005・使い方
「まぁまぁ、こんなにたくさん集めたの?」
いっぱいのモモルネの実を見て、院長先生は驚いていた。
(えへへ)
僕とアイネたち7人は、笑い合う。
それから僕の『白い木の右腕』を使って、これだけ集められたことを院長先生にも教えてあげる。
メキメキ
目の前で、白い枝の腕を伸ばしてみせると、
「まぁ……」
院長先生は目を丸くした。
それから、がんばって集めたことを誉められて、でも、その方法については絶対に内緒にしておくようにって言われた。
「は~い」
僕らは頷いた。
それから集めたモモルネの実は、自分たちで食べるだけじゃなく、お世話になっている村の人たちにも配ることになって、それ以外の余りは、行商人に売ることになった。
孤児院のある教会は、村の人の寄付やお裾分けをもらったりしてるから、こういう時にはお返しをするんだって。
(村の人も喜んでくれるかな?)
それからは、みんなで夜のご飯の準備をした。
院長先生は、
「ユアンたちががんばってくれたから、しばらくは食べ物に困らないわね」
って、笑ってた。
僕らも笑って、そのあと楽しく食事をしたんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
メキメキ
教会の掃除の時、僕の『白い木の右腕』を伸ばすことで、高い所の窓も簡単に拭けるようになった。
「いいなぁ、ユアン」
アイネに羨ましがられてしまった。
(あはは)
他にも、遠い所の物を座ったまま取れるようになって、でも、それを見た院長先生には「楽ばかりしないように」と叱られちゃったので、それはもうしないことにした。
あと、畑仕事も楽になった。
教会の裏には、小さな畑があるんだけど、
「えい」
ザクッ
僕の『白い木の右腕』は力持ちなので、鍬で土を耕すのがすっごく簡単になったんだ。
硬い草の根も、1回で切れちゃう。
通りがかった村の人に、
「ユアンは見た目より、ずっと力があるんだなぁ」
って、驚かれちゃった。
でも、重い物とかは持ちあげられないんだ。
実は、1度、大きな水瓶を持ち上げようとしたんだけど、逆に自分の身体が持ち上がっちゃったんだよね。
あれにはびっくりした。
見ていたアイネたちも慌てていたっけ。
結局、力が強いのは右腕だけなんだ。
(使い方には、注意しないと)
そう気づかされたんだ。
そんな教会での日々の一方で、僕らは、森の中での新しい練習も続けていた。
「ユアン、いい?」
「うん」
アイネの確認に、僕は頷いた。
アイネたち6人の手には、小さな石や小枝などがあって、僕の白い右手には『白い小剣』が握られていた。
ポイッ
アイネが下手投げで、小石を放ってくる。
「んっ」
僕は、その小さな的に向かって『白い小剣』を振るった。
パンッ
命中して、小石は粉々だ。
アイネは頷いて、
「どんどんいくよ~!」
そう言って、他の6人と一緒に、僕へと小石や小枝を投げてくる。
こっちに来る11個の的。
僕はそれを見つめて、
「えい!」
パン パパン
その内の7個を叩き落して、でも、4個が僕の身体に命中してしまった。
あらら……。
アイネは「う~ん」と唸る。
「これぐらい全部に命中させられないと、ホーンラビットにも当てられないよね……」
と呟く。
他のみんなも「う~ん」って思案顔だ。
そう、これはホーンラビットをやっつけるための練習なんだ。
3ヶ月前みたいに、ホーンラビットをやっつけることができれば、魔物の素材を売ってお金を稼ぐことができるんだ。
そのための練習なんだけど、
「ごめん」
僕は謝った。
がんばってるんだけど、中々、剣を振るのが上手にならないんだ。
誰も剣術なんて知らない。
だから、自分たちになりに工夫してやってるんだけど、結果はご覧の通りだった……。
ポン
落ち込む僕の肩を、アイネが叩く。
彼女は笑って、
「焦らないでがんばろう? ユアンは、少しずつ上手になってるもの。きっと大丈夫よ」
「うん」
その励ましに、僕も頷いた。
それから、またみんなで小石や小枝を集めていく。
その時、
「んわっ、蜂の巣だ!?」
草むらに入った1人が悲鳴をあげた。
(えっ?)
見れば、すぐそばの木に大きな蜂の巣があって、気づかずに近づいてしまったためか、物凄い数の蜂が飛び出してきていたんだ。
「うわ、うわわ!?」
「に、逃げろ~!」
みんな叫んで走り出す。
た、大変だ。
僕も走ったけど、蜂の方が速くて、すぐ追いつかれそうだった。
みんな、泣きそうな顔だった。
…………。
僕は足を止める。
「ユアン!?」
「先に行って!」
驚くアイネに、僕は叫んだ。
そして、空から近づいてくる何十匹もの蜂たちに向けて『白い小剣』を向けた。
(この剣なら……)
でも、蜂たちを叩こうと思ったけど、その動きが素早すぎて狙いが定まらない。
僕は唇を噛む。
それでも、
(みんなを守らなきゃ!)
そんな思いだけが溢れた、その時だった。
ミシッ
僕の『白い木の右腕』がかすかに軋むと、勝手に動いた。
ヒュッ パン
蜂の1匹が吹き飛んだ。
(え?)
驚いている間にも、僕の『白い木の右腕』は手首を返して、すぐに別の蜂を叩き落す。
ヒュッ パン
ヒュッ パン
蜂たちが地面に落ちていく。
淡い光を放つ『白い小剣』は、その輝きの白い残像を残しながら、物凄い早さで振るわれていく。
パパン パパパン
弾ける音が響いていく。
ぶつかった瞬間の白い光だけが散っていく。
「…………」
呆然としている間に、空には蜂たちが1匹もいなくなっていて、全てが地面に落ちていた。
僕の後ろで、アイネたちもポカンとしている。
……僕じゃなかった。
僕は心の中で思っただけで、あとは『白い木の右腕』が勝手に動いて、全部やってくれたんだ。
(……あ……そっか)
僕は気づく。
この右腕は、こういう使い方をするんだって。
思えば、3ヶ月前もそうだった。
(これなら……これなら、ホーンラビットだってやっつけられるよね)
そう確信する。
そんな僕に、
「ユアン~!」
「お前、すげ~よ!」
「わ~ん!」
アイネやみんなが泣き笑いで、一斉に抱きついてきた。
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