56話 虎穴に入らずんば虎子を得ず
シドの国 おかげさまで一周年でございます。
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〜グリディアン神殿 男用検問所地下牢 (ハザクラ・ラデック・ラプーサイド)〜
「なあ!そこの君!」
ハザクラは鉄格子を掴んで、奥に座る見張りの黒髪の女に声をかける。しかし女はイヤホンをつけて何か音楽を聞きながらパソコンを弄っており、こちらには一切見向きもしない。
「頼む!話を聞いてくれ!」
ハザクラが何度も鉄格子を揺すり金属音を打ち鳴らすと、女は勢いよく立ち上がり振り返って鉄格子を蹴飛ばした。
「うっせぇなクソ共!!次騒がしくしたら目ん玉くり抜くぞ!!!」
「話を聞いてくれ!!悪い話じゃないはずだ!!」
怒り狂う女に、ハザクラは怯まず懇願を続ける。
「報酬はたんまり払う!いや、言われた分だけ払う!!だから一つだけ……」
「ほう……?」
『一つだけ頼みを聞いてくれないか……?』
女は顰めっ面を保ったままであるが、ハザクラの“言われた分だけ払う”という言葉に釣られて返事をした。
「聞くだけ聞いてやるよ」
「俺の命令全てに従え」
「あ?」
「抵抗せず俺達の脱出に全面協力をしろ」
ハザクラの異能にまんまと引っかかった女は、その自覚なく自分の意に反して体が動くのを感じた。まるで操り人形にでもなったかのような感覚でハザクラ達の牢の鍵を開け、セキュリティシステムの暗号パスワードを書いた紙を手渡した。
「……!?……なん……お前……私に何をした……!!」
困惑する女を他所に、ハザクラはラデックとラプーの方を向いて今後の行動指針を説明する。
「まずは脱出したいところだが……折角都合のいい傀儡が手に入った。このまま地下施設を探索しようと思う」
「……まあ、好きにしたらいいんじゃないか?」
ラデックは自分の没収されていた荷物を漁り、タバコを引っ張り出して火をつける。ハザクラは小さく溜息を吐くと、先程まで女が触っていたパソコンの前に座り調べ物を始めた。ラデックは傀儡となった女に近づき、顔や手を触って反応を確かめる。
「触……ん……な……!!クソが…………!!」
女は鬼の形相でラデックを睨むが、ハザクラの異能により行動が制限され抵抗できずに歯を噛み締めギリギリと鳴らす。
「ふむ……呆気なかったな。しかしまどろっこしい。ハザクラの異能は誰にも通用するわけではないんだろう?意識まで従えられるわけではない様だし……もしもの時にはどうするんだ?」
「ん……まあ条件が揃わないと無意味だからな。俺が戦うしかないが……その点、ラデックがいると心強い」
「あんまり頼りにしないでくれ。失敗した時に悲しくなる」
ラデックはハザクラの後ろからパソコンの画面を覗き込み、首を傾げる。
「調べ物か?」
「ああ、見取り図……できれば警備の巡回ルートとかが欲しいが、ないみたいだ」
「成る程。ラプー、見取り図」
「んあ」
ラデックの言葉にラプーは生返事をしてしゃがみ込み、側にあったコピー用紙に機械のような精度で図面を書き込んでいく。そしてあっという間に描き上がった図面には、警備の巡回ルートどころか、監視カメラ、その視野死角、錠と鍵の場所、セキュリティシステムの場所と種類が事細かに記されていた。
ハザクラは図面を受け取ると、関心というよりは恐怖に近い眼差しでラプーと図面を交互に見る。
「……なっ何だこれは……!?こんな情報……ハピネスと同じ、それ以上の異能でもなければ……!!ラプー……お前は一体何者なんだ……!?」
しかしラプーは黙ったままハザクラを見つめ返し、石像のように動かない。
「答えてくれラプー!!」
「ハザクラ、静かに。脱走がバレるぞ」
ラデックが唇に人差し指を当て「しーっ」とジェスチャーを送る。
「ラデック……!説明をしてくれ……!彼は一体何者なんだ……!?」
「ラプーは盗賊の国……一匹狼の群れに捕らえられていた処刑予定の情報屋だそうだ。ラルバが面白半分で拾ってきた。……確かに今考えると、世界一の支配力を持っていた笑顔の国に、僅か数百人規模の武力で肩を張っていた国で捕らえられていたって……裏がありそうだな」
「……何故ラプーはお前達についていってるんだ?」
「さぁ?」
2人がラプーを見つめるが、彼は黙ったまま動くことはなかった。
〜グリディアン神殿 薄汚い地下施設〜
坑道のように粗雑な地下道には常時送風ファンの荒い駆動音が鳴り響き、壁に埋め込まれた必要最低限のランプが辛うじて足元を照らしている。ハザクラ達はラプーが描いた見取り図を頼りに進み、傀儡にした黒髪の女を先頭に施設を進んでいく。
ハザクラは手元の見取り図を眺めながら、黒髪の女に指示を出して指揮を取っている。
「次の通路左。そうしたら監視カメラが右上にあるから、なるべく右に寄りながら手前の部屋へ」
黒髪の女はギリギリと歯軋りをして抵抗を示すが、ハザクラの異能に逆らえない体が意に反して指示通り部屋の鍵を開ける。ハザクラは頭上に設置されているであろう隠しカメラをチラリと見ると、ラデック達と共に部屋に入っていった。
その後も施設を進み、偶に巡回の警備員に出会しては黒髪の女に舌先三寸で言いくるめさせてことなきを得た。そうして暫く歩き続けていると、恐らくは施設の出口と思われる階段の前に辿り着いた。
四角い螺旋状に造られた階段は真っ直ぐ上へと続いており、ラデックは自分達が投獄された時に下った階段と同じくらいの距離だと感じた。そのままラデックは階段を登ろうとするが、施設の方へ振り返ったまま動かないハザクラを不審に思い声をかける。
「ハザクラ?行かないのか?」
「ん……いや……」
ハザクラは少し悩んでからラデックの方を見る。
「ラデック。この施設、どう思う?」
「広い」
「恐らくは検問所で捕らえた不審人物の拘置所、いや、牢獄の様な場所だとは思う。だが、だとしたら隠しカメラばかりを設置するのはおかしくないか?」
ハザクラはここから見える場所に設置された監視カメラを指差す。煉瓦造の壁の溝に小さい黒い点が浮き出しており、目を凝らせばそれがレンズであることが見て取れる。
「監視カメラは監視だけでなく、存在そのものによって防犯効果も持ち合わせている。隠したら脱走を抑制する役割は果たせない。何よりその分可動域も視野角も狭くなって監視の意味もなさなくなる」
そう言ってハザクラが黒髪の女の方を見るが、女はハザクラの言葉の意図を理解していない様で鬱陶しそうな表情でそっぽを向いている。
「彼女もこの意味を理解していない。つまり、この施設は関係者さえ知らない牢獄以外の役割があるということだ」
ハザクラの言葉にラデックは少し首を捻って考え、ものの数秒で考えるのをやめて背を向ける。
「よくわからん。その内わかるだろう」
ラデックが階段を登ろうとしたその時――――
ビーッ!!!ビーッ!!!
突如鳴り響く警告音に、施設全体を塗り潰す回転灯の赤。ラデックが驚いて振り向くと、ハザクラが扉の近くに設置されていた電子ロックを拳で破壊している姿が目に映った。
「ハザクラ……!?一体何を……!!」
珍しく狼狽えるラデックに、ハザクラはいつもと変わらぬ無表情で振り向く。
「この牢獄が一体なんなのか、“その内わかる”じゃあ困るんだ。今知りたい」
ラデックは唖然としてハザクラを眺めるが、当の本人は近づいてくる大量の足音を気にも留めず図面に視線を落としている。そして、あっという間に駆けつけた女警備員に囲まれ、ラデックはパーティの常識人だと思っていた人物が1人減ったことに大きく肩を落とした。
〜グリディアン神殿 中央庁舎 (イチルギ・ジャハルサイド)〜
豪華な応接室に通されたイチルギとジャハルは、美しい装飾が施されたティーカップに一切手をつけず、本革のソファに浅く座り姿勢を保っている。その2人の目の前に座る女性。シックな黒スーツと対照的に燻んだ赤紫の髪、右側は長く伸ばし顔の半分を覆っているが、反対に左側は後ろへ艶やかに流しており怪しげに輝く金色の瞳孔が静かに佇んでいる。
ジャハルと同じ24歳という若さで見事選挙を勝ち抜き、グリディアン神殿のトップに立った鬼才”ザルバス“大統領。絶大なるカリスマ性もさることながら、武芸の才にも秀でており、粗暴な国民性を有するグリディアン神殿に於いては従うに申し分ない実力者である。そして彼女の一番の武器は、武よりも知よりもその心にあった。世界ギルド境界の門元総帥イチルギ、人道主義自己防衛軍のNo.2ジャハル、この2人の怒りを買って尚冷静沈着を崩さぬ山の様に微動だにしない心。この不動の心こそが、ザルバスが政権を握ることができた一番の理由である。
「それで……お話というのは?」
ザルバスは左眼で真っ直ぐジャハルを見つめたまま紅茶に口をつける。
「我が人道主義自己防衛軍の総指揮官、ハザクラをはじめとする3人が不当な理由により拘束されている。即解放を願いたい」
「それは大変申し訳ないことを……直ぐに確認したしますので少々お待ちください」
ザルバスは一切表情を変えず頭を下げ、側にいた秘書にジェスチャーをして退室させた。ジャハルはチラリとイチルギ方に目を向ける。イチルギは少し目を伏せて紅茶を手に取り口をつけた。“相手が嘘をついている時は不機嫌な態度を、本当のことを言っている時は好意的な態度を”。使奴の観察眼を共有するため、事前に2人が決めた合図。ジャハルはイチルギの観察眼から謝罪が真実であることに安心して視線を戻す。
すると少し慌てた様子で秘書が戻ってきてザルバスに耳打ちをした。イチルギはその瞬間苦い顔をしながらも、もう一口紅茶を口に含んだ。つまり、秘書の耳打ちは非常に不本意な内容ではあるが嘘ではないという意味である。
ザルバスは怪訝そうな顔で2人を睨み、静かに口を開いた。
「……ハザクラさん達が脱走した様です。しかしこちらの不手際であれば目を瞑るべき内容……しかし、設備の破壊に警備員への魔法ないし異能の使用。これは充分勾留するに値する犯行です。どういうことでしょうか?」
ジャハルはまさかの発言に驚いてイチルギを見る。彼女は苦い顔で歯をぎりぎりと噛み締めており、苛立ちで目尻が痙攣していた。そして髪を掻き上げると、小さく溜息を吐いて頭を下げる。
「あーそれは本当に申し訳ないことをしたわ。人道主義自己防衛軍の教えはよく知らないもので……そのまま勾留しておいて頂けるかしら?後で面会させて貰います」
「なっ……イチルギ!?」
ジャハルは思わず声を荒げてイチルギに顔を寄せる。
「何故っ……何かの間違いに決まっているだろう!!」
しかしイチルギは態と“不満そうに”顰めっ面でジャハルを押し返す。
「うっさいわね!分かってるわよそんなの!」
聡明な彼女に似つかわしくない横暴で不機嫌な態度。事前に決めた嘘の合図。
「ハザクラ達が無罪なんだったら私らが上手いことやんなきゃでしょうが!」
“ハザクラ達の勾留は正当な処罰であり、実際に何か問題を起こしているので様子見をしよう”。
イチルギのメッセージをジャハルは読み取りつつも、不安を拭い切れない表情で俯いた。
「……そう、か。そうだな……」
イチルギはザルバスに小さくお辞儀をすると、彼女もそれに応えて小さく頭を下げた。2人がそのまま部屋を出ると、ザルバスは先程まで2人が座っていたソファを眺めて秘書に命令をする。
「ハザクラ、ラデック、ラプーの3名を“魂の柩”の元へ」
〜グリディアン神殿 中央庁舎前 (イチルギ・ジャハルサイド)〜
「あーもうっ!!ハザクラなら大丈夫だと思ってたのにぃ〜!!」
正面玄関を出るなりイチルギは頭を掻き毟りながら悶え始める。
「イ、イチルギ……ハザクラへの勾留が正当とは一体どういう……」
「私だって知らないわよっ!!」
イチルギはジャハルを鬼の形相で睨みつける。
「設備の破壊って!!明らかに故意じゃない!!つまり「イチルギがなんか上手いことやってくれるだろうから態と捕まってみよう」ってことでしょ!?あーもうなんであの子までラルバみたいなことするのかな〜!?」
大人気なく悶えるイチルギを眺めながら、ジャハルはやり場のない不安を抱えておろおろとイチルギと中央庁舎を交互に見る。すると、後ろから1人の人影が近づいてきた。
「……あの、すみません」
2人が振り向くと、そこにいたのは白髪に白いローブを纏った宗教家の様な人物が立っていた。そして後ろから大慌てで駆けてくる人物がもう1人。
「シ、シスター!勝手に外へ出られては……!!」
看護服の様な制服に身を包んだ、身の丈2mを越す大柄の女性。青い無造作なロングヘアを大きく靡かせ、暴力的なまでに大きな胸と尻を振り回す様に揺らしながら近づいてくる。しかし、何よりも特徴的なのは、色彩を持たない真っ白な肌と、藍色の瞳を囲む真っ黒な白目に、そこへ降りかかる額の真っ黒な痣だった。
シスターと呼ばれた白いローブの人物は、少し驚いた様な表情で振り返り、ルビーの様に真っ赤な瞳を彼女へ向ける。
「ああ、すみませんナハル。しかしどうしてもお話がしたくて……」
ナハルと呼ばれた大柄の女性は睨みつける様に辺りを見回してからジャハルとイチルギに視線を定める。
「…………取り敢えず、中へ入って下さい」
イチルギとジャハルはナハルに案内され、さっき出たばかりの中央庁舎へと踵を返した。
〜グリディアン神殿 中央庁舎資料室〜
「ここなら見つからないでしょう」
シスターは予備の椅子を引きずって机に近づけ、資料室の端に簡易的な応接の形態を作る。ジャハルは不審に思いながらも、腰掛ける前に敬礼をし、イチルギもそれに倣う。
「ますは挨拶を、人道主義自己防衛軍“クサリ”総指揮官ジャハルだ」
「世界ギルド境界の門、特別調査員イチルギです」
すると、シスターは慌てて頭を深々と下げる。
「これは失礼を!グリディアン神殿で魔導外科医を担当させて頂いております。シスターと申します」
「……助手のナハルです」
ナハルもシスターに合わせて深々と頭を下げる。しかしナハルの顔色は依然として暗く、警戒している、というよりは、気の毒そうにしている。と言った方が適切な面持ちをしていた。
席に着くなり、ジャハルは素朴な疑問を投げかけた。
「失礼ですが……シスターというのが本名なのですか?」
「ああ、そうなんです。紛らわしいですよね」
「いえ、そういう意味では……その、グリディアン教にシスターという伝統はなかったはず……」
「あはは……確かにグリディアン教は排他的な一神教ですが、そこまで過激でもありません。それに、実は私の生まれは“笑顔による文明保安教会”なんですよ。訳あって物心つく頃に亡命しましたが」
「こ、これは失礼を……申し訳ありません」
「いえいえ、昔のことですから」
シスターは明らかに20歳になろうかどうかという風貌だが、話し方や落ち着いた振る舞いは淑女の様に静かで美しく、魔導外科医という難しい職業を臆せもせず名乗る実力を伴った人格者だった。
シスターは時折子供っぽい照れ笑いを挟みながらジャハル達に話し始める。
「窓の外にお二人が見えた時、内心ちょっと興奮気味だったんですよ。ほら、この国はちょっと、内情が良くないじゃあないですか」
「いや……まあ、そう、だな?」
ジャハルは素直に肯定するのを躊躇い、若干返答を濁す。
「いいんです。ナハルもこの国の生まれではありませんし、そんなことより……」
そこでシスターは少し声のトーンを落として表情を曇らせる。
「早くお仲間を助けましょう。でないと……手遅れになるかも知れません」
確信を持った物言いに、ジャハルはゾッとしつつも強く言葉を返す。
「だ、大丈夫だ!ハザクラ達は私以上の実力者だ!例え使奴相手だろうが簡単には死なん!」
「仮にハザクラさんが使奴でも死ぬかも知れません」
シスターは再び確信の篭った言葉をジャハルへ言い放った。戸惑うジャハルを地獄の底へ突き落とすかの様に、唯一の救いであるイチルギがシスターへ詰め寄った。
「詳しく聞かせて」
イチルギも知らない恐ろしい事実が、ジャハル達の足元で渦巻いていた。
〜グリディアン神殿 ???〜
「ああっ!ああんっ!!んふぅっ!!んあああんっ!!!」
絢爛豪華な寝室に響き渡る女の嬌声。
「ああっ!!イイっ!!あんっ!あんっ!!」
肉と肉のぶつかる音。粘液音。荒い吐息。呻き声。
「ああんっ!!もっと!!もっとぉ!!!」
そして、キングサイズよりも二回り以上大きなベッドの上で蠢く白い肉塊。
「んああああああああああっ!!!んふぅぅぅぅぅぅーっ!!!」
脈動し、痙攣し、喘ぎ、叫び、大量の粘液をシーツに撒き散らす。
その白い肉塊と、ぐちゃぐちゃになったシーツの隙間から顔を覗かせる、意識を失った若い男が1人。
「んふぅー……んふぅー……」
萎みかけの水風船の様な白い肉塊は、抜け殻になった男を子供が野菜を吐き出す様にベッドの外へと放り投げる。
『新しいのっ!!!持ってぎでっ!!!』
その叫びに、部屋の入り口に立っていたタキシードを着た若い男は震え上がって敬礼する。
「仰せのままに!!!我が愛しの主人!!!」
若い男が部屋を出ようとすると、白い肉塊から銃弾の様に言葉が飛んできた。
『まっで!!!』
若い男は絶望と恐怖に苛まれながら、身体を石像のように静止させる。
『やっぱぁ……ごっぢ……きてぇ……?』
白い肉塊の甘える様な媚びた言葉に、若い男は脂汗塗れになりながら振り向く。
「仰せの、まま、に……!!!我が……愛しの主人……!!!」
若い男の笑顔は地獄の沙汰を垣間見たかの様に引き攣っており、そんな表情と心とは裏腹に足取り軽くベッドに向かって歩き出す。
若い男がベッドの真横に立つと、白い肉塊はゆっくりと顔を向けた。
『えへへぇ……わたしのごと……好き……?』
白い肉塊からはみ出た”ソレ“は、顔と呼ぶには余りにも大きく、まるで巨大な芋虫をありったけ貼りつけたかの様な風貌をしており、隙間から微かに覗く目玉や歯によって人間の顔であることを辛うじて認識できる化け物であった。
「勿、論で……ござい、ます……!!!」
若い男はガタガタと身体を震わせながらも、手を後ろに組み化け物を見つめている。
『かわいっ!んひゅひゅっ……じゃあ……わたしとぉ…………シよっ……?』
「……もちろっんっ……で、す……!!!」
若い男の顔に化け物の顔がついているであろう部位がゆっくりと近づき、肉塊に埋もれたかと思うと、そのまま暫くけたたましい吸い出す様な粘液音を打ち鳴らした。そして若い男は貝に捕食される魚の様に、肉塊とベッドシーツの間へと吸い込まれていった。
パーティ現在位置
中央庁舎 イチルギ、ジャハル
酒場 ラルバ、ハピネス、バリア
地下施設 ラデック、ハザクラ、ラプー




