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シドの国  作者: ×90
人道主義自己防衛軍
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36話 軍隊の国

【軍隊の国】


〜人道主義自己防衛軍 留置所〜


「くっそぉー上手く入れたと思ったんだがなぁ」

 拘束魔法で上半身の自由を奪われたラルバは、冷たいコンクリートの上に胡座(あぐら)をかいて楽しそうに悔しがっている。

「静かにしろッ!!」

 その様子を見た扉の向こうの看守が、扉を強く叩いて恫喝(どうかつ)した。しかしラルバは覗き窓に額を押し付け、挑発するように看守をニヤニヤと眺める。

「ねーねーこの国って鎖国中なんでしょ?暇じゃない?外の国の面白い話聞かせたげるよ」

「はぁ?確かに鎖国中だが、“狼の群れ”とは貿易を行なっているし、世界ギルド“境界の門”に派遣隊も送っている。お前から聞くことなどない」

「……永年鎖国って聞いてたのに。がっくしだ、ラデック探検行こー」

 後ろで両手を縛られているラデックは、胡座をかいたまま黙って首を左右に振る。

 ラルバの舌打ちと共に、看守はムッとして再び声を荒げる。

「お前たち自分の置かれている立場がわかっているのか!?もし逃げ出したとなれば、我が国が誇る総勢30万人以上の武装兵がお前達を追い詰める!例え妄想でも脱走など図らんことだ!」

 看守の脅しに「ふーん」と生返事をしたラルバは、ラデックの耳元で小さく呟く。

「なぁなぁ。30万人って尊い犠牲にカウントできると思うか?」

「犠牲?なんのだ?」

「そりゃあヒーローの脱出劇の犠牲よ。今も遠いどこかで不幸な子供が泣いているやもしれん。私が直ぐにでも駆けつけてやらねば」

「子供1人助ける為に罪のない30万人殺すのか?」

「ダメ?」

「ダメだろう」

 ラルバはラデックから顔を離して看守の方を向く。

「降参!!降参でーす!!おとなしくしまーす!!」

 飄々としたラルバの降参宣言に、看守は大きく溜息を吐きながら眉を(ひそ)める。

「……本当に大人しくしていれば悪いようにはしない。お前みたいな奴に適応させるのは不本意だが、あくまでも我々は人道主義だからな。だが……!!」

 看守は強く扉を蹴り付け、蝶番(ちょうつがい)が悲鳴を上げて錆を溢す。

「……国民の安全の為なら躊躇(ちゅうちょ)なく殺す」

「扉蹴ったらダメだよ」

 ラルバの暢気(のんき)な指摘に、看守は大きく舌打ちを鳴らし(わざ)とらしく足音を響かせて立ち去っていった。

「……なぁんであんな怒ってんのかね。トイレ行きたかったのかな」

「ラルバが闇雲に壁を壊したからだろう。何故扉を使わないんだ」

「いいじゃん別に。侵入した時点で犯罪者なんだから、何したって五十歩百歩よ」

 ラデックは呆れたように鼻から息を吐くと、寝転がって天井を見つめる。

「……イチルギとハピネスはいいとして、バリアとラプーは平気だろうか。一応捕まらないようにとは言ってあるが……」

「平気でしょ。その辺散歩でもしてんじゃないの?そっちより私はハピネス達の方が興味あるなー」

 ラルバはラデックの真似をして隣に寝転がり、少し身動(みじろ)ぎ をすると大きく欠伸(あくび)をした。

「……俺たちの出番は無さそうだな。久しぶりにのんびりするか」

「トランプしようよトランプ」

「いいぞ」

 再び留置所の扉が強く蹴り付けられた。


〜人道主義自己防衛軍 執務室〜


 大人しめの装飾が施された木製のローテーブルに置かれた紅茶を、ソファに座ったイチルギが静かに持ち上げて口をつける。

「……さて、本題なんだけど」

「本題の前に紹介だろう。彼女は誰だ?」

 イチルギの言葉を(さえぎ)って、対面に座るベルがイチルギの隣を(にら)む。

 本来先導(せんどう)審神者(さにわ)が交代した際には、その姿を公の場に出して退位と即位を行う。しかしハピネスは即位当時まだ5歳であり、国王が戦う術を持たないという事実を知られたくなかった笑顔の七人衆は替え玉を使い即位式を行った。その為、ベルを含め世界中の人間の殆どが、ハピネスという人物の姿も年齢も知らなかった。

 ベルに睨みつけられたハピネスは、自分が先導の審神者であるという事実を悟られまいとゆっくりと頭を下げ、一言も発さず目玉だけをイチルギの方へ向ける。

「ああ、気にしないで。私の知り合い」

 事前に打ち合わせをしていたイチルギは、ハピネスを(かば)誤魔化(ごまか)す。

「気にせずいられるものか!出不精(でぶしょう)のお前がわざわざこんな所まで来たんだ。厄介ごとは御免被るぞ……!」

 ベルは当然イチルギの不審な態度を警戒し、眉間に力を込める。しかしイチルギは、そんなベルの敵意などどこ吹く風で微笑む。

「ハザクラ君に会わせて?」

「何の為に?」

「会えばわかるわ」

「ふざけるな。今日のところはお引き取りを願おう」

 一歩も譲らぬベルに、イチルギは髪を指先で(いじ)りながら余裕の表情を見せる。少しだけ沈黙を挟んだのちに、突然ノックも挟まず執務室の扉が開かれ、赤い髪の青年が入ってきた。

「ハザクラ!?何故っ……馬鹿者!!直ぐ部屋に戻れ!!」

「あら」

 ベルは慌ててイチルギとの間に入り、近づかせまいとハザクラを守る形で背に隠す。しかしハザクラはベルの横をすり抜け、イチルギの正面にまで歩み寄り無表情のまま軽く会釈(えしゃく)をする。

「どうも。お久しぶりね」

 ハザクラの後ろでベルは額を手で(おお)項垂(うなだ)れている。しかしハザクラはベルの事を全く気にせず、じっとイチルギの顔を見つめた後ポツリと(つぶや)いた。

「…………伝わっていたのか?」

 イチルギはにっこりと笑い(うなず)く。

「ええ。お陰様で。“相違言語(そういげんご)”って言えばいいのかしらね?見事だったわ」

 支離滅裂(しりめつれつ)な会話にハピネスは頭上にハテナを浮かべるが、ベルは驚いた表情で硬直している。ハザクラはゆっくりとイチルギに(ひざまず)き、彼女の片手を握った。

「……良かった。無駄ではなかったんだな」

 イチルギは黙ってハザクラの頭を優しく撫でた。




 ハザクラはメインギアとして、無理往生(むりおうじょう)の異能で使奴を隷属(れいぞく)させる役割を担っていた。

 ”私の問いには必ず承諾の返事を行うこと“という命令を最初に行い、その後は使奴としての教育“オーナー、又は使奴研究所役員の言葉には絶対服従。必要に応じて身体機能の調整も行うこと“等の催眠(さいみん)に近い命令を与えていく。

 ハザクラの周囲には必ず人間の警備員がついており、台本以外の発言を行おうものなら即電流を流されて口封じをされた。


 そこで、ハザクラが考えた使奴を救う方法が”相違言語“である。


 例えば、日本人は“りんご”という言葉を聞くと赤いバラ科の果実を想像する。しかし“はな“では、鼻なのか花なのかを判別することは難しい。こういった、実際にはアクセントが異なるが個人の認識能力によって判別が不可能になる単語は多い。

 例えば、ハザクラが”はな“という単語を含んだ命令を行った場合、この時ハザクラの思う”はな“と、命令された者の思う“はな”では、一体どちらが無理往生に適応されるのか。

 答えは前者である。例え命令された者が“花”と認識していても、ハザクラが“鼻”という意味で発言していれば。“鼻”が無理往生の対象になる。すると次は、これを“意味と言葉が全く異なる文章で行ったらどうなるのか”という問題が発生する。例えば「右手を上げて」という命令を「しゃがんで」という意味で発言した場合。

 そして、これの答えも同じ“命令者の認識している意味に依存する“ことになる。

 ここで出てくるのが相違言語である。

 ハザクラが「右手を上げて」という発言を「しゃがんで」という意味で発言すれば、先程の法則に従い”しゃがんで“が命令になる。この意味が言葉と相違する言語、”相違言語“を使うことでハザクラは完全監視状態の部屋から使奴を救うことを試みた。

 しかしこの方法には大きな問題がある。それは”そもそも言葉を異なる意味で発言することは不可能“という点である。

 人は(いずれ)も、言葉を発する時にわざわざ意味を考えない。母国語以外の不慣れな言語であればあり得るが、歩く時に「右足を出して重心を移動させ〜」と考える人がいないのと同じである。深層意識に刻み込まれた言語、ましてや文章の理解を(くつがえ)すことは不可能に近い。


 それをハザクラは思いついてから10数年間行ってきた。当然殆どが失敗に終わり、多くの使奴が正規品として出荷された。しかし




「でもね、私には伝わってたわよ」

 イチルギはソファに座りながら、対面に座るハザクラを上目遣いで見つめる。

「凄いことよコレって。一回覚えちゃった言葉の意味を、自分の意思で出鱈目(デタラメ)に捻じ曲げるなんて。よく頑張ったわ」

 隣に座るハピネスは、物珍しそうにハザクラを眺めながら小さく感嘆(かんたん)の声を()らす。

「ほぉ……そんなことが……」

 対面に座るハザクラは黙って目を伏せており、その横に座るベルが両膝に手をついて深々と頭を下げた。

「そうか……イチルギが最初に逃げた使奴だったのか……そうとは知らずに、今まで不遜(ふそん)な態度を取って申し訳ない」

「……ハザクラ君に命令された時、それまでぼんやりとしていた意識が突然明瞭(めいりょう)になって思考が回るようになったの。最初は何が起こったのか分からなかったけど、武装した警備員とか(うつむ)いたハザクラ君を見て、今は動くべき時じゃないって思ったわ。だから出荷直前まで命令が効いたフリをしてた……あの後機械色々弄ってから逃げたんだけど、役に立った?」

 ハザクラは目を閉じて小さく頷く。

「ああ、大いに役立った。心の底から感謝を申し上げる」

「私からも礼を言わせてくれイチルギ。お陰で我々はこの現在も、五体満足で生き長らえさせて貰っているんだ」

「あっはっは。そんな大層なことしてないわよ。命令したのはハザクラ君じゃない」

「俺か……?多分あの時は“逃げろ”くらいしか念じなかったと思うんだが……」

 顎に手を当てて考え始めたハザクラに、イチルギは自分の頬を撫でながら上を向く。

「あーそれは多分異能の振り幅が大きいのねきっと。私にとっての“逃げる”ってのは、脅威(きょうい)から遠ざかって自分の安全を確保するって意味だけじゃなくて、脅威を排除して安全の維持に努めるってのも入ってたと思うの。だからハザクラ君を助けることは、十分“脅威の排除”にあたる行為で、“逃げろ”って命令に従ってたんだと思うわ」

 半分納得したような煮え切らない表情を浮かべるハザクラに、イチルギは続けて話しかける。

「ところで……私への命令ってまだ継続中?あれからもう200年も経ってるけど」

 その言葉にベルが若干身体を(こわば)らせるが、ハザクラは片手でベルを制止し返答する。

「まあ……まだ継続しているように思えるが、若干違和感がある。その気になれば反発できるんじゃないのか」

「何故言ってしまうんだハザクラ!確かにイチルギに恩義はあるが……!」

「やめろベル。これから協力してもらおうという相手にする態度じゃない。それに、少なくともイチルギに異能を使うつもりは無い。俺としては、彼女には誠意のみで判断してもらいたい」

「し、しかし……」

 不安そうにイチルギの方を向くベル。しかしイチルギは再びにっこりと笑い足を組み直す。

「そうね。じゃあ私も誠意で答えなきゃ」

 イチルギは何かを見透かすようにハザクラをじっと見つめ、ゆっくりと口を開く。

「ハザクラ君の異能は、“承諾”をトリガーとして発動する命令の強制よね。自分の命令に相手が承諾すれば相手はその命令に逆らえない。てことは、その逆もアリだったりする?」

 ハザクラが返事を返そうとしたその瞬間。

「言わなくていいわ、先に言わせて――――今から“境界の門“特別調査員イチルギは、ハザクラの異能による命令を拒否しません」

 静まり返った執務室に、ハピネスの溜息だけが響く。

「はー……言ってしまったか。私は反対なんだがな」

「ふふん。さてハザクラくん。後はアナタの返事だけよ?」

 ハザクラは決意したように目を(つむ)り、立ち上がってイチルギに手を差し出す。

「無論、俺の異能には”そういう使い方“もある。だが返事はしない。これからよろしく頼む」

 ハザクラがイチルギに手を差し出すと、イチルギは素直に手を握り微笑んだ。




〜人道主義自己防衛軍 会議室〜


「なぁぁぁああにしとるんだこんの(たわ)けがぁ!!!」

 イチルギに向けたラルバの怒号は広々とした会議室の窓を揺らし、真横にいたラデックとハピネスの鼓膜を蹴り付けた。ベルの横に立つハザクラも両手で耳を塞いでおり、軽蔑(けいべつ)の眼差しでラルバを見上げている。

「うるさっ。ゴメンねハザクラ君。大丈夫?」

「あんまり。彼女は何者だ。イチルギの仲間であれば、何故不法入国している」

「ゴメン、それは私も本当に頭にきてるわ……彼女の名前はラルバ。頭のネジが全部飛んでる快楽殺人鬼」

 イチルギは(しか)めっ面でラルバにチョップを喰らわせる。

 ベルに呼ばれて途中参加した、人道主義自己防衛軍の軍団”クサリ“の総指揮官”ジャハル“が、ラルバの常軌(じょうき)(いっ)した傍若無人さに呆れ返り、極悪人を軽蔑するが如くラルバを睨み威嚇している。

「……イチルギさん。私からも聞きたいのですが、なぜ彼女をここへ連れてきたんですか?」

「んー……まあ……それは後で」

 苦笑いをしてジャハルの問いを誤魔化(ごまか)したイチルギは、ラデックに近寄りハザクラ達に紹介する。

「隣の大人しい彼がラデック。使奴研究員らしいわ」

「第二使奴研究所レベル1技術者ラデック。これからよろしく」

 ラデックがハザクラに手を差し出す。

「……人道主義自己防衛軍”ヒダネ“所属、指揮官のハザクラだ」

 ハザクラは差し出された手を取り、お互いに仏頂面(ぶっちょうづら)を崩すことなく握手を交わす。ハザクラの無表情には不信感や警戒が(にじ)み出ているが、ラデックの無表情からは近い感情は一切見えず、暢気な無愛想と言った雰囲気を(まと)っている。

 すると、ラルバがラデックをハザクラから引き剥がし詰め寄り、ゴリゴリと歯軋(はぎし)りを鳴らしながら見下す。

「正義のスーパーヒーロー、ラルバだ。言っておくがコレは私の旅路だぞ。ついてくるのは構わんが主導権は握らせてもらう!」

「場合による」

 眉間に(しわ)を寄せてハザクラを睨むラルバに、全く動じず言葉を返すハザクラ。

 すぐさまジャハルがハザクラを庇う様に間へ入ってラルバを睨みつける。

「なんだ白黒女。ホイップフラペチーノの仮装か?」

 ジャハルの黒ずんだ褐色の肌と銀髪を揶揄(やゆ)するラルバに、ジャハルは黙って目を細め威圧する。睨めっこに痺れを切らしたラルバが(うめ)き声を上げながら大きくのけ反り、頭を掻き(むし)る。

「ぬぁぁぁあああっ!!納得いかん!!」

 厳格な門番のように仁王立ちを崩さないジャハルの後ろから、ハザクラが顔を(のぞ)かせる。

「お前は悪を滅ぼすのが目的なんだろう?俺の目的とも共通点が多くある」

「はぁ?正義のヒーローは一人で十分なんだが?」

「俺の目的は使奴の解放と、平和な世界を造ることだ。悪を裁く過程は避けて通れない」

 ハザクラは背を向けると、会議室の白板に大きく地図を描く。

「“境界の門”――――世界ギルドは序盤に制覇したかったが、イチルギの協力を得た今は最早必要ないだろう。となると、俺の思い描く道筋はこうだ」

 ハザクラが地図に打った点に、順番に国名を記入していく。

「まずは“ダクラシフ商工会”次に“ヒトシズク・レストラン”を制圧する。この2カ国はドンマやシュガルバ関係の団体と繋がりが深く、奴等の大きな資金源にもなっている」

 一瞬会議室の空気が(よど)むが、構わずハザクラは白板に向かって説明を続ける。

「“ 愛と正義の平和支援会”に“ ベアブロウ陵墓(りょうぼ)”と、ここもあまりいい噂を聞かない。“なんでも人形ラボラトリー”や“真吐(まことつ)き一座”に“崇高で偉大なるブランハット帝国”――――この辺りも気になる部分は多いが……ひとまず後回しでいいだろう。問題は次だ。昨今積極的に他国を攻撃している“グリディアン神殿”に、人種差別による内戦が国外にも伝播(でんぱ)しつつある“スヴァルタスフォード自治区”この2カ国を続けて制圧したい。そして――――」

 ハザクラはペンである一点を何度も丸で囲む。

「機会を(うかが)って“笑顔による文明保安教会”に侵攻する。駐留(ちゅうりゅう)している信者の戦力は大凡(おおよそ)1万と少ないが、笑顔の七人衆直属の戦闘員だ。我々30万の兵力を注ぎ込んでも大きな損害が出ることは確実だが、そこは使奴であるベル、イチルギ、ラルバの3人が矢面(やおもて)に立って上手く撹乱(かくらん)して欲しい。そして我々の精鋭部隊を総動員し笑顔の七人衆と先導の審神者を無力化する。後ろ盾がなくなった残党を根刮(ねこそ)駆逐(くちく)し、目まぐるしくはなるが状況が改善した側から戦力を偵察(ていさつ)の強化に回す。最終目的として、どこかにあるはずの盗賊団が蔓延(はびこ)る集落――――笑顔の七人衆をも(しの)ぐ悪意と実力を持ち、数百人という少数勢力ながらも唯一奴等の対抗勢力になっていた無頼(ぶらい)巣窟(そうくつ)“一匹狼の群れ”を見つけ出し、全兵力を以って陥落(かんらく)させる。これが俺の筋書きだ」

 そう言って真剣な顔で振り返るハザクラ。しかしベルとジャハル以外の人間は困惑の表情を見せており、ラルバは下唇(したくちびる)を噛んで不満そうな顔をしている。

「別にラルバ達の目的とはそう逸脱(いつだつ)していないはずだ。当然上手くは行かないだろうが、笑顔による文明保安教会への侵攻作戦。一匹狼の群れへの対抗策も練ってある。何が不満だ。」

 ラルバは小さく(うな)った後に、小馬鹿にする様な鼻息を小さく鳴らしてせせら笑う。

「そういえば紹介まだだったね。ハピネスさんどうぞ」

 ハピネスという名前に場の空気が一瞬で凍りつき、不幸者の透き通った美声だけが響き渡る。

「……どうも、“笑顔による文明保安教会”先導の審神者――――ハピネス・レッセンベルクだ。ラルバに笑顔の七人衆を壊滅(かいめつ)させられたのでな。暇潰(ひまつぶ)しに同行している。どうぞよろしく」

「あと“一匹狼の群れ”だが、盗賊と奴隷(どれい)がいっぱいいた小さい国だろう?もう大体全員ぶっ殺したよ」





 ハザクラの落としたペンの音が、静止画のように切り取られた会議室に(むな)しく木霊(こだま)した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] うーんこの先手を打たれた感よ
[良い点] ハザクラさん可哀想やな(笑) [一言] 新しい場所がどんどん出てきてこれからが楽しみです!
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