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長州の桜  作者: 松田定信
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第一話

長州の桜

それは一面が凍るような冬景色であった。

まるで別の国のようで少年は酷く凍てついたのを覚えている。

「長州で雪だ!

雪が降ってる!」

凍てつく手と足。

だが、少年は一向に走り、動いて回るのを止めようとしない。

一面が銀世界。

酷く寒気や何やらに体を蝕まれて。

だが、少年は只管に踠き踠き生を実感する苦を堪能する。

「生きている心地がする。」

少年は少しばかりはにかむ。

はにかんで笑う。

とても優しく。

その時間がいつまでも続けばいいのに、と思うほどに。

その心とは別に。

色々なものが交錯して。

絡みつく。

何かが。

何かが。

学友から耳にした話だと、江戸の城下町には将軍様がいて人をいくらでも動かして好きなだけお金もあって美味しい河豚も食べれて男が欲しいものを全部持っているのだって。

御伽噺だろ?

って思う。

だって父が必死に働いて勉強して官僚になって、伊藤の家に入ったのに。

全然、収入も無ければ食べ物もない。

好きなものだって買えない。

父が頑張って稼いだ米をあいつらは無情に取る。

頑張って必死に稼いだ米をいつもあいつらは無情にも取るのだ。

名主様も優しい。

少しばかり分けてくれたり。

優しさがそこにはあった。

「うるさい!黙れクソガキ。」

江戸から来られた武士らしい。

何か必死に何かを探していた。

「お許しください。

侍様。」

名主は泣き叫んだ。

だって無情な刀が名主の子供たちを切り刻んでいたから。

江戸の人ってこんなに情けも優しさもないの、と言わんばかりに

「何で、人のものを取るんだい!」

博文は武士の脇差に掴み掛かった。

「うるさい、クソガキ。

これを見ろ。」

幕府の家紋。

この全国を治める、徳川氏の家紋。

「これが目に入ったらとっとと失せろ。」

一人一人無惨に切り刻んでいく。

一人一人。

「見つかったか?」

指揮官らしき人が入ってくる。

「毛利様が許す、と思うな。」

「は?何言ってんだクソガキ。

毛利様が負けたから。

無惨に負けたから将軍様の御治世なんだよ。」

それでも拳を握りしめて。

「おいら、悔しいよ。」

ただ、ひたすらにその時は悔しかった。

だって全員殺される。

武士を見た、って理由だけで。

「どんな権利があってそんなことが許されるんだ!

だって米だって納めたし。

全員従っていたのに。」

武士は何かを思い出しながら凍てつくような声でこう言った。

「お前、何も分かってないな。

誰のおかげで米が食えると思ってるんだよ。

将軍様のおかげだろ。

初代様が全国を平定したおかげだ。

本当ならお前みたいなクソガキ、とっくに死んでるんだよ。」

武士は偉そうにそれでも何か慎重に。

「毛利だってそうさ。

戦いで、俺らみたいな殺生で地位を得てきた。」

「お前は戦国時代の恐ろしさを知らないだろ?

初代様のおかげなんだ。

誰が豊臣めを仕留めて全国を平定したと思ってるんだよ。

言ってみろ。クソガキ。」

豊臣?

あの秀吉公のことか?

そう言って彼は驚く。

(秀吉公なんて僕には及びもつかない。

でも、それでも。)

何かが腹の中で嗤ったような気がした。


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