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シドの国  作者: ×90
世界ギルド 境界の門
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8話 一縷の正義

〜質素な宿屋〜


 カーテンが勢いよく開かれ(まぶ)しい朝日が窓から差し込み、まだ瞳孔が開いているバリアの目を瞼越(まぶたご)しに突き刺した。バリアは身を(よじ)って毛布に顔を埋めるが、ラルバによってすぐに引き()がされてしまう。


「バリア! 朝だぞ! いつまで寝ているんだこの寝坊助(ねぼすけ)っ!!」


 ラルバの声が(やかま)しく降り注ぎ、バリアは(うっす)らと目を開ける。


「……今何時?」

「朝だ!」


 ラルバはラプーから紙切れを受け取るとバリアに向き直る。


「私はこれから偉い奴をブチのめしてくるから留守番していろ! それと……私が三日戻らなかったら助けに来てくれ」


 バリアは寝ぼけ(まなこ)を擦りながら一言だけ「わかった」と(つぶや)いた。


「それと……ほれ、お小遣い。無駄遣いしちゃダメだぞ! あと、夜遅くは出歩かないこと! 私のアリバイがなくなるからな!」


 数枚の金貨と宝石を受け取ったバリアは(うつろ)な目で「うん、うん」と生返事を繰り返す。


「そんじゃあ行ってくるぞ! ラデックに会ったら一発ぶん殴っておくように!」


 窓から勢いよく跳躍(ちょうやく)して屋根を駆け上がるラルバを見送ると、バリアはひったくられた毛布を手にとり、布団の上でモゾモゾと二度寝の準備を始めた。



〜カルネの家〜


「な、なあ本当にもう行くのか?」


 女衛兵のカルネは不安そうにラデックを引き止める。


「ああ。換金だけじゃなく食事に寝床まで用意してもらえるとは……。とても助かった。」

「こ、この辺は何かと物騒だ。そんな大金持ち歩いていたらスリや強盗に遭うかもしれない。もう少しここにいたほうがいい」

「アナタにこれ以上迷惑をかけられない」

「迷惑だなんて……。私は別に1人や2人増えたって……、家庭もないし……」


 顔を赤らめながらラデックを見つめるカルネは、恥ずかしそうに身を捩る。


「本当に助かった。これはほんのお礼だ」


 ラデックは麻袋から札束を取り出してカルネに渡す。


「そっそんな!受け取れないよ!」

「いいんだ。きっと盗賊の被害に遭った人たちも、貴方のような善人に渡るなら許してくれる」


 そう言ってラデックは深々と頭を下げると背を向けて歩き出した。


「まっまたいつでも来ていい!何か困ったことがあったら……!」


 ラデックは少しだけ振り向いて手を振った。


「……これから国を(おとしい)れようとしている人間だと言うのに。悪いことをした」


 一言だけ申し訳なさそうに呟き、足早に中央区へと向かった。



〜世界ギルド 総本部〜


「異常ナシッ!」

「異常ナシ」


 兵士が互いに中空を指して(きびす)を返す。石造りの巨大な城は王国制であった頃の名残をありのままに残し、それでいて監視カメラや電子機器といった高度な文明にも馴染みつつあった。


「……どこがどこだか」


 陰からキョロキョロと首を振るラルバが、眉を(ひそ)めながら小走りで廊下を駆け抜ける。兵士の後ろをピッタリとついていき、回れ右と同時に左側をすり抜ける。


「……会議室、情報処理室、給湯室。研究所と大して変わらんなあ」


 途中、設置してある自動販売機で飲み物を買って、まるで見学に来た子供のように城内を気ままに散策する。所々に設置されたカメラの死角をすり抜け、時々天井に張り付いたり静かに壁に抜け穴を開けて隠密に徹し監視を(あざむ)く。


「……?」


 ふと、ラルバは自分の後ろに気配を感じた。微弱な魔力が自分のほうへ向かって流れてきている。誰かが自分に気づき近寄ってくるのを感じて、足早にその場を立ち去る。しかし気配の主はラルバの後ろを迷うことなく一定の速度でついてきた。



「……ばあっ!!!」

「こんにちは」


 気配の主を大きな空箱の中で待ち構えていたラルバは、勢いよく飛び出して驚かせてみせた。しかし、目の前にいる使奴(シド)の女性は眉一つ動かさず丁寧に挨拶を返してきた。


「……お前つまんない奴だな」

「こんな所まで使奴が何の用かしら?」

「ふうむ。一番偉い奴を探してる」


 侵入がバレてもラルバは顔色一つ変えずに歩き出す。


「一番偉い人ならヴェングロープ総統ね。今日は2番棟で会議をしてらっしゃるわ」


 ラルバが顔をムスッと膨らませる。


「一番偉い? アレが? ただの汚いババアだろう。あんなのじゃなくて、裏で糸を引いてるボス的な奴がいい」

「裏で糸を引いてる?」

「さっき裁断された紙屑を()()()きた。サインがあのババアの筆跡じゃない。あと、ババアのちんたら作業じゃ1日にあの量の書類に目を通してサインするのは無理だ」

「へぇ……」


 ラルバは持っていた空き缶を使奴の女性に「捨てといてくれ」と手渡し、資料室へ入っていく。使奴の女性も後に続き、後ろ手で鍵をかけた。


「名簿名簿〜め〜い〜ぼ〜は〜……おい、名簿どれだ? この城の関係者全部載ってるやつ」

「私と賭けをしない?」


 暢気(のんき)なラルバの質問を無視して、使奴の女性が不敵な笑みを浮かべる。


「私の名前はイチルギ。多分アナタの言う“裏で糸を引いてるボス的な奴”よ。私に勝ったら言うこと一つ従ってあげる。でも、アナタが負けたら私の言うこと一つに従ってもらうわ」

「……ほう」


 ラルバは持っていた資料を閉じると、(そば)の椅子に腰をかけふんぞり返って資料を団扇(うちわ)代わりに優雅に(あお)ぎ始める。


「じゃあ私が勝ったら仲間になれ。悪を滅ぼす正義の旅路についてこい」


 イチルギがニヤっと笑い返す。


「じゃあ私が勝ったら、アナタは私の部下になってもらうわ。勿論(もちろん)この国のルールに従うことになるのだから、変なことをしたら法律に(のっと)って裁かれてもらう」

「決まりだ!」


 ラルバが勢いよく椅子から立ち上がり、イチルギに詰め寄る。


「ゲームには公平性と戦略性が求められる。こんなのはどうだろう」

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