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シドの国  作者: ×90
三本腕連合軍
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169話 闇より出でる土竜たち

 約200年前、この地には”東薊農園“という小さな農園があった。慎ましく質素に暮らしていた彼等の大切な農園は、旧文明を滅ぼした大戦争に巻き込まれて呆気なく焼け野原となってしまった。


 そこへ、2つの勢力がやってきた。


 陸からは、北方の王国を守っていた”黒雪崩騎士団“。海からは、遥か遠くの島国に本社を置く”鳳島輸送“。いずれも大戦争の戦禍に追われ、命からがら逃げてきたと言う。


 どの勢力も、決して友好国同士とは言い難い仲だった。しかし、今となっては同じ穴の狢。難民同士争っても仕方がない。誰もが、この戦争を生き延びることに必死なのだ。誰と誰が、何のために戦っているのかすら分からなくなった大戦争で、彼等は共に生きて行くことを誓った。




〜三本腕連合軍 黒雪崩騎士団 ”反霊式大魔導炉“ 応接室〜


「それがこの国、”三本腕連合軍“の始まりだと言われている。お前等も、どこの国出身か知らないが学校かどっかで習ったことあるだろ」


 ステインシギル工場長の言葉に、シスターは静かに頷く。


「お互いの勢力の(いが)み合いを止めるために、それぞれの代表者3名が和睦を誓った時の写真。それが国旗の元でしたね」


 壁にかけられた大きな旗には、バツを描くように黒と青の腕が交差し、その中心を跨ぐように黄色の腕が重ねられている。


「黒が黒雪崩騎士団。青が鳳島輸送。黄が東薊農園。一つの国として対等な関係を目指して作られた国旗だったんだが……、今じゃこのザマだ。俺達”黒雪崩騎士団“は技術革新の輪から弾かれ、回ってくる仕事は下請けばっか。東薊農園は技術開発に感けて政権を鳳島輸送に取られた。その鳳島輸送は、黒雪崩騎士団と東薊農園が作った製品の劣悪な模造品を大量生産して、地元民奴隷化して各国にばら撒いてる。そのせいで賃金も物価も軒並みダダ下がり。ただでさえ税収少ないってのに、黒雪崩騎士団(ウチ)は火の車どころか燃え尽きる寸前だ。今はまだ俺が東薊農園に頭下げて何とか介護してもらっちゃいるが……、黒雪崩騎士団県民はそのことを知らない。俺の支持率もあと何年保つか……」


 次から次へと際限なく愚痴を溢すステインシギルに、シスターは目を伏せて俯く。


「……先程ティスタウィンクさんが、外で働いている方に「氷河期はすぐそこだ」と勧誘をしていましたが、強ち間違いでもないのですね」

「はっ。間違いどころか大正解だよ。アイツも口と性格と根性は超が付くほど悪いが、勘と勘定だけはピカイチだ。口ではそれっぽく聞こえるだけの屁理屈暴論言いながらも、何だかんだ本質は外さねぇ。今回お前等の手助けしたのだって計画の内だろうよ」

「知っていたんですか?」

「まー幼馴染だしな。アイツが善意だけで人助け何かする筈ねーんだ」

「お、幼馴染!?」

「昔っからそーゆー奴なんだよ。器用なんだか不器用なんだか……、敵は多いが味方も多い。トラブルメーカーに違いはねぇけどな」


 ステインシギルは乱暴に髪をガシガシと掻き、「どっこいせ」と気怠そうに腰を上げた。


「さてと。まあ、つーわけで……今この国は大絶賛三つ巴で嫌がらせ合戦の真っ只中だ。お前らの頼みが何にしても、直接手ェ動かして手伝ってはやれねぇ」

「構いません。その代わり、ステインシギルさんの権力をお借りしてもよろしいでしょうか。私達は3人とも、百機夜構に半ば誘拐される形で入国しています。権力による後ろ盾が欲しいんです」

「あー……なるほどな。そんぐらい好きにしな。その服に付けてる百機夜構のバッジがありゃ大体は平気だろうけど、まあ、なんかあった時には俺の名前出しゃいい。あ、先にティスタウィンクの名前出せよ? 出来る限りの迷惑はアイツに押し付けろ」

「はい。ありがとうございます」

「そんじゃあ俺は仕事に戻る」


 ステインシギルが大欠伸を溢しながら背を向けたその時、応接室の扉が勢い良く開かれた。


「お、親方!! 大変です!!」

「あ? どうした?」


 ぜえぜえと息を切らしながら叫ぶ作業員は、全身の汗を拭うよりも前に告げる。


「ティ、ティスタウィンク工場長が、殺されました……!!!」




〜三本腕連合軍 黒雪崩騎士団 ”反霊式大魔導炉“ 南第三融霊(ゆうれい)プラント〜


「どけ!! 道開けろ!!」


 野次馬でごった返す工場内を、ステインシギルが乱暴に掻き分け前に進んでいく。その後にシスター達3人も続き、なんとか見失わないよう追いかける。そして人混みの先、工事のために深く掘られた縦穴の横に、ティスタウィンク工場長が横たわっていた。


「ティスタウィンクさん!!」


 慌てて駆け寄ろうとするシスターを、ステインシギルが咄嗟に抑えつける。


「お前は引っ込んでろ……!」

「で、でも……!」

「いいから!! そこにいろ!!」


 ステインシギルはシスターに強く言い放ち、ひとりティスタウィンクの隣に近づき跪く。すぐ側では数名の医者が、今にも泣きそうな顔でステインシギルを見つめている。


「も、申し訳ありません工場長……!! 我々が駆けつけた時には、既に死亡しており……!!」

「……何があった」


 一切の狼狽を感じさせない落ち着いたステインシギルの呟きに、そばにいた作業員の1人がハッとして一歩前に出て口を開く。


「は、はい! えっと……つい1時間ほど前に、ティスタウィンク工場長が視察に来られまして……。それから冷凍室の警報が鳴って、見に行ったら中でティスタウィンク工場長が倒れていました。冷凍室は老朽化で所々亀裂が入っており、そこから処理場の煙が入ってきていたようです。死因は、この煙を多量に吸い込んだことによる一酸化炭素中毒だそうです」

「“殺された”ってのは?」

「はい。その冷凍室の亀裂なんですが、このプラントに勤めている“バシュオウト”という者が先月修繕をしているんです。しかし、先ほど確認したところ亀裂に詰めた補修剤が全て剥がされていました。そしてそのバシュオウトは、今朝出勤のタイムカードを押したのを最後に行方が分からなくなっています」

「そいつが殺ったって確証は?」

「……バシュオウトは2ヶ月ほど前からここに転職してきたそうですが……、前の職場に奴の連絡先を聞こうと連絡したところ、「そんな人間は知らない」とのことでした。それから更に調べたところ、恐らくバシュオウトは“鳳島輸送”の人間であることが判明しました」

「すみません。ちょっといいですか?」


 ステインシギルと作業員の会話に、後ろにいたシスターが割って入る。


「その“バシュオウト”という人物。ひょっとして、肌の浅黒い筋肉質な体で、青髪青眼の小柄な女性ではないでしょうか」

「えっ……!? は、はい! そうです!!」

「シスター……お前何か知ってんのか!?」

「……バシュオウトは、グリディアン神殿で“土竜(モグラ)叩き”という名の窃盗団に所属していた人物です。一度だけ写真を見たことがあります」


 ステインシギルは暫くティスタウィンクの冷たくなった亡骸を見つめた後、無言で踵を返し工場の出口へと向かう。そして、振り向きざまシスター達にこう告げた。


「気が変わった。お前らが何するかは知らねぇが、俺も同行する」




〜三本腕連合軍 黒雪崩騎士団 県道2号 鳳島輸送方面〜


 ステインシギルの運転する平たいガソリン車は、シスター達3人を乗せて国道を鳳島輸送方面へと走って行く。陽はとっくに沈み、点々と設置された街灯だけが人気のない国道を淡く照らしている。


「俺は正直、ティスタウィンクが死んだとは思ってねぇ」


 助手席に座るシスターは、ハンドルを握ったまま渋い顔で前方を睨み続けるステインシギルに問いかける。


「しかし、ご遺体は確認されたのでしょう?」

「ああ。だが、どうしても腑に落ちない。アイツは勘の良さだけで今日まで生きてきたような奴だ。ヤクザ連中に喧嘩売っても、ストーカーに殺されかけても、それこそ笑顔の国の連中に目ぇ付けられても、何だかんだ良い方に転がして富と力を築いた男だ」

「笑顔の国……。笑顔による文明保安教会にも嫌われていたんですか?」

「嫌われてたどころじゃねー。数年前は笑顔の七人衆が攻めてくるんじゃないかってパニックになった。国中の会社がバタバタ倒産して、この世の終わりかと思ったよ」

「え……!? よ、よく無事でしたね……」

「ただ、どんなピンチになっても本人だけは飄々(ひょうひょう)としてんだよな。災い転じて福と為すっつーか、福欲しさに災いを拾いに行くっつーか。結果の為なら過程はまず顧みない。そーゆー奴だ」


 シスターは良く似た性格の人物を思い出し、若干の軽蔑を込めた視線を本人(ハピネス)に向けようと思ったが、つい最近自分も似たような無茶をしたことも思い出したのでやめた。


 信号待ちで停車すると、ステインシギルはハンドルに両腕と顎を乗せ、物憂げに思い出話を始めた。


「……不幸自慢をするわけじゃあないが、俺は幼い頃、容姿のせいで迫害されたんだ」

「え?」

「すげー頑張って今の容姿があるが、生まれつき結構酷い皮膚病でな。まあ、腐った蜜柑みたいな肌だったんだよ」

「それは……さぞや辛い思いをされたでしょう」

「近所のガキは毎日のように俺を虐めに来た。そのガキ共のグループが幾つかあったんだが、ひとりで俺に会いに来たのはティスタウィンクだけだったな」

「ティスタウィンクさんも、ステインシギルさんを……?」

「笑えるぜ? アイツ、俺の顔を見るなり指差して「君は見せ物小屋に就職するといい!」とか言ってきやがってよ」

「そ、それは……本当ですか? そんな酷いことを?」

「ああ。ただ、ティスタウィンクはマジで俺が見せ物小屋で働けば良いって思ってたらしくてな。ほら、動物園だって自分んトコの動物の世話するだろ? 迫害よりは比較的マシだ。場所選べば金もそれなりに稼げるしな」

「到底理由になりません、そんなの。あまりに酷い発言です」

「そーゆー奴なんだよ。だから敵が多いし、殺されかけたりもする。ただ、妙なカリスマのせいでアレに惹かれる奴も結構いる。そこのゲーマーもそうだろ?」


 後部座席に乗っていたレシャロワークが、数秒経ってから自分に話していたのではないかとゲーム機から顔を上げる。


「え? 呼びましたぁ?」

「呼んでねー」

「はぁい」


 レシャロワークは再びゲーム画面に視線を落とす。信号が赤から青に変わり、ステインシギルが再びアクセルを踏む。次第に景色は工場地帯から商業地帯に変わり、夜道を歩く人の姿も疎ながらに見かけるようになっていく。“鳳島輸送”と書かれた看板を通過し、遠くに目的地と思しき街明かりが見えてくる。


「子供の頃からアイツは敵だらけだ。いつ殺されてもおかしくねー。でも、そんな状況でもヘラヘラ笑って、降りかかる災難を全部避けてきた。

それどころか、災いを全て利益に転じてきた。だからこそ、こんな簡単に死ぬなんて考えられねー。アイツの死でアイツの会社が儲かるわけでもねー。家族が喜ぶわけでもねー。東薊農園が潤うわけでもねー……。本当に、ただ死んだだけだ。なあシスター。その“土竜叩き”っつー窃盗団はデカい組織なのか?」

「……いえ、グリディアン神殿でも比較的小規模な、犯罪組織専門の窃盗団です。グリディアン神殿は武装勢力が多いので、その足元をひょろひょろと駆け回るだけの、文字通り“モグラ”のような存在です」

「そうか……。そんな奴に、本当にそんな奴なんかに、ティスタウィンクは殺されたのか?」

「2本目の路地を右折しろ」

「あ?」


 走行音が響く車内でも、その声はハッキリと聞き取れた。ステインシギルは初めて聞いた声に一瞬疑問を持つも、アクセルに置いていた右足でブレーキを力一杯踏みつけ、ハンドルを捩じ切らんばかりに回して急旋回する。ハピネスの指示した路地は車幅ギリギリの小道で、両脇の建物を車のサイドミラーがガリガリと削る。あまりに急な出来事に対応出来なかったシスターが姿勢を戻す暇もなく、ハピネスが再び指示を口にする。


「もっと加速しろ。右の橋を越えて、通りに出たら左」


 路地に散らばる不法投棄のゴミやガスボンベを弾き飛ばしながら、車は更に加速する。歩行者用の狭い橋を跳ねるように超えて、道路脇の背の低い植え込みを突っ切り大通りに出る。通りを走っていた一般車は、明かりのない暗闇から突然目の前に飛び出してきたステインシギルの車にクラクションを鳴らし急ブレーキを踏むが、減速が間に合わず車体を強く擦る。しかし、ステインシギルはハピネスの指示通り事故車両を気にすることなくアクセルを全開にして通りを疾走していく。


 未だ状況が理解出来ぬシスターだが、その答えを告げるかのようにリアガラスに弾痕が広がる。


「次の交差点を右。左に踏切が見えたら突っ切れ」


 再び車が急旋回し、甲高いブレーキ音と共に遠心力で体が引っ張られる。車の右側に強い衝撃と共に、何者かに放たれたであろう炎魔法が飛び散る。割れた窓ガラスから、他の車両のエンジン音が聞こえてくる。一つや二つではない。人の悲鳴。ガラスの割れる音。発砲音。それらが、自分達の置かれた状況を緩やかに明示していく。


「お前ら掴まれ!!!」


 ステインシギルがギアを入れ替え、一気にエンジンを唸らせる。正面は踏切。遮断機が下がり、右からは電車の明かりが見えている。遮断機を車体でへし折る。電車から警笛が劈く。急ブレーキのために凄烈な金属音が闇夜に響き渡る。ステインシギルの車は間一髪電車の前を擦り抜け、追手を置き去りにした。しかし、安心したのも束の間。ハピネスは声色を一切変えずに再び指示を口にする。


「速度を落とすな。直進して分かれ道を左」

「クソっ!! あとどんだけ逃げりゃいい!?」

「左の後は右折。商店街を突っ切れ」

「クソ!!!」


 息つく間もなく、後方から別の追手が銃弾と魔法弾を放ってくる。幸いにも周囲は造成地区で人の気配はないが、その分建物もない更地ばかりで身を隠す場所はない。


「そろそろ自分の出番ですかねぇ」


 暢気な意気込みと共に、レシャロワークがゲーム機を鞄にしまう。割れた窓ガラスから車外へ這い出し、車の扉に足を引っ掛けて逆さ吊りの状態になる。後方から飛んでくる魔法弾がレシャロワークのすぐ側を掠めていくが、本人は依然としてぼーっとした表情のまま追手に向け手を(かざ)す。


「ヌルいですねぇ。朝起きて電子レンジ開けたら入ってた、いつのか分からないスープよりヌルいですねぇ」


 レシャロワークの手から紫色の光が一瞬煌めき、突如大量の煙を放出した。濃い煙幕は意思があるかのように追っ手へと伸びていき、あっという間に辺りを雲海へと沈めた。


「秘技、“地獄有楽、鬼花火”」


 技名と共に、煙を裂いて紅蓮の花火が追っ手を吹き飛ばした。街灯が僅かに照らすだけの夜道を花火が昼間のように明るく照らし、中を舞うバイクと人影のシルエットをコミカルに縁取る。レシャロワークは「よいしょぉ」と上体を起こし、もぞもぞと車内へと潜り込む。


「レ、レシャロワークさん。ちゃんと強いんですね……」

「まあ、一応診堂クリニックのガードマンですからねぇ。百機夜構とタメ張れるくらいには実力ありますよぉ」

「そう言えばそんな役割でしたね……」

「忘れてたでしょぉ」

「まあ、はい」

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