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アドミニストレーターズ! 2  作者: 椎名 典明
10/10

エピローグ2

プロローグ+全5章+エピローグのうちのエピローグです

――アドミニストレーターズ本部。局長室。

座る伊達局長の前に、葉山総司が直立している。


「報告書を読んだ。アドミニストレーターNo79<石のような物体>は滅失か」

「はい。当該アドミの危険性を考慮した結果、宇宙に廃棄するのが最も安全な廃棄方法と判断しました」

「なるほど。都合よく迫ったJAEXAの探査機打ち上げ。その探査機に一般人が物を詰め込める計画。時間は少なく、制約もあったが、上手く利用し最善の結果を出したな」


 伊達は破顔して葉山に柔らかい口調で言う。


「お褒めにあずかり……」


 ――伊達局長が人を褒めるなど、珍しいこともあるものだ。しかし、今回は完全な仕事をしたという自負もある。葉山は胸を撫でおろして、光栄です、と続けようとしたとき。


「などと言うとでも思ったか? 無能が……」


 急に、伊達の口調が冷たく、表情は暗いものへと変わる。

 まるで深淵から響いてくるようなその声に、弛緩していた葉山の心が一瞬で凍り付いた。


「は、は? いえ……」

「葉山……お前は恐らく自分が最善の行動を取ったと思っているな。しかしそれは間違いだ。お前は私の命令を正しく理解できなかった」


 射貫くような視線で伊達は葉山の瞳を見据える。

 それだけで葉山は何も言えなくなる。動揺。不安。自分がどのような過ちを犯したのか、いくら考えても分からない。

 この男に比べれば、自分など「特別」ではない。対峙する度にいつも思い知らされる。


「私がお前にどのような命令を下したか覚えているか」

「は。アドミを持ち帰れば本部の場所が特定される可能性がある。一次接触者が存在する限り本部に当該アドミを持ち帰るな。お前の手で責任を持って処理せよ、という命令だったかと」

「その通りだ。何故、お前は処理をしなかった?」

「は? い、いえ、私はアドミを適切に処理したと考えておりますが」

「何故アドミを処理した。お前は私の命令の目的語を履き違えた」

「は……?」



「お前が処理するべきは一次接触者の方だった」



「…………!」

「この案件の最善は、一次接触者を排除し、当該アドミ<石のような物体>を安全に本部に持ち帰ることだった……。お前が取ったのはせいぜい次善策だ。貴重な研究対象である非自発的行動型かつ小型のアドミを滅失させるとは、何たる失態だ」

「し、しかし、それは……」

「人間を自ら処理することに抵抗があるとでも言うのか。ならば当該一次接触者を本部に連れて来るべきだった。我々の実験動物はいくらあっても足りん。よもや知らぬとは言うまいな?」

「しかし、一次接触者とはいえ、罪のない一般人を処理しろなど……」

「あのアドミを研究し、アドミの謎を解明することで、一体これからいくらの人間を救える可能性があると思っているのだ? 蒙が啓いていない者はいつもそうだ。目に映るものしか見えない。感じられない」

「…………」

「ふん……まぁいい。お前の甘さなど分かっていたことだ」

「申し訳……ありません」

「いい。葉山調査員は、次の命令があるまで待機せよ――ああ、いや待て。そうだな……お前にそろそろ話しておかなければならないことと報告してもらわねばならぬ事項があったな」

「……は?」


 待機と言われて、後ろを振り向きかけた葉山は足を止める。


「葉山、お前は運命決定論についてどう思う?」

「運命決定論……ですか」


 足を止められたかと思えば、突如、観念的な話を振られて伊達の真意が掴めず、葉山は伊達の言葉を復唱する。


「そうだ。アリストテレスの始動因から始まり、二千年以上議論されている問題だ。すなわち、運命は決まっているのか、そうではないのかについて、だ。物理法則が全て確定的であるなら、この世の全ての事象は今後どうなるか計算が可能だし、決まっているはずだ、と」

「……聞きかじり程度の知識しかありませんが、ラプラスの提唱した問題などはもちろん知っています。ただ、量子力学……ボルンの確率規則的には現時点では否定されている問題かと」

「そうだな。ただし、それはあくまで現時点ではそう考えられる、という話でしかない。天動説はあくまで当時の天文学からすれば正しい知見と計算のもとで提唱されていた常識だ。今後、コペルニクス的転回が同様に起こらないとは言い切れない」

「局長は、運命が決まっているとお考えなのですか?」

「葉山……お前はなぜ、我々がアドミの出現場所を予測できるのか知っているか?」

「は? さぁ。預言書がどうとか、噂で聞いたことがありますが」

 伊達局長が突然話題を変えたことに葉山は困惑するが、そのまま会話を続ける。

「概ね当たっている。アドミニストレーターズ本部には、この先どこにアドミが出現するか記されたレポートが存在する。本部内のコールドスリープ室……知っているだろう?」

「それは、まぁ」

「そこに眠る男からもたらされたものだ」

「そうですか」

「……興味がなさそうだな?」

「どうせ、アドミの力を使って作られたものだろう、と想像できます」

「なるほど」

「何故あなたが突然そんな話を始めたのかは気になりますが。あと、コールドスリープは目覚めるときに本人は死亡するのでは、と」

「死なん。絶対に死んではおらん」

「……コールドスリープが実用化されているなど聞いたことがない。その装置自体がアドミなのですか?」

「違う。だがその男は死なん。絶対にな」

「どういう理屈なのでしょう。常識的に考えてあり得ませんが」

「その男は不老不死だからな。お前と同じく」

「なっ……⁉」

「驚いたか?」

「ま、まともに話せる状態……人としての知性を保ったままの不老不死ですか」

「無論だ」

「し、しかし、不老不死なのにコールドスリープで眠るとは矛盾があります。そんな必要はないはずでは」

「……………………」


 伊達局長は後ろを向いて窓の外を眺めながら続ける。

「お前は近く、その男の正体を知ることになる。そのときお前は、運命に従うのか、抗うのか……私はそれが知りたい」

「は、私が、ですか?」

「そうだ。……ときに、四条汐音についての件だが」

「……は」


 四条汐音。

 その単語を出されて、葉山総司は緊張を深める。


「経過観察の結果について報告せよ」

「……この一か月、観察を続けてきましたが、対象が<スワンプルーム>の端末であると疑われる要素はありません。<スワンプルーム>本体への誘引行動も見られず、四条汐音に通常の人間と異なる活動はなんら見られません。追って報告書を提出いたしますが、彼女が端末である可能性は低いかと」

「ふむ……」


 伊達局長は、振り返り、葉山総司の目を見据えると、たっぷり十秒ほど間を置いて続ける。


「葉山よ……何故お前は、四条汐音の過去を調べたことを隠している?」

「は。それは……」

「お前は四条汐音の過去を人を使って調べたはずだ。その調査結果はどうした?」

「いえ、それは……」

「私が代わりに答えよう。四条汐音は幼少期には現在より暗然たる性格をしていた。そのせいで苛めにも遭っていたようだな。しかし、いつからか急に人当たりが良くなり、現在の性格へとなった。この原因は分かるか?」

「……人間の性格が変わるなど、よくあることです。特に幼少期は」

「<スワンプルーム>に作り出された端末は、性格が明朗になる。お前の報告書に書いてあったことだが」

「……それは」

「加えて吉田浩平調査員見習いへの<スワンプルーム>への誘引行動。そして、何故か<スワンプルーム>の補食対象として選ばれないこと……状況証拠としては十分過ぎる。四条汐音は幼少期に<スワンプルーム>に補食され、現在の彼女は作り出された端末である可能性が極めて高い」

「………………」

「葉山よ。もう一度聞こう。何故お前は四条汐音の過去の調査結果について報告しなかった?」

「………………」

「まさか、調査対象に情が移ったとは言うまいな? ただ人の形をしているだけのアドミの端末に……?」

「いえ……まさか」

「ならばよし。あと一か月だ」

「は?」

「あと一か月で、四条汐音は端末にあらずという確たる反証が出ない限り、状況証拠十分として対象を<スワンプルーム>の端末と判断。拘束の上、アドミニストレーターズ内部で身体及び精神の精密調査をすることとする」

「っ……!」

「返事はどうした」

「……はい。了解しました。引き続き、経過観察を続けます」


 葉山総司は奥歯を噛み締めながら答える。


「よろしい。退出してよし」


 伊達局長に言われる前に、葉山総司は局長に背を向けていた。

 葉山は、歯が破砕するのではないかと思われるほど、奥歯を噛み締めていた。


読んでくれてありがとうございました。続きは良い感じのプロットが出来れば。


相変わらず後味最悪だな?

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