撲殺救世主
「やれやれだぜ」
和哉は、どうにか倒した武者に敬意を払う。そこに聖女がやって来た。
「あなたが救世主様ですね?」
いきなり左手を掴まれて、うっとりした視線で見詰められた和哉は、赤面して狼狽した。
「き、きゅ、救世主様だなんて、そんな大層なものじゃない」
「随分と謙遜なさるのですね、素敵です」
聖女に微笑み掛けられて、和哉のハートは完全に撃ち抜かれた。
「いや~、それほどでも」
幼稚園児(注1)に退行しそうになりながら、和哉は後頭部を搔く。
などと二人がやっている間に、地面に倒れていた武者が動き始めた。
「あら、どうしましょう?」
「心配無用です。こんなこともあろうかと、既にこの武者は動けないよう縛り上げてあります」
和哉の宣言通り、武者は後ろ手どころか、亀甲縛り(注2)にされていた。しかも教会の屋根から宙吊り(注3)である。流石に、この状況に呆然とする二人。
「救世主様、この縛り方は?」
「相手の抵抗する意思を奪う縛り方です」
どうしてこうなったと思いつつ和哉は、武者の完全兜を脱がせようと、兜に手を掛けた。
「さて、どんな奴か、ご尊顔を拝見だ」
兜の下には、これまた美形があった。だがその視線には憎しみが込められている。
「俺に負けたのが、そんなに悔しいか?」
「違う。この御方をお連れできなかったのが悔しいだけだ」
どうやら騎馬武者は聖女を連れ去ろうとしていたようだ。
「それにしては、勢いが強かったように思うが?」
「この御方に生半可な方法は通用しない。だから全力で仕掛けたのに、あのような落とし穴があるとは、思いも寄らなかった」
「うん、まあ諦めてくれ」
和哉は、この後をどうしようか迷っていた。聖女はニッコリと微笑むと、どこから持ち出したのか一振りの剣を握っている。
「それではジョアンヌ、お帰りなさい」
一閃。騎馬武者の首は宙に舞っていた。
「え?」
「この世界では、死は一時の休息です。夕方には復帰しますから安心して下さい」
驚いた和哉に聖女は微笑み掛ける。
「こうして、命を奪った陣営に所属するのです。ですから闘争が終わらない不毛な世界になってしまいました」
「つまり、全員を俺が倒せば、歯向かう陣営もいなくなって闘争も終わるのか?」
沈んだ表情の聖女に問い掛けると、驚いたように目を丸くしている。
「その発想はありませんでした」
「じゃあ、連中もこちらの陣営に叩き込みましょう」
教会を取り巻くように迫る兵士の群れ。和哉は金属バットを握り直すと、不敵に笑った。
「うるぁー!」
和哉は華麗な足運びで兵士の中を縦横無尽に駆け回る。気分は無双武将(注4)だ。押し寄せる兵士を数十人ほど殴り倒したところで息が上がる。
「全盛期なら百人は楽勝だったのにな」
夏場の強化合宿では一時間ぐらい素振りしていたのを思い出して和哉は気合を入れ直した。兵士の半分近くを倒したところで限界に近づく。大きく肩で息をする彼を取り巻いて、兵士たちは仕掛けるタイミングを計っていた。
「へへへ、こんなこともあろうかと、体力回復の薬を持って来たんだよ」
制服のポケットに左手を突っ込むと、そこに硬い感触がある。薬剤と判断して、和哉はその中身を一気に喉の奥へ流し込んだ。
「今だ、かかれ!」
「おおう!」
兵士たちが一斉に襲い掛かる。和哉はそれを俊敏な動きで躱した。
「体力回復完了だ、覚悟しろ」
兵士たちを一人残らず叩きのめして和哉は悠々と教会へ戻って来た。
「流石は救世主様、ボク、感動しました」
「朝飯前だ」
金属バットを背中に戻して、彼は白い歯を輝かせた。
声の想定
・桐下 和哉 鈴木達央さん
・聖女クリス 小林ゆうさん
・ジョアンヌ 河瀬茉希さん
注1 幼稚園児
人気者のあの幼稚園児である。
タマネギ食べれる。
注2 亀甲縛り
元々は米などの粒状荷物を運ぶ際に行われた縄掛け方法。
江戸時代に捕縛術の一環で縄掛け方法が研究され、女縛りの一種として発展。昭和の戦後に嗜虐性向を満たす縛り方として定着してゆく。
注3 宙吊り
具体的な状況を知りたい方は、【亀甲縛り リラックマ】で検索すると、宙吊りされた画像を見ることができるはず。
注4 無双武将
流石に金属バットを振り回す無双武将はいないが、鞭や打棒、砕棒などを振り回す武将が数人存在する。
真・三国無双5の夏侯惇が棘付の砕棒を扱う姿を見て、『撲殺天使ドクロちゃん』をBGMにしたのは、君と僕だけの秘密だ。