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シドの国  作者: ×90
ダクラシフ商工会
238/286

237話 国民的スーパーアイドル

〜ダクラシフ商工会 狗霽知(いぬばしり)大聖堂 歓楽街 狗霽知(いぬばしり)天文館 (ゾウラ・カガチ・ボブラサイド)〜


 慣れぬ人混みに興奮して好奇心に駆られたゾウラは、ボブラの制止も聞かずにカラーコーンの奥へと進んで行く。部外者であるゾウラ達や、使奴であるカガチの姿を見て半ば攻撃的に止める者が現れるも、全てカガチが無造作に追払う。


「おいコラお前達! ここは関係者以外――――」

「どけ」

「うっ――――」


 警備スタッフの腹部に黒いヒラメが撃ち込まれ、スタッフは怯んだ姿勢のまま時が止まった様に硬直する。ロックのかかったガラス戸を魔法で解錠し、通路脇の受付窓口に黒いエイを1匹放って素通りする。受付口からは一瞬だけ悲鳴が聞こえるも、すぐに全員気を失って沈黙した。


 早足でゾウラを追いかけるカガチに、ボブラは小走りで並んで顔を覗き込む。


「お、おいカガチ、お前何やった?」

「問題ない」

「何やったかを聞いてるんだが?」

「問題にならない」

「おいゾウラ、お前何させてっか分かってるか?」

「楽しいです! あっちの方から音楽が聞こえますよ!」

「あーもー誰も話が通じねぇ!!」




 そうしてゾウラが思うがままに建物内を突き進んで行くと、1枚の防音室の扉の前で急停止した。頑丈そうに見える防音扉の隙間からは、ポップで楽しげなリズムが漏れ出ている。


「ここから聞こえます!」

「開けます」

「開けんな勝手に!!」


 ボブラの静止も虚しくカガチが扉を開く。すると、その先にいた1組の男女が驚いた様子でこちらに気づいた。


「えっ? えっ? 何? 誰?」

「ど、どちら様……?」


 方や色黒細身の男。方や七色の長髪の女性。状況が飲み込めていない2人に、ゾウラが意気揚々と挨拶をする。


「初めまして! 私、ゾウラと申します! こっちはカガチとボブラさん!」

「は、はあ……。え? 結局何?」


 困惑し続ける男女、興味最優先のゾウラ。一言も発さないカガチ。混乱が混乱を呼ぶ状況に、ボブラは自分に役目を理解して大きく溜息を吐いた。




〜〜ダクラシフ商工会 狗霽知(いぬばしり)大聖堂 歓楽街 狗霽知(いぬばしり)天文館 楽屋〜


「旅人さん……? えーと、つまりは……侵入者ってことすか?」

「まあ、そうなる……」

「キールビースちゃんのファンとかじゃなくって?」

「悪い、そのキールビースとやらも知らん……」


 ボブラは男に事情を説明して頭を下げて謝る。


「オレじゃこの2人を止められねぇ。無害だとは思うんだが……一応警備を呼んだ方がいいかも知れねぇ」

「いや、その警備員は兄さんらが皆やっつけちゃったんすけど……」

「も、申し訳ねぇ」

「うーん……旅人かぁ……。キルビスちゃん!」


 男が名前を呼ぶと、楽屋の端でゾウラの質問攻めを受けていた女性が近寄ってくる。


「ねえねえ、この人らに傭兵頼むってのはどーかな!?」

「えっ? キダさん!? 何考えてるんですか!?」

「だってさ、この人らガチでヤバいよ!? 警察よりよっぽど頼りになるって!」

「……まあ、キダさんがそう言うなら……」


 突飛な話に、ボブラは困惑して拒否を示す。


「いやいやいやいや、何考えてんだ!? 会ったばっかの侵入者を信用すんなよ!」

「いやいやいやいや! 俺見る目だけはガチであるんで! 皆さん絶対悪い人じゃないっつーのは分かります! いやガチで!」


 男は懐から名刺を取り出してボブラに差し出す。


「自己紹介が遅れました! 俺、ダクラシフプロダクションの“キダカラ・モクスケ”っす! キルビスちゃんのマネージャー兼プロデューサーやってます! キダちゃんって呼んで! こっちは今をときめくスーパーアイドルの“キールビース”ちゃん!」

「キールビースです。よろしくお願いします」

「は、はあ」


 キダは自慢の金髪を指に巻き付けつつ、不安そうに話し始める。


「実は、最近キルビスちゃん関係で問題が起きてるんすよ。あ、敬語めんどいからやめていい?」

「はあ……」

「ボブラさんらは知らないかもだけど、キルビスちゃんって超国民的スーパーアイドルなのね? 100年に1人の逸材って感じで」

「いいことじゃねぇか」

「いやいいことなんだけどさ? それがスーパー過ぎて、ファンが超凶暴になってんの。限定グッズでも出そうものなら死人が出るレベルで争奪戦が起きるし、古参新参が毎日喧嘩して怪我人出してるし、グッズだの小道具だのが闇取引されたり、親衛隊を名乗る連中が新参ファンから金むしってるとかでもう本当酷いのよ。こないだなんか作曲者の1人が何でか知らないけど街中吊るされてたし……」

「……カルト宗教みてーだな……」

「そう! もうキルビスちゃんは神になっちゃったの!」

「そこまでは言ってねーよ。だが、そんなら引き受けらんねーな。オレ達はこの国に長居する予定はない」

「今回だけ! 今回だけダメっすか!?」


 隣で静かにしていたキールビースも頭を下げて懇願する。


「お願いします! 今回だけでいいんです!」

「んなこと言ったって……今回なんかあんのか?」


 キールビースは徐に顔を上げ、横目でキダを見てから頷く。


「…………実は、まだ発表していないんですけど、今回を卒業ライブにしようと思っているんです」

「はぁ」

「私がいるせいでファンの皆が傷つくなら、もう私なんていない方がいいんじゃないかって……」

「別にオレには関係ねーから止めはしねーけどよ、多分思ってるように上手くはいかないぜ。ファンが凶暴化してんなら尚更。逆恨みで殺されるまで考えた方がいい」

「で、でもっ! もう、活動資金もないんです……続けたくても……」

「はぁ? スーパーアイドルが貧乏ってどう言うことだよ。こんなデカい建物借りといて」


 キールビースに代わりキダが説明する。


「警備費用がバカ高いんよ。キールビースちゃんは普通の売れっ子アイドルの何十倍も人動かしてるからさ。最近は警備会社の方も足下見てきて、もうライブやるたび赤字確定なんだよ……」

「なるほどな。で、そのバカ高い警備費用払って雇った奴らがあの程度……と」

「そう! だからさ、頼むよ! 今回だけでいいんだよ! 金なら今回の売り上げ全部あげるから!」

「う〜ん……」


 ボブラはチラリとカガチの顔を窺うが、本人は一切こちらに興味を示さず中空を眺めている。しかし、カガチは唐突にキールビースへと近寄り顔を覗き込んだ。


「な……なん、ですか……?」


 それから何かを確かめるように顔を粗雑に撫で回す。


「にゃ、にゃにを……やめっ……」

「……わかった」

「へ?」

「ガチで!?」


 思いもよらぬカガチの肯定に、ボブラは喜ぶ2人に隠れてゾウラとカガチに耳打ちをする。


「お、おい! いいのか!? ゾウラは目立っちゃまずいんだろ!?」

「目立たず警備をすればいいだけだ。造作ない」

「楽しみです!」


 キダは大喜びで契約書を殴り書きし、カガチに差し出して案内を始める。


「字ぃ下手でごめんね! 別に騙すつもりはないけど、一応契約書ね! 読んだらサインしといて! 現場こっち!」

「皆さん突然でごめんなさい。でも、本当にありがとうございます! どうぞこちらへ! ゾウラさん足元気をつけて!」

「はい!」


 通路の奥に駆けて行った2人をゾウラが上機嫌に追いかけていく。走る気になれないボブラは、契約書にサインするカガチを横目で睨みつつぼやく。


「……まあ、これでラルバに言われた“声のでかい鶴”は何とかなりそうだな……。しかし、お前がラルバの言うことを素直に聞くと思わなかったぜ。なんか弱みでも握られてんのか?」

「特に。手伝ってやる理由はないが、手伝わない理由もない。それだけだ」

「どんな理屈だそれ……」

「だが……」


 カガチは通路脇でのびていた警備員の懐を探り、そこから七色のストラップがついた財布を取り出した。その中から社員証を抜き取ると、ボブラに差し出し怪しく笑った。


「本当に僅かだが、知識欲が湧いた」

「……はぁ?」




〜ダクラシフ商工会 狗霽知(いぬばしり)大聖堂 歓楽街 狗霽知(いぬばしり)天文館 コンサート会場 (ゾウラ・カガチサイド)〜


 警備内容の説明を受けたカガチとゾウラは、舞台袖のパイプ椅子に座りコンサートの開始を待っていた。会場に押し寄せるファンの群れを物珍しそうに眺めるゾウラが、ふと思い出したことをカガチに尋ねる。


「あれ? そう言えばボブラさんはどちらに?」

「“用事”を頼んであります。気にしないで下さい」

「ボブラさんにも見せたかったです。すごい人の数ですよカガチ!」

「そうですね」


 そこへ、少し慌てた様子のキダが駆け寄ってくる。


「ちょちょちょ! カガチさん! 何サボってんの! 警備警備!」

「問題ない」

「問題ないって……! 問題ないわけないっしょ!? 裏口から入ろうとするやつなんか大勢――――」

「いたのか? 侵入者が」

「いや、まだいないけども……」

「当然だ。とっくに魔法で囲ってある」

「……ガチで? いや、関係者は通してほしいんだけど……」


 カガチは面倒くさそうに溜息をつき、片手に黒いコアラの紋様を浮かばせて見せる。


「何これ。キュートじゃん」

「防衛魔法“偏愛する棘”だ。特定の条件を持たぬ生物を退ける半自動迎撃装置。関係者には反応しないが、部外者が近寄れば八つ裂きにされる」

「八つ裂きはエグいて!!」

「我儘だな……。酩酊程度に下げておけば文句ないだろう」

「本当は穏便に追い返してほしいんだけど……」

「面倒。無理だ」

「面倒と無理は違くない? ……もしかして何人かもうやられてる?」

「上手く逃げおおせたようだな。まだ誰も殺していない」

「怪我させたかどうかを聞いたんだけどな……?」


 すると、会場内の照明が一斉に落ちてミュージックが流れ始める。ファンは大歓声を上げ、手にした光魔法の装飾を七色に輝かせて振り回している。巨大なスクリーンに花吹雪の映像が流れ、キールビースが煌びやかな衣装を纏って壇上へ姿を現した。歌声が響くと共に、歓声が掻き消されるように静まる。


 舞台袖からキールビースの登場を間近でみていたゾウラは、ぴょんぴょんと飛び跳ねながらカガチの肩を叩く。


「始まりましたよ!」

「そうですね」

「あんま声出さないで〜」


 喜ぶゾウラの背中を眺めながら、カガチはチラと指先の”黒い鳩“に視線を落とした。





 


〜ダクラシフ商工会 狗霽知(いぬばしり)大聖堂 歓楽街 (ボブラサイド)〜


 人混みでごった返す繁華街を、ボブラは窮屈そうに縫い歩いていく。脂汗を浮かべるボブラを、耳元に張り付いた小さな”黒い鳩“が責め立てる。


「遅い。さっさと進め」

「わぁーかってるっつの……! 悪かったなぁ足が短くて!!」

「作ったのは自分だろう」

「あぁ? 何言ってんだオメー」


 カガチの通信魔法で命令を受けながら、ボブラは人混みを流れに逆らって突き進んで行く。


「これどこまで行けばいいんだよ……」

「分からん。だがもっと先だ」

「それがどんぐらいかって聞いてんだよ!」

「分からないと言っているだろう。目安などない。進め」

「クッソ……! こんなん絶対オレ以外がやるべきだろうが……!」


 文句を言いながらも、カガチに指示されるがままに進み続けるボブラ。大きなビルに設置されている街頭ビジョンには、今まさに行われているキールビースのコンサートのライブ中継が映し出されている。


 ボブラは少しだけ足を止めて映像を見上げた後、軽蔑するように鼻を鳴らして再び歩き出した。

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― 新着の感想 ―
さて何が始まるのか ところでいぬばしりのルビが逆になってますね
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