第一章 プロローグ
(はぁ…。疲れた~。)
金曜の会社帰りはいつも、どっと疲れが押し寄せる。
疲労感で朦朧とした私の頭は、家に帰って眠ることしか考えられなくなっていた。
パンプスで痛む足を無理矢理動かす様は、傍から見たらゾンビのようにも見えるだろう。
駅から出て、重い足取りを進めていると、目の前に自分の住んでいるマンションが見えてきた。
(もう少しで家に帰れる。今更だけど本当に駅近にしてよかった。)
そんなことを考えながら歩いていると、私は、いつの間にかマンションの入り口付近まで着いていた。
”やっと着いた”というような距離では無いのだけれど、ここまで来ると何時も、少し気が抜けるような感覚になる。
そして、入り口まで入ったら、いつものようにエントランスで郵便物を回収して、カードキーでオートロック式の硝子扉を開ける。
私の部屋は2階なので、エレベーターで2階まで向かう。
廊下を歩いてやっと部屋の前までたどり着いた。
私は、部屋の鍵を開け、履き心地の悪いパンプスを脱いで、タイツは洗い場へ、スーツはクローゼットに入れ、メイクを落として寝室へ向かった。
ベッドに向かう途中、”ゴスッ”っと重いものが足に当たった感触があり、足元に目を向ける。
電気をつけてない薄暗い部屋なのと、仕事帰りの眼精疲労蓄積中の眼も相まって、黒い塊が在る事くらいしか分からなかった。
何か大きな物でも置いていってしまったのだろうか。
そういえば、朝に、急な出張に備え、泊まり用の物を少量詰めていたボストンバックを少し動かしたような気もする。
(邪魔だなー。でも避けるのも面倒くさいし、明日は休みだし、明日元の場所に戻せばいいか。)
足元にある物を跨いで、疲れた体をベッドに滑り込ませる。横になり、背伸びをすると体の至るところが”ボキボキ”と嫌な音を立てる。
「はぁ。」
小さくため息をつき、私は、そのまま溶けるように眠りについた。