。


 声の聞こえた方を見つめる。


 すると、


 ガサッ ガサガサッ


 目の前の草木を散らして、額から角を生やしたホーンラビットが、なんと3体も姿を現したんだ。


『ピギッ』

『ピギギッ』

『ギャウッ』


 威嚇の声に、敵意のこもった真っ赤な目。


 その迫力に、みんな息を呑む。


「ユ、ユアン」

「大丈夫」


 アイネの震える声に、僕は短く答えた。


 それから『白い木の右腕』を持ち上げて、その手のひらからメキメキと『白い小剣』を生やしたんだ。


 ギュッ


 それを握って、ホーンラビットたちに向ける。


 いっぱい練習したんだ。


 きっと大丈夫。


 自分に言い聞かせて、深呼吸。


(さぁ、本番だ!)


 ホーンラビットをやっつけようと、僕は1歩前へと踏み出した。

ご覧いただき、ありがとうございました。


本日、もう1話投稿予定です。もしよかったら、また読みに来てやって下さいね~!

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