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シドの国  作者: ×90
診堂クリニック
152/286

151話 疫病の国

〜診堂クリニック 第一診堂中央総合病院 通信室〜


「こちら人道主義自己防衛軍クサリ所属、ジャハル。ベル総統へ繋いで頂きたい」

「こちら人道主義自己防衛軍アマグモ通信班。ジャハル総指揮官、空から降るものをお答え下さい」

「恵と罰」

「確認致しました。ベル総統にお繋ぎ致します」


「こちらベル」

「報告。ホウゴウ院長の正体が判明。彼女は私と同じ“負荷交換”の異能者で、(かつ)て“複製のメインギア”として使奴研究所に隷属させられていた旧文明の元人間です。また、ホウゴウ院長の決定により今まで留保されていた、人道主義自己防衛軍、及び世界ギルド境界の門、狼の群れ、ピガット遺跡の4カ国との協定を締結しました。続いて、ホウゴウ院長単独の判断ではありますが、人道主義自己防衛軍による植民地支配を希望する意思が提示されており、降伏宣言を留保しています」

「植民地とは聞こえが悪いな……。返事はしなくていい」

「それと、ホウゴウ院長からベル総統宛に言伝を預かっています」

「言伝?」

「“遅くなりましたが、ありがとうございました。それと、ごめんなさい”。」

「…………はっ。本当に遅いな。200年前越しじゃあ、最早何に言われてるのか分からんだろうに。お疲れ様ジャハル。良くやった」

「報告は以上です。指示を仰ぎます」

「今、診堂クリニック郊外の火雷川(ひがみなりがわ)まで来ている」

「はい。はい!?」

「事後承認でいい。私1人分の入国許可を受理しておいてくれ」

「え、あ、はい!」


 ジャハルは、通信が切れ無音となった通信機を眺め、驚きと興奮で高鳴る心臓に手を当てる。


「〜っはぁ……! 全く心臓に悪い……! 何で解決前提で飛び出してくるんですかベル様……!」


 自分が頼りにされていた嬉しさと、もしホウゴウの説得に失敗していたらという想像の狭間で揺れ動く心に、ジャハルは何度も深く溜息を吐いた。


〜診堂クリニック 第一診堂中央総合病院 関係者用駐車場〜


 医療従事者が物珍しそうにジャハルを眺め、それでいて関わらないように通り過ぎて行く。ジャハルが視線に気付いていないフリをしながら暫く待っていると、突然目の前の虚空に膨大な魔力を感じた。


「出迎えご苦労。ひとりか?」


 隠蔽(いんぺい)魔法が解除され、ジャハルの(まばた)きと同時にベルが現れる。ジャハルは右手を額に当て敬礼して口を開く。


「現在、ハザクラ総指揮官及びバリア、ラルバ、ラデック、ゾウラ、カガチの6名が、診堂総合病院の各支部制圧に動いています」

「随分豪華なメンバーだな」

「支部長等は世界ギルドや我が国に強い差別意識を持っています。早急に手を打たねば、ホウゴウを囮にして国民達を煽り我々と敵対し続けると予測しました」

「だろうな」


〜診堂クリニック 第一診堂中央総合病院 “遺児(いじ)安置所”〜


「久しぶりだな。ホウゴウ」


 遺児安置所の通路でガラスケースの中を見つめているホウゴウに、ベルが声をかける。すると彼女は、驚きに目を見開いて顔を向けた。


「ベ、ベルさん……!!」

「こりゃまた随分ケッタイなことに金をかけたね。ウチの国民が見たら卒倒するだろうな」


 ベルの後ろでジャハルが大きく頷く。ホウゴウは冷や汗をかきながら狼狽(うろた)えて目を泳がせる。


「ご、ごめんなさい……。わた、私には……これくらいしか、ほ、方法が……」

「ん〜……」


 人道主義とは遠くかけ離れた人間の畑の中で、ベルは特に機嫌を害したような素振りは見せないまま顎を(さす)る。


「ジャハル、ちょっと席外しててくれるか?」

「はい」

「終わったら呼びに行く。待合室でコーヒーでも飲んで待っていてくれ」


 少し不満そうに目を伏せながらも、ジャハルは敬礼してから回れ右をしてエレベーターに向かって行く。仰々しい専用エレベーターの扉が開き、ジャハルを乗せて音もなく上昇していった。


「さて、ホウゴウ」

「は、はい」

「言いたいことは沢山あるんだが……、まずは“コレ”について聞きたい」


 そう言ってベルが手にしたのは、子供が閉じ込められているケースの下に伸びた“赤い紐”。電線のようなゴム質でもなく、ホースのようなプラスチックやビニールでもない。太さは鉛筆より一回り小さいくらいで、感触は柔らかく滑らか、弾力と伸縮性のある生暖かい紐。最も分かりやすい例を挙げるならば、“細切りの生肉”のような――――――――


「そ、それ、は」

「端は子供の腕に貼り付けられているだけか。この子供以外にも、いくつか同じような紐が伸びているケースがあるな」

「あ、あ、えっと、あの」


 ホウゴウは呼吸を乱して視線を泳がせる。その視界の端にはこちらをじっと見つめるベルの顔が微かに映っている。恐らくベルは気付いている。あの“赤い紐”の正体に。それでいて、ホウゴウ自身の口から真実を話させようとしている。


 ホウゴウは昔からベルが嫌いだった。高圧的で、いつも不機嫌そうにしていて、今みたいな意地の悪い問いを投げかけてくる。答えが分かっているなら1人で喋っていればいいのに、態々(わざわざ)こちらに言いづらい事実を口にさせて会話に組み込んでくる。説教という処刑場の建築を咎人(とがびと)自身に手伝わせてくる。ホウゴウの人間時代の上司のように。


 でも、ホウゴウは知っている。ベルは奴らとは違う。ホウゴウという人間を実に良く見てくれている。逃げ癖のあるホウゴウの退路を断ち、己の過ちと向き合う場を用意し、ホウゴウが前に進むための手助けをしてくれている。ジャハルに教えて貰ったベルの真意。誤解。己の弱さ、無能さ。それらが、ホウゴウに少しだけ勇気を与えた。


「あ、あれ、は……。レ、“レシーバー”……です」

「“レシーバー”? 受け手という意味でのレシーバーか?」

「はい……。“存在しない村”から頂いたもので、接触を、中継する、役割を……」

「接触を中継……。コレを使えば、離れたところからでも紐で繋がっている相手と”接触“した判定になるんだな?」

「は、はい……」

「そうか。…………()け口にしたのか」


 ホウゴウは目を力強く(つむ)って頷く。自責の念に縛られ喋れなくなったホウゴウの代わりに、ベルが限りなく真実であろう推測を語り聞かせる。


【疫病の国】


「“大疫病”。大戦争以降に発見された、感染力の強い原因不明の奇病。私がホウゴウと出会った時、お前は辛うじて大疫病を治療出来ると言っていたな。正直に言えば、あの時から薄々気付いてはいた。多分、治療なんかじゃない。異能による誤魔化し。根本的解決じゃない。だが、幾ら待てども治療法は見つからず、お前はこの“誤魔化し”を軸に国を発展させて行くしかなかった。大疫病の発症者の負荷を、負荷交換の異能で遺児に移し替える。ジャハルはまだ出来ないが、複製のメインギアとしての経験があれば、負荷の種類を選択することも可能だろう。そうやって、大疫病を抑え込んできた。定型発達の健常者を救うために、遺児を病気の捌け口にしてきた」


 ホウゴウは顔を両手で覆って(うつむ)いており、その隙間からは涙と鼻水が絶え間なく流れ出ている。


「だ、だって、だって、私には、それぐらい、しか……出来ることが……なかった……!!」

「ホウゴウ。大疫病と呼ばれている病気。症状。……疾走症。溺死病。拷問病。暴食症。イシャイラズ。柘榴腫脹(ざくろしゅちょう)。義殺衝動。鸚鵡(おうむ)症。不知懐胎(しらずかいたい)。舌勃起。溶顔病。博愛譫妄(はくあいせんもう)。私が思うに、これらは恐らく”大戦争で使われた生物兵器による症状“だ」


 ホウゴウが顔を上げる。


「せ、生物兵器……?」

「旧文明で起きた戦争の中で、これらの症状に良く似た生物兵器が使われたことがある。例えば” 不知懐胎(しらずかいたい)”。ドゥオド歴4556年。クァル共和国とヴェンツェル王国の、320年続いた睨み合いの戦争。そこで用いられたクァル共和国の生物兵器、”ラブダーツ4号“。女性がこのウイルスに感染すると、体内で疑似精子を作り出し単独で妊娠してしまう。それどころか、この受精卵は赤ん坊の形にならない上、妊娠期間は数年以上にもなり、仮に受精卵を取り除けても、女性は2度と子供を産めない体になってしまう。これによりヴェンツェル王国は急激な出生率の低下によって崩壊した。その後ラブダーツ4号の研究施設は外部の人間によって解体されたが、大戦争で類似品がばら撒かれていても不思議じゃない」

「じゃ、じゃあ! 原因が分かるなら、治す方法も!」

「ない」

「えっ」

「正確に言うと、なくなってしまった」

「なくなって、しまった……?」

「……私がジャハルにいつも言い聞かせていたことがある。それは、”負荷交換の異能は病気には使ってはいけない”。ということだ」


 ホウゴウの瞳孔が小刻みに揺れ、全身の毛が逆立つ。


「幼かったジャハルが、一度だけ病気を移し替えてしまったことがある。その時に判明したことだが、病気とは“症状”と“治癒”の両方の性質を持った現象らしい。負荷交換の異能で移せるのは負荷だけ。治癒は負荷じゃない。ジャハルが移し替えた病気は、その時点で治癒という性質を奪われ不治の病になってしまったんだ。その時は病気を死刑囚に移すことで何とかなったが……」


 ホウゴウの視界が眩む。耐え難い嘔気と強烈な耳鳴り。重力の方向が曖昧になり、この上ない暑さと寒さを同時に感じる。


「わ、わた、しは。と、とんでもないっ、ことを、し、し、して」

「まあ、そうだな。ウイルスという原因を無くした病気が、当時の感染力を保ったまま、今もどこかで誰かの体内で潜伏している。根絶は困難を極めるだろう」

「そんな……そんな……!!! ああ、ああああっ……!!! ごめんなさい……!! ごめんなさい……!!!」


 その場に泣き崩れるホウゴウ。ベルは彼女を一瞥(いちべつ)すると暫く辺りを見回し、ふと何か思いついたように口を開いた。


「話は変わるが、ホウゴウ。コレはちょっとした蘊蓄なんだが。建国初期の人道主義自己防衛軍で、最も多く起きていた犯罪って何だか知っているか?」

「………………?」


 突然の意図不明の話題に固まるホウゴウ。しかし、ベルは構わず口を開く。


「それは、“児童虐待”だ」

「え……?」

「意外だろう? 人道主義を(うた)う使奴が率いる独裁国家。その中では人道主義もクソもない児童虐待が横行していたんだ。建国から40年50年くらいまでは、窃盗や詐欺等他の犯罪全ての倍近い認知件数があった」

「ど、どうして。人道主義自己防衛軍は、貴方の、使奴のクローンで作られた国じゃないんですか?」

「私も意外だったが、原因はもっと素朴な所にあった。200年前、最初にいたのは私と、使奴研究員のフラム・バルキュリアスの2人。使奴の私は言わずもがな、フラムも相当に頭の良い人間だった。この2人の遺伝子ならば、優秀な人間が生まれるだろう、と。だが、当初の人道主義自己防衛軍は貧しかった。そりゃそうだ。知識知恵こそあれど、畑も港も無いんだからな。研究所から持って来た幾つかの機材は生活の役には立たない。皆仲良く狩猟採集民族に逆戻りだ。そして、貧しさは人を愚かにする。私とフラムには膨大な知識があったが、後から生み出された彼らはそうじゃなかった。中途半端に優秀なせいで、自分より劣っている存在が許せなかった。葛藤を拗らせた結果は散々で、一時は国が傾きかけたこともあった」

「そんなことが……」

「だが、私は画期的な案を考えた。そのお陰で児童虐待は減り、それどころか犯罪件数そのものの発生率も大幅に低下して、心優しく勤勉で優秀な者が多くなった。さて、一体私は何をしたでしょう?」

「……私と同じことをした、訳ないですよね」

「そりゃそうだ。そんなことをしたら国民が黙っていない」

「じゃあ、何をしたんですか」

「親をすり替えたんだ」

「え、お、親……を……!?」

「我が国の一般的な交配方法。それは、親となる2名の遺伝子を医療施設へ送り、人口子宮によって受精卵を生成、成長させ、擬似出産を経て両親の元へ戻される。性別や生殖器の状態によって子作りを左右されない、実に合理的な方法だ。だが、このシステムの最も肝要な部分はそこじゃない。このシステムの最も優秀な部分は、親のすり替え、(もとい)”国民性を操作出来る“所だ」

「何を、言って……」

「心優しく、勤勉で、優秀な者の遺伝子。それを、性格に難のある両親の遺伝子とすり替える。子供と親の容姿が似ていないことについては、使奴の遺伝子による不具合だと嘘をつけば丸く収まった。そうして、我が人道主義自己防衛軍は晴れて理想の人格者集団となることが出来たのだ」

「そ、そんなの、そんなの……!!」


 ホウゴウが勢いよくベルに詰め寄り、胸倉を掴んで引き寄せる。


「そんなの、命への冒涜(ぼうとく)じゃないですか!! それだけじゃない……!! 子供を欲しがった両親への、国民への冒涜です……!! 何で、どうしてそんなことを!!」

「ホウゴウ」

「どうして……どうして……!!」

「ホウゴウ、私はお前に謝らなくてはならない」

「……………………」

「この役を、命の選択をする役を、ホウゴウに押し付けてしまったこと。心の底から申し訳なく思う。すまなかった」

「うっ……ううっ……!!」


 ホウゴウの目から涙が溢れ出る。それは先程までの恐怖や後悔などでなく、優秀だと思っていた使奴が、世界の愚かさに呆気なく負けたことへの悔しさの涙。ホウゴウ自身もとっくに気がついていた。愚かな世界で皆を幸せにするには、割を食う人間を選ぶ必要があることに。


「旧文明は、富める国が貧しい国を搾取し、それぞれの国の中でも、富める者が貧しい者を搾取する。そんな世界だった。世界は放っておけば必ずこの形に収まってしまう。それを避けるには、誰かが、間引かれる人間を決めなくてはならない」


 ベルがホウゴウを抱き締める。それはホウゴウへの慰めでもあったが、自分自身への慰めでもあった。


「私が今までここへ来なかったのは、私が来てもどうしようもないからだ。遺児隔離法を改正しても、待ち受ける問題は同じ。解決方法も同じだ。だったら、使奴のような(まが)い物の人外が指導者になるよりも、ホウゴウのような真っ当な人間が指導者の方がずっと良い……。いや、我儘(わがまま)だな。私も、イチルギも、ヴァルガンも。人間をペット扱いしたくないだの何だのと言っておいて、結局はただの責任逃れだったのかも知れない……。すまなかった、ホウゴウ。こんな辛い役を、お前ひとりに背負わせてしまった」


 ホウゴウはベルを強く抱き締め返し、額を力強く擦り付ける。


「ほ、本当ですよ……!!! こ、こんな、こと。ひとりでやらせるなんて……!!! 一緒に、て、手伝って下さい……!!! ベルさん、達、だって……!!! ううっ……!!! に、人間なんですからっ……!!! わたっ、私がっ、い、異能を使えた時点で、ベルさんだって、人間なんですっ!!! 私達と一緒に、苦しんで、立ち向かって下さいよっ!!!」

「……私が、人間か。そうか。そうだったな。お前はずっと私達を人間として見てくれていたのにな。ごめん、ホウゴウ」




〜診堂クリニック 第四診堂総合病院 院長室 (ラルバ・ラデックサイド)〜


「ア、アンタ達!! こんなことしてどうなるか――――」

「うるさいなぁもう。またバリウム飲ますよ!?」


 ラルバが脅かすように拳を振り上げると、拘束されている女性の老人は身体をビクッと震わせて仰反(のけぞ)った。ジャハルの指示で各地の診堂総合病院支部長の身柄を確保しに出向いていたラルバは、ラデックと共に第四診堂総合病院を訪れていた。


「はぁ〜あ、つまーんなーいの」


 ラルバが院長室の引き出しという引き出しをひっくり返し、見つけた菓子類を片っ端から口に放り込む。


「ん、このチョコうまい! ラデックも食え!」

「あーん」


 ソファで機密書類に目を通していたラデックが口を開けると、ラルバがチョコレートを一粒放り込んだ。


「うん、うん……。うっ。ラルバ、これ、何味だ……?」

「多分……(さば)?」

「しゅごいまじゅい。らひていい?」

「飲み込め勿体無い」

「うう……。んぐっ。こ、これのどこがうまいんだ……?」

「え? すげー不味かったから食わせたかっただけだよ?」

「お前……」


 2人が暢気(のんき)に過ごしていると、そこへ力強く扉を開けてナハルが現れた。


「ラルバ!! ラデック!!」

「うわあすごいおっぱい。目に悪い」

「びっくりした」


 ナハルは慌てた様子で呼吸を乱し2人に詰め寄る。


「シ、シスターを見てないか!? ハピネスも!! ラプーも居ないんだ!!」

「死んだよ」

「そう言えば見てないな。羊煙(ようえん)村での容疑は晴れたのか?」


 ナハルは今にも泣きそうな顔をして事情を説明する。


「わ、私が最初に取調室に呼ばれて、4時間経って解放されたんだ。でも、解放された時、施設にシスター達はもう居なくて……! 出来る限り辺りを調べたけど、何処にも、何処にも居ないんだ……!!」


 興味無さそうなラルバの代わりに、ラデックが首を捻って考え込む。


「使奴が走り回って見つけられない……確かに変だな」

「ラプーがいるからまだ大丈夫かも知れないが……、もしも、もしものことがあったら……!!!」

「うふふふふふ……」


 ナハルの泣き言に、拘束された支部長の女性が北叟笑(ほくそえ)んで笑い声を上げる。ナハルは倒れている支部長に駆け寄って、両肩を勢いよく掴む。


「何か知っているのか!? 話せ!! シスターは何処にいる!?」

「痛い痛いっ!! それがひとにものを頼む態度!?」

「いいから話せ!! 早く!!」

「交換条件!! 私の身の安全を保証することとー、ああ、まずは拘束を解いて頂戴。話はそれから〜」


 ナハルはすぐさま拘束を解き、老人をソファに座らせる。


「解いたぞ!! 早く教えろ!!」

「もう急かさないでっ! ああもうあちこち痛いわぁ〜。そこの赤角と金髪、顔覚えたから。絶対訴えてやるわよ」

「訴えるのも殺すのも好きにしていいから!! 早く教えろ!!」

「その前に煙草(たばこ)を――――――――」


 支部長の女性の眼球目掛けて、ナハルが勢いよくペンを振るう。ペン先は微かに女性の眼球に触れ、そこでぴたりと静止した。


「簡潔明瞭に答えろ。次は刺す」

「わ、わ、分かった、分かったから、ど、どかし、どかして」


 ナハルの怒気に当てられた支部長は、大きく深呼吸をして話し始める。


「そこの青髪の子がいた留置所って、草黄荊(くさきばら)警察署じゃない?」

「ああ。そうだ」

「じゃああの子の管轄ねぇ〜。第二支部の事務長。“ニクジマ・トギ”」

「そいつは今何処にいる!? 何をしている!!」

「第三診堂総合病院の地下の遺児安置所。その奥で、犯罪者相手にオママゴトして遊んでんのよ」

「オママゴト?」

「“臓器ギャンブル”。保釈金が欲しい犯罪者に、臓器を通貨にして賭け事させてんの」

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