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シドの国  作者: ×90
バルコス艦隊
120/285

119話 バリア対カガチ

今まで苦手であまりしてこなかったのですが、今回からなるべくコメントを返していくようにしようと思います。これからもシドの国をよろしくお願いします。

〜バルコス艦隊 高級ホテル“絢爛龍堂”屋上〜


「ありがとう、ファジット」

「ありがとうございます。ファジットさん」

「ぐぁお!」


 ラデックとシスターを乗せたファジットは、2人の指示通りラルバ達の泊まっているホテルの屋上に2人を降ろした。幾ら繁華街とはいえ、午前0時を回った今では街明かりも少なくなっていた。しかし、ラデックは万が一にもファジットが誰かに見つかってはいけないと思い彼の方を見た。


「明日の晩、また会おう。そうだな……竜宮山の(ふもと)、森に囲まれた大きな湖があったな。あそこで待っていてもらえるか?」

「ぐるるるるる……?」

「……すまないが、鳴き声だけじゃ意図がわからない。明日の晩、一緒に人の姿に戻る訓練もしよう」

「……ぐぁおっ」


 ファジットは小さく頷くと、全身を黒く変色させて夜の闇へと溶け込み、ホテルの屋上から飛び降りて静かに空へと羽ばたいていった。


「そうか……皮膚の色を変えれば、蛸みたいな擬態も出来るのか。勉強になるな」

「ラデックさん。私達も急ぎましょう」

「そうだな。ハピネスが見てくれているから、カガチにはとっくに知られているとは思うが……心配するに越したことはない」


〜バルコス艦隊 高級ホテル“絢爛龍堂“ 805号室〜


 ラデックとシスターが駆け足で扉へ近寄りノックしようと手を伸ばすと、それより早く扉が開いてバリアが顔を覗かせた。


「おかえり」

「バリア! カガチはいるか?」

「ん」


 バリアが部屋の中へ2人を案内すると、奥からナハルが心配そうにシスターへと駆け寄ってきた。


「シ、シスター! お怪我はありませんか!? どこか痛むところは!?」

「心配要りませんよナハル。ありがとう」


 ラデック達がリビングに入ると、壁に寄りかかって立ったまま眠っているカガチの姿があった。落ち着いているカガチの様子を見てラデックとシスターがほっと胸を撫で下ろすと、死角にいたハピネスが杖でラデックの頬をつついた。


「痛っ」

「0点だよぉラデック君」

「ハピネス? 起きていたのか」

「ああ。君らに愚痴を言いたいがためにね」


 ハピネスは不貞腐れてゆらゆら揺れながらリビングを歩き回り、冷蔵庫からビールを取り出して一息に飲み干した。


「んぐっ……んぐっ……っくぁ〜! ゲフッ……。ゾウラ君はともかくとして……2人とも、なぁんでハザクラ君を止めなかったのさぁ〜。お陰でこっちは酷い目にあった」

「酷い目?」

「今朝、バリアとカガチがドンパチやったんだよ」

「なんだって!?」


 ラデックが驚いてバリアを見ると、バリアは表情を一切変えないまま小さく首を縦に振る。


「うん。ドンパチやった」

「い、一体何があったんだ?」


 ハピネスは椅子を引いてどっしりと腰掛け、2本目のビールを開栓しながら中空を睨む。


「いやあもう大変だったんだよ? 丁度君らが蛇洗川に向かった頃かな〜」







 13時間前――――


「ナハル!! 来い!!」

「うぇっ!? な、何だ!?」


 昼飯の準備をしようとナハルがキッチンへ行くと、換気のために開けた窓から突如カガチが現れた。


「バルコス艦隊から、ゾウラ様達潜入組4名を竜の調査任務に割り当てるとの発表があった! あのクソガキ……己の正義ごっこにゾウラ様を巻き込むつもりだ……!!」

「え、あ、いや、あの」

「どうした! お前のツレだって、恐らくタダではすまないぞ!」

「そ、そうなんだが、あ、あの、そのだな……」

「……ナハル。お前、何を知ってる? 何を知っていた……!? 言え!!」


 カガチが狼狽するナハルに詰め寄ると、キッチンの入り口からバリアが顔を覗かせた。


「ナハルには言ったよ。そのこと」

「バリア……!!」


 寝ぼけ眼を擦りながら現れたバリアに、カガチは怒りに震えながら接近する。


「あのクソガキはお前のペットだろう……!! 躾がなっていないなら鎖にでも繋いでおけ!!」

「……怒るのも尤もだけど、口の悪さは頭の悪さ。あんまり度が過ぎると、私も怒るよ」


 カガチがバリアの首を片手で鷲掴みにして、そのまま壁へと押し付ける。険悪な2人の様子に、リビングで昼寝をしていたハピネスが慌てて仲裁に入る。


「ちょっとちょっと2人とも! こんなところで争うんじゃないよ! 私に流れ弾が当たったらどうする!!」


 ハピネスの抗議の直後、カガチが真っ黒な大蛇を召喚してバリアを縛り上げた。バリアは一切抵抗することなく拘束されるが、僅かに眉間に皺を寄せてカガチを睨み不快感を表した。


「ナハルにも言ったけど……ハザクラへの不信は私への不信。私、信用ならない?」

「ああ、全くな」


 バリアの眉間の皺が、少しだけ深まる。


「そう……。でも、私はゾウラのこと信じてるよ。あの子との出会いはきっと、ハザクラの視野を広げるいい経験になる」

「ひとの主人を……道具扱いするなっ!!!」


 バリアに絡みついた大蛇が突然膨張し、バリアの魔力を吸い上げ始める。バリアはすぐさま大蛇の胴体を鷲掴みにし、古びた麻縄の如く引き千切った。飛び散った大蛇の破片がハピネスに命中し、彼女は大袈裟に痛がって喚き出す。


「あぁ〜ん痛いよぉ〜!! ナハルもボーッと見てないで止めないか!!」

「え、あ、いや」

「行けっ! ナハル! 全滅インパクト!!」

「私には荷が重い……」

「私にはもっと重いよぉ〜!」


 

 中空から次々に真っ黒な蝉が現れ、4人のいたホテルの一室は一瞬で漆黒へと染め上げられた。カガチの召喚した蝉の大群は壁や床に染み込んで模様のような平面になり、バリアに向かって指向性のエネルギー波を放出した。


「……これは」

「ぎゃあああああああっ!!!」


 流れ弾で苦しむハピネスの絶叫の中、バリアは自身の体に起きた異変を確かめる。波導の運動方向を逆転させる反転魔法、”割れた水瓶“。バリアは体内の魔力が大気へ流出していくのを感じると、小さく息を吐いて異能の度合いを高めた。すると、バリアの絶対防御の異能により波導の運動自体が停止され、魔力の流出は停止した。しかし、それを狙っていたカガチの足元から、真っ黒な蜘蛛が数匹現れバリアへと飛びついた。


「ん」

「魔法ナシで私に勝とうとは、甘く見られたものだな」


 蜘蛛はバリアと接触するや否や身体を細く変形させ、細く長い槍のような形になっていく。槍はバリアの体を貫き、まるでウニのように四方八方へと伸びてバリアを拘束する。バリアが槍を折ろうと手を伸ばすが、槍はまるでそこにないかのようにバリアの手をすり抜ける。しかし、バリアが身を捩れば槍は一緒に動いて部屋の壁や天井に大きな傷をつけた。


「ちょ、ちょっとバリア! 危ない! 私に当たる!」


 バリアが身体を動かすたびに振り回される槍に怯えて、ハピネスがナハルの後ろに隠れながら喚く。カガチはバリアを訝しげに睨んでから、背を向け捨て台詞を吐いた。


「その格好じゃ、街どころか部屋も出られんだろう。私がハザクラを殺すのをそこで見ていろ」

「行かせないよ」

「なんだ? ホテルに風穴でも開けるつもりか? 私は気にしないが……お前のツレがなんと言うかな」


 そう言ってカガチが部屋の出口の扉に手をかける。


「……チッ」


 カガチは扉が“全く動かない”ことに舌打ちをして、バリアの方へ振り向いた。


「いつまで“こうして”いるつもりだ?」


 ホテル全体はバリアの異能によって、まるで時が止まったかのように動かなくなっていた。半開きの扉やエレベーター等の設備は使奴の怪力を以ってしても決して動くことはなく、ホテルの中にいる者は例外なく閉じ込められることになった。カガチの呆れた物言いに、バリアは触れない槍に貫かれたまま淡々と答える。


「ハザクラの作戦が終わるまで」

「このホテルに、一体どれほどの人間がいると思っている」

「人間、丸一日くらい飲まず食わずでも死なないよ」

「バリアっ……!!!」


 バリアが聞く耳を持たないと分かると、カガチは今度はハピネスの方へ手を翳した。


「私ぃ!?」

「異能を解かなければ、この女を殺す!!!」

「いいよ」

「バリアちゃん!?」


 一抹の心配もされないことに、ハピネスはその場に倒れ込んで床を転げ回る。


「やだやだやだやだぁ!!! 死にたくない死にたくない死にたくないよ〜!!! こんなつまんないところでつまんない理由で死にたくないよ〜!!!」


 駄々っ子のようにのたうち回るハピネスを、カガチが首根っこを掴んで持ち上げ憐れみの目を向ける。


「気の毒だな」

「主にお前のせいでな!!!」


 ハピネスの遺言を聞き届けたカガチが手に魔力を込める。その瞬間、ナハルがカガチの腕を弱々しく掴んだ。カガチは咄嗟に攻撃を中断し、ナハルを睨みつけた。


「この売女が……!! 殺されたいのか……!?」

「いいぞナハル! ぶっ殺スマッシュだ!」


 ナハルは何も言わず、カガチに怯えた目を向ける。そして、少しの沈黙を挟み口を開いた。


「わ、私も、今回の件については不介入が妥当だと思う」

「お前のツレも死ぬかもしれないぞ」

「ハザクラはそんなことしない。それに……これはカガチのためでもあるんだ」

「ありがた迷惑甚だしいな」

「カガチと言うより……ゾウラのためだ。カガチだって分かってるんだろう? ゾウラが“あのまま”じゃあダメだって……」

「……お前に何かを言われる筋合いはない」

「それに、ハピネスは真実を分かっててずっと黙っていてくれたんだ。それをこんな形で返すのは……あんまりじゃないのか?」

「そうだぞカガチ!! 労わり給え!! 労わり労い慈しみ給えよ!!」

「それはコイツの趣味趣向だろう」

「ハピネスだけじゃない。ラルバも、多分イチルギも気付いてる。みんな気付いてて放っておいてくれたんだ」

「頼んでない」

「“ゴウカ”ならきっとこうする。“リーダー”でもきっと……」

「っ……」


 カガチは舌打ちをしてから怯んだように顔を顰め、恨めし気にナハルを睨みつける。


「…………思い上がるなよ。“ジェリー”」


 そう言うとカガチはハピネスを床に放り投げて背を向けた。


「いでっ」


 バリアの体を貫いていた槍と部屋中を覆っていた黒い物質が消滅し、カガチの纏っていた威圧的な波導が穏やかに萎んでいった。カガチはそのまま腕を組んで部屋の隅に寄りかかると、立ったまま静かに寝息を立て始めた。ハピネスがすぐさまカガチに駆け寄り、彼女に敵意がないことを確認すると、腹癒(はらい)せと言わんばかりにローキックを放った。


「おらっ! 私を労われっ! 慈しめっ!」


 バリアは手を握ったり開いたりして体の具合を確かめ、腕を大きく回してから欠伸を零す。ナハルもバリアの背を撫でながら身体の様子を確認し、異常がないことにホッと胸を撫で下ろした。


「……やっぱり、もっと早くカガチにも知らせておいた方が良かったんじゃないのか? ハザクラの作戦も、遅かれ早かれバレることは分かっていただろう」

「ん〜……」

「ハザクラを襲う前に私を誘いに来たから良かったものの、直接ハザクラの方へ向かっていたらどうなっていたことか……」

「私に気を遣ってくれたんじゃないかな」

「……そうか?」

「カガチはああ見えて、意外と他人思いなところがある。ゴウカに似たのかな」


 眠っているはずのカガチの足元から一匹の黒い蝸牛(カタツムリ)が出現し、突如銃弾のようにバリアに突進した。バリアの眼球に命中した蝸牛(カタツムリ)の弾丸はピンポン玉のように跳ね返され、部屋の中を数回跳弾した後ハピネスの(ヘソ)へと命中した。


「うっ」


 短い呻き声を上げてハピネスが倒れる。バリアとナハルは互いに顔を見合わせ、これ以上カガチの機嫌を損ねないよう静かにその場を離れた。







「ってなことがあってだね。いやあ迷惑したなぁ。本当に迷惑」


 ハピネスの話を聞き終えると、ラデックは唖然としてバリアを見つめた。


「何?」

「……色々聞きたいことが山ほどあるが、まずはハザクラの無事を喜ぶべきか」

「そうだね」

「……正直言って、俺はハザクラの案には反対だ。幾ら世界平和のためとは言え、子供1人を絶望に陥れていい筈がない」

「うん。私もそう思うよ」

「何だって?」


 ラデックが再び怪訝そうな顔をすると、バリアは眠っているカガチの方を向いて口を開いた。


「ハザクラは今視野が大分狭まってる。それを理論理屈で説き伏せるのは簡単だけど、自分で気付かせるのが成長には一番イイ。今回私やベルやラルバがハザクラの作戦を承諾したのは、一回躓かせてハザクラに自分の立ち位置を見定めさせるためだよ」

「……それを聞いて安心した」


 ラデックは大きく息を吐いて椅子に深く腰をかける。すると、シスターが訝しげに眉を顰めバリアに問いかけた。


「え? ちょっと待って下さい。バリアさん」

「ん? 何?」

「今“ラルバが”って言いましたか? 彼女もハザクラさんの成長のために協力していたんですか?」

「そうだよ。と言うより、私やベルよりも積極的だったのはラルバだよ。何せ、このために自分の目的を後回しにして 1ヶ月もこの国に滞在することを許可したんだから」

「一体どういう風の吹き回しでしょうか……。ラルバさんにとって、正義漢のハザクラさんは厄介者ではないんですか?」

「寝食共にすればって感じかな。今頃仕上げに入ってると思うよ」

「仕上げ?」


 突然ハピネスが笑い出し、怪しく北叟笑(ほくそえ)んでシスターに目を向けた。


「ハザクラ君への模範解答の提示さ」

「も、模範解答?」

「楽しみにしてるといい。祭りは明日14時だ」




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[良い点] ハピネスが終始被害者なところ
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