おばあちゃんへのおくりもの
おばあちゃんへのおくりもの
「ごはんですよ」
かあちゃんによばれて、夕ごはんのテーブルについたポッペとコッペ。まん丸い目がさらにまん丸になりました。
テーブルの上には、ところせましとたくさんのお皿がならんでいたからです。
「うわあ、かあちゃん、きょうはなんの日?」
コッペがたずねると、
「きょうは、初物の日」
湯気のたつお吸い物をはこびながら、かあちゃんがほほえみました。
「今年初めてのマツタケよ。その年にできた最初のものを食べると、七十五日長生きできるんだって」
そういうことで、今晩だけはどのお皿もマツタケづくし。
天ぷら、むしもの、にもの、マツタケごはんにお吸い物。ふだんは、なかなか食べられないごちそうばかりです。
ポッペが、かあちゃんにたずねました。
「ねえ、かあちゃん、マツタケひときれで七十五日長生きできるの?」
「そうみたいね」
「だったら、マツタケ三きれで七十五が三回。十きれで、七十五日が十回。うわあ、かぞえきれないよ」
かあちゃんは、フフッと笑って言いました。
「さあ、ふたりとも冷めないうちにめしあがれ。残さないで食べてね」
かあちゃんが、ちょっと外に出てくると席をはずしたすきに、ポッペはコッペになにやら耳打ちをしました。
「よし。きまり」
「うん!」
ごはんのあと、ポッペもコッペもいつになく、てきぱきと、よごれたお皿をかたづけました。
「ちょっとおばあちゃんちにいってくるね」
「おばあちゃんのお食事のじゃまにならないようにね」
「だいじょうぶ、だいじょうぶ」
かあちゃんに見つからないよう、お皿をかくしながら外に出ると、ふたりはいちもくさんに走り出しました。
おばあちゃんの家は、ポッペたちの家から歩いて五分くらいのところにあります。
「おばあちゃ~ん、いる?」
ちょうど、テーブルに置かれたふろしきづつみをあけようとしていたおばあちゃんは、ふたりの呼び声に、いそいそと玄関へ。
「あら? いらっしゃい」
おばあちゃんがドアをあけたとたん、
「はい、おばあちゃん、初物だよ」
「長生きしてね。おばあちゃん」
くろい、小さな手にしっかりとにぎられたお皿が、目の前に差し出されました。
おたがいに分け合ったのでしょう。
どのおかずの中にも、マツタケがきっちり二切れずつ入っています。
「まあ。ありがとうね。ポッペもコッペも」
おばあちゃんの顔が、くしゃくしゃのえがおになりました。
やがて、ふたりが帰ると、おばあちゃんはテーブルにお皿をおき、ふろしきづつみをほどいて、中からお重箱を取り出しました。
「はい、おかあさん、初物づくしよ。たくさん食べて長生きしてね」
ついさっき、かあちゃんが届けてくれたものです。
ぬくもりの残ったお重箱の中にも、マツタケがたくさん入っていました。
「ありがたいこと。だけど、こんなにいただいたら、わたしがいちばん長生きしてしまうんじゃないかねえ……」
おばあちゃんは、うれしいような、困ったようなひとりごとをつぶやいたのでした。