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004・秘めた可能性

「よっ、ほっ、とっ」


 ポン ポン ポン


 僕の左手と白い右手を移動して、3つのお手玉が空中を回っていく。


 綺麗な放物線。


 20秒経っても、30秒経っても、その流れは途切れない。


(うん、いいぞ)


 この3ヶ月間で、僕の『白い木の右腕』は自由自在に動くようになった。


 まるで半年前と同じ。


 ……ううん、もしかしたらそれ以上に、僕の思った通りに動くんだ。


 最後は両手じゃなくて、3つのお手玉を右手だけでし続けてみた。


 ポン ポン ポン


 うん、少しの乱れもない動き。


 最後に大きく空中に放り投げて、


 キシシン


 5本の白い枝の指が3つのお手玉をまとめてキャッチする。


「…………」


 よし、大成功だ。


 すると、それを見ていてくれたアイネやみんなが一斉にパチパチパチ……と拍手してくれた。


「やったわね、ユアン!」

「凄い凄い」

「もう完璧だなぁ」


 そう褒めてくれる。


 えへへ、嬉しいな。


 でも、こうやって動くようになったのも、みんなが応援してくれて、ずっと見守ってくれてたおかげだよ。


 そうしてみんなで喜んでいると、離れて見ていた院長先生もやって来て、


「がんばりましたね、ユアン」


 と、頭を撫でてくれた。


 あ……。


「はいっ」


 僕は嬉しくなって、大きな声で答えたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 翌日、僕ら7人は、いつものように木の実を集めに森へとやって来た。


 3ヶ月前は、ホーンラビットに出会ってしまったけど、あれからは1度も魔物と遭遇することはなかった。


 もちろん、今日もいなくて、


「よし、これで終わり」


 僕らは無事に、たくさんの木の実を集めることができた。


 で、いつもなら村に帰るんだけど、今日は、ちょっとだけ別の予定もあって、もう少し森に残ることにしたんだ。


 みんな集まって、


「誰もいないよね?」

「大丈夫」

「こんな森の中だもん」


 と確認し合った。


 そして、アイネが僕を見て、


「じゃあ、ユアン。今日からまた新しい練習だね? 3ヶ月前と同じようにできるか、やってみよ」

「うん」


 僕は頷いた。


 キシッ


 みんなが見守る中、僕は『白い木の右腕』を持ち上げる。


 白い手のひらは、上向きだ。


 3ヶ月前のことを思い出しながら、そこに意識を集中していく。


 ……僕がやろうとしてるのは、3ヶ月前にホーンラビットをやっつけた『白い小剣』を生やすことだった。


 目を細め、一心に念じる。


「んん……っ」


 声が漏れる。


 メキッ


 すると、白い手のひらを作っている枝の一部が淡く光って、ちょっとだけ盛り上がった。


(……あ)


 剣先だ。


 丸っぽい剣先が、ニョキッと頭を出していた。


「いいよ、ユアン!」


 アイネたちが声援を送ってくれる。


 僕は頷き、


「んんん~っ!」


 顔を真っ赤にしながら、生えろ、生えろ……と心の中で唱え続けたんだ。


 メキッ メキメキッ


 白い手のひらから、真っ白な刀身が伸びていく。


 ミシミシ メキンッ


 そして、ついに柄の部分まで生えてきて、僕の右手の中に『白い小剣』が握られたんだ。


 ぷはっ。


 知らずに息を止めていたみたい。


 慌てて、息を吸う。


「やったわ!」

「すげ~」

「おめでとう、ユアン!」


 アイネたちは「わ~い」と喜んで、みんな、お互いの手を打ち合わせていた。


(やったぁ)


 僕も嬉しいよ。


 改めて見れば、僕の白い右手には、長さ70セルチぐらいの『白い小剣』があった。


 柄のお尻から細いが伸びていて、僕の手のひらと繋がっている。


(ふ~ん?)


 見た目は、何て言うか素朴な木剣だ。


 特別感は、何もない。


 僕は呼吸を整えると、それを持って近くの木へと近づいた。


「…………」


 みんなが見ている。


 その前で、僕は『白い小剣』を大きく振り被って、


「えいっ!」


 ブン バキィイン


 小剣のぶつかった太さ20セルチぐらいの木は、その部分が弾けるように飛び散って、真っ二つに折れてしまった。


 折れた木は、ズズンと地面に倒れる。


(……うわぁ)


 自分がやったことだけど、結果にびっくり。


 アイネたちも目が丸くなっている。


 すっごい威力だったけど、『白い小剣』には傷1つない。 


 頑丈だ。


 それから、もう1つわかったのは、僕の『白い木の右腕』がとんでもない力持ちだってこと。


 こんな威力、大人だって無理だと思う。


 動きも、まるで白い残像みたいだった。


「…………」


 思わず、自分の右腕を凝視しちゃったよ。


 そして、みんなは「すっげー!」とか「かっこいい!」とか大興奮してた。


 アイネも頷いて、


「これなら、またホーンラビットをやっつけて、いっぱい角を集めることもできるわね!」


 って、笑ってた。


(うん、そうだね)


 僕も笑った。


 でも、ちょっと自信がないから、もっと練習をがんばろうと思った。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 生えてきた『白い小剣』は、根で右手と繋がっているから、僕しか使えなかった。


 1回、根を千切って、アイネに渡そうとしたんだけど、切った途端に『白い小剣』は干からびて、白い砂みたいに粉々に砕けてしまったんだ。


 ちなみに、また生やすことはできた。


 だけど『白い小剣』を1回生やすだけで、とっても疲れるんだ。


(……きっと3回以上は、無理かなぁ)


 そう思った。


 もしかしたら、練習したらもっとたくさん生やせるかもだけど、少なくとも今は無理かなって感じたんだよね。


 そんな訳で、今回はこれで帰宅。


 村に向かって、また7人で森を歩いていく。


 その途中、


「あ」


 アイネが声をあげた。


 ん?


「どうしたの?」

「あそこに、モモルネの実があるの」


 そう言って、上を指差す。


 みんなで見上げた。


 本当だ。


 アイネの教えてくれた先、7~8メーガンほどの高さの木の枝に、たくさんの桃色の木の実がなっていたんだ。


 モモルネの実。


 甘くて、柔らかくて、いい香りがする木の実なんだ。


 みんな大好物。


 院長先生や村の人も大好きだし、結構、高く売れたりする。


 でも、


「この木は、ちょっと登れないね」


 幹の表面はツルツルしてるし、低い位置に枝もない。


 もちろん、ジャンプしても届かない。


 木が太いから、揺すっても落ちてきそうもなかった。


 石を投げても、当てられる自信もない。


(う~ん)


 みんなで考えたけど、いい方法は見つからなくて、アイネも残念そうな顔をしていた。


 その時、僕はふと思った。


 自分の白い右手を見る。


(もしかしたら、この右腕なら……?)


 駄目で元々だ。


 そう思った僕は、ずっと遠くにあるモモルネの実へと白い右手を向けた。


「ユアン?」


 アイネたちが不思議そうに僕を見る。


 僕は目を閉じ、


「んん……っ」


 一生懸命に念じた。


 すると、


 メキッ


 僕の『白い木の右腕』を作っている白い枝たちが軋み、淡い光を放ちながら、メキメキと長さを伸ばしていったんだ。


 もっと、もっとだ。


 メキメキッ


 白い枝の腕は、どんどんと伸びて、白い手のひらがモモルネの実に届いた。


 丁寧に掴んで、桃色の実をプチッと外す。  


「やったわ!」

「おぉ!」

「いいぞ、ユアン!」


 アイネたちが歓声をあげた。


 僕はホッとしながら、そこからモモルネの実を落として、左手でキャッチする。


 うん、これで1つゲット!


 それから僕らは、同じ方法で見えているだけのモモルネの実を全部、集めることに成功したんだ。


 メキメキ……ッ


 終わったら、『白い木の右腕』は元の長さに戻った。


(ん)


 指を開いたり閉じたりしたけど、問題なし。 


 アイネたちは、


「お、重いよ~」


 って、たくさんのモモルネの実も加わった籠に、嬉しそうな悲鳴をあげていた。


 でも、みんな笑顔。


 だから、僕も笑った。


 ギュッ


 僕は自分の白い手を見つめ、その5本の枝の指を握り締める。


(うん)


 きっとこの『白い木の右腕』には、まだまだ、いっぱいの可能性が秘められているのかもしれない。


 そう思ったら、何だか楽しくなってきた。


 それから僕ら7人は、重い籠を背負いながら、笑顔で村へと帰っていったんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。


本日、もう1話更新予定です。もしよかったら、また読みに来て頂けましたら幸いです~!

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こちら、作者の書籍化作品です。

書籍1巻
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書籍2巻
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もしよかったら、こちらも、どうかよろしくお願いしますね♪
― 新着の感想 ―
[良い点] 今のところは、安心して読んでいられる出だし。 私と違って変な展開にはならなさそう。(笑) [気になる点] 今のところは、マール程の長編にはならない予定かな? マールの出だしは、もっとじっく…
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